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37 おにぎり何で包む?

 さて、大量の玉子焼きを作る一方で、ご飯も順調に炊き上がっていた。フライパンを操るルカの背後では、マリナがソウマを手伝いながら、同時進行で鍋の様子を確認している。既に1度鍋を交換済みで、現在ポータブルコンロに乗るのは第二陣だった。第一陣の3つの鍋は、ちょうど蒸らし時間が終わったらしく、マリナが木べらでかき混ぜて味をみている。


「上手く炊けましたけど、これ如何しましょう。おにぎりって、ご飯が熱いうちに握ったほうが良かったですよね」

「そうなのかい?だったら玉子焼きは一旦保留にして、おにぎり作ろうか」

「第一陣はそのまま小分けにしたら?おにぎりはユウキとケイが帰って来てから、一斉に作れば?」

「そうですね。白ご飯も欲しくなりますし、小分けにするだけならワタシ1人でも大丈夫ですから」

「じゃあ、ご飯はマリナにお願いするよ。僕は引き続き卵担当だね」


 マリナが1食分ずつのご飯を、仕切りのついたランチボックスに詰めてゆく。日本の『わっぱ』に似た木製のランチボックスだ。プラスチックも存在しないので、こちらのランチボックスは木製か金属製になる。

 ルカは合金製のランチボックスしか持っていないが、冒険者は荷物を減らすために使い捨ての木製ランチボックスを選ぶことが多い。軽いし、食べ終わったら薪に使えるので合理的なのだそうだ。洗い物に使う水だけでなく、薪も必ず確保出来るとは限らないので。


「あ、マリナ、ご飯を少し残しといて。後でチャーハンにするから」

「お昼ご飯用ですか?」

「チャーハンおにぎりにしようかと」

「ルカ、ケチャップライスも欲しいんだけど」

「分かったー。だと包むのに薄焼き卵が要るかなー」


 この世界に海苔は無い。大葉やおぼろ昆布も発見出来ていない。和風出汁が取れる昆布もどきを乾燥させて削ればおぼろ昆布になるかもしれないが、熟練の職人技が必要な作業だ。一朝一夕にはいかない。

 となると、おにぎりを包むのは薄焼き卵か葉野菜か、薄切り肉で巻いて肉巻きおにぎりにするかだ。包まないという選択肢もあるが、冒険中は歩きながらご飯を食べる事もあるそうなので、ご飯が崩れないようにしたいのだとか。サランラップやアルミホイルも存在しないため、一口サイズのご飯を食材で包んであるのが理想だと、ユウキが熱く語っていた。彼女は何度か食べ掛けのおにぎりを落とし、悔しい思いをしたらしい。


 そのユウキとケイが、昼前に買い出しから戻って来た。


「うおっ、玉子焼きの山だ」

「うわー!いっぱいある、ありがとう!」

「おかえりー」


 そろそろ第二陣のご飯も炊けそうだ。


 ユウキ達4人がおにぎりを握る間、ルカは皆の希望を聞きつつ具材や食材を準備する係になった。まずはシンプルな塩むすびを、青菜の塩漬けで包んだおにぎり。各自自分の口の大きさに合わせて、おにぎりを作ってゆく。


「ルカの分、ワタシが作りましょうか?」

「良いの?皆の冒険中の保存食なのに」

「これだけ手伝ってもらってるんだから、ルカのも作ろうよ!」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、種類毎に1つずつお願い」


 マリナの一口サイズは小さくて、ルカのランチボックスに手まり寿司のような可愛らしいおにぎりが入れられる。次のおにぎりはツナマヨを具に、レタスで巻いた。それからベーコンとコーンを具にし、薄焼き卵で巻いたおにぎりを作って第二陣のご飯は終了だ。


 昼食は適当にテーブルの上のおにぎりや玉子焼きの端っこを摘み、午後からもひたすらおにぎり作りに専念する。午前中に話していたチャーハンおにぎりやオムライス風おにぎり、チーズを混ぜて生ハムを巻いたもの。焼いたサーモンを具にきゅうりの浅漬けで巻いたり、逆に塩もみきゅうりをご飯に混ぜてスモークサーモンで巻いたり。肉巻きおにぎりも数種類作った。カレー風味おにぎりはキャベツで包み、洋風おにぎりばかりだとの不満には貴重な醤油の焼きおにぎりで対抗した。


 結果、玉子焼きどころではない大量生産されたおにぎりが、台所を占拠した。


「圧巻だね」

「お店が開けそう」

「売らねーよ!俺らの命綱!」

「とか言って、可愛い子が困ってたら差し出すんでしょー」

「それはお前だろ!いつも大事な食料ぽんぽん人にやるのはユウキだろーが!」

「さすが勇者、人助けの達人だよね」


 所狭しと並んだおにぎりは、どれもこれも美味しそうだ。おにぎりの可能性も無限だった。日本だと、もっと珍しいおにぎりもコンビニで売ってたなぁと、ルカは思い出に浸る。肉味噌のおにぎりが食べたい。おかかのおにぎりも。ルカの思い出は八割方食べ物が占めていた。


「ルカ、これ」


 マリナからそっと渡されたランチボックスには、小さなおにぎりが綺麗に詰めてあった。配色まで考えられていて、見事なグラデーションになっている。なんて女子力。色気より食い気のルカには無いものを、マリナは確実に持っている。


「可愛い!ありがとう、大事に食べるよ」

「ワタシも、ルカがたくさん手伝ってくれたお弁当、大事に食べますね」


 マリナがふんわりと笑い、そのあまりの美しさにルカの心は撃ち抜かれた。思わずランチボックスを捧げ持ち、マリナを崇拝する信者達の心境を体験してしまったルカ。今ならマリナ教に入信してしまいそうだ。

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