36 玉子焼き各種
連休最終日、今日は朝から総出でお弁当作りの日だ。台所に立つのはルカとマリナとソウマの3人。ひとまずこのメンバーで、手持ちの食材で作れる物を作ってゆく。
ケイとユウキは買い出し組だ。昨晩皆でリストアップした食材と、そのまま食べられるテイクアウト料理を仕入れに朝早くから出掛けている。今日は安息日なので市場が立っているはずだ。食材を大量に安く仕入れるには絶好の日だし、市場の客目当ての屋台で串焼きや揚げ芋が買えるだろう。
「ワタシは先にご飯を炊きますね」
「お願いー」
ご飯を炊くのだけは上手なユウキがいないので、マリナが吸水したお米の入った鍋をポータブルコンロにかける。テーブルに設置されたポータブルコンロは3つで、その全てが炊飯用に使われる予定だ。3つのポータブルコンロを1日フル回転させて、炊いたご飯をおにぎりにするのだ。
その隣ではソウマが玉子焼き用に、大量の卵を割っている。お弁当といえば玉子焼きは必須だとの意見の一致をみたので、玉子焼きがたくさん必要なのだ。卵は1つずつ小さな器で割って、異常がなければボウルに移している。ルカが鑑定で確認のうえマリナが浄化魔法も掛けているが、目視は大切だ。
ルカはソウマが割って溶きほぐした卵を、ひたすら玉子焼きにする係だ。玉子焼き用のフライパンが無いので、普通のフライパンで焼く。フライパンを熱して油を引き、溶き卵を流し込むとジュッと音が鳴った。この音が鳴らないと、卵液がフライパンから綺麗に離れない。異世界にテフロン加工とかフッ素加工とかの技術はまだ無かった。
卵の表面がプクプクして端が乾いてきたら、フライ返しでそっと捲ってみる。上手く剥がれそうなら奥から手前に巻いてゆく。玉子焼き作りは、この世界に来てから上達した。醤油や味噌などの和食材がなくても作れる和食っぽい料理なので、ちょくちょく作っていたからだ。
巻き終わった玉子焼きをフライパンの奥へ押しやり、空いた所に油を引いて卵液をまた流し込む。固まってきたらまた巻いて、それらをもう一度繰り返す。丸いフライパンで作ると、如何しても端っこの部分の厚みがなくなるが、そこは切り分けた時の味見用だ。
「ルカ、お米仕掛けたから手伝います」
「ありがとー。ちょうど第一弾が焼けたとこ」
まな板の上に移した玉子焼きをマリナが切り分けた。渡された玉子焼きの端っこを口に入れ、料理する者の特権である味見を享受する。玉子の味と混ざり合った控えめな砂糖の甘さ。ルカの家の玉子焼きは、砂糖とちょっぴりの塩で味付けた甘い玉子焼きだった。
「うーん、もうちょっと甘い方が好きだな」
「ワタシはこれ位がちょうど良いですよ」
「僕のウチは玉子焼きは塩味だったなあ」
玉子焼きは各家庭で味付けがかなり違う。以前お弁当に甘い玉子焼きを持っていったら、甘いとご飯のおかずにならないと言われた事がある。でもルカにとっての玉子焼きは甘い物なのだ。食べる本人にとって美味しければ良いじゃんと、内心不満に思った出来事だった。
マリナの賛同を得られたので、次も甘い玉子焼きにする。さっきよりも気持ちだけ砂糖を多くしたので、さっきよりも魔導コンロの火を弱くした。砂糖入りの玉子焼きは焦げやすいので。
「ソウマ、卵4個で玉子焼き1つ分だった」
「了解。次から卵4個ずつボウルに入れとくよ」
「うん、あと味付けもお願いして良い?」
ルカがフライパンに掛かり切りになるので、焼く作業以外は2人に任せることにする。ソウマはマリナと相談しながら、色々なバリエーションの味付けをしてきた。塩味、醤油味、出汁入り、マヨネーズ入りと来て、次は油をゴマ油に、その次はバターに変えるよう指示が飛ぶ。更には玉子焼きに入れる具材も準備され始めた。ツナやハム、茹でたほうれん草や人参、チーズとトマトが一緒に入ったイタリアンな物まで。
「なめ茸があればなー。なめ茸入れた玉子焼き、美味しいのに」
「ワタシは韓国海苔を一緒に巻いたのが好きでした。明太子とかも美味しいですよね」
既にテーブルに山となっている玉子焼きだが、まだまだアレンジは尽きなさそうだ。玉子焼きには無限の可能性がある。ルカも納豆入れたいなーと思ったが、あれは家族でさえ賛否両論だったので、そっと胸の内にしまっておいた。そもそも納豆が無いのだが。
「ねえ、結構たくさん作ったけど、まだ必要?」
「たぶん足りないと思うよ。今回の依頼は時間掛かりそうだから」
「そうなの?」
「うん。依頼された量が多くてさ。大量の食材が必要だから、アイテムボックス持ちばかりの僕達に依頼が来たってのもあるんだ」
「あー、輸送の問題もあるからかー」
食材採集クエストは、難易度が低く報酬が高額でも受ける冒険者が少ない。依頼された物によっては採集より運搬が大変だからだ。魔石や魔法を使って保冷や冷凍して運べるものならまだ良い方で、採集から1日で腐るのに冷凍冷蔵すると味がガクンと落ちたり、時間経過と共に毒素が生成されたりする物だと、それこそ時間停止機能付きの異空間収納持ちじゃないとお手上げなのだ。
「最低でも1ヶ月位は掛かるんじゃないかな。その間はダンジョンに潜りっぱなしになりそうだから」
「だったら全然足りないね。頑張るよ!」
ダンジョンの中では簡単な煮炊きしか出来ないと聞く。セーフティゾーンでキャンプを張るにしても、昼食分くらいはお弁当で賄いたいところだ。1ヶ月4人分のお弁当には、玉子焼きがもっと必要だった。
ルカは気合いを入れ直し、再び玉子焼き作りに集中した。




