33 基本の肉玉うどん
「ごめんなさい……」
延々と広島風お好み焼きについての講釈を垂れていたマリナが、ふと我に帰ったらしく、真っ赤になって謝った。深々と頭を下げるマリナに対し、ユウキはまだ少し腰が引けている。高レベルの勇者様でも恐怖を感じるんだなと、ルカは現実逃避気味に考えた。いやレベルが高いからこそ、危険判定が正確なのかもしれない。
「ううん、こっちこそごめん、マリナ。アタシ、広し……ま風お好み焼きに対する地元の人の愛情が、そこまで深いとは思わなくて」
懲りずに禁句を口にしかけたユウキだが、ルカがブンブン首を横に振って修正させた。間に合って良かった。これ以上お好み焼きのうんちくを聞くのは遠慮したい。
「それより、中華麺って今まで探してなかったよね。何処かで作ってないかなー」
「ラーメン食べたいよね!」
お好み焼きから離れたくて、ルカが逸らした話題にユウキが全力で乗っかってきた。気持ちは一つだ。この場を穏便に済ませたい。
「ラーメンも食べたいですね。でも、中華麺が無くてもうどんを使えばお好み焼きは作れますよ」
マリナは如何してもお好み焼きが食べたいようだ。怒らせてしまったお詫びに、夕食は広島風お好み焼きにするべきか。ユウキとアイコンタクトを取り、マリナのご機嫌取りにシフトチェンジする。うんちくはもうお腹いっぱいだけど、聞いているうちにお好み焼きが食べたくなったのも事実だ。
「うどん……練習で作ったのなら、ちょっとだけあるよ」
「他には何が要る?キャベツとか入ってたよね」
「うどんとキャベツ、豚バラ、卵と、生地を作るのに薄力粉が最低限必要ですね。お好みソースはウスターソースに色々と足して研究してるんですけど、まだオ○フクの味には程遠くて」
「そんな事してたの?」
「はい。ワタシ、何にでもオタ○クソースを掛けて食べてたんです。ミ○ワもカ○プも美味しいですけど、オタフ○の甘めのソースが好きで。デーツっていうナツメヤシの実の甘さらしいんですけど、こちらの世界では見つからなくて」
「ソウナンダー」
また怒涛のうんちくが流れ出しそうで、ルカ達は遠い目になった。だが、出てきたのはマリナが異空間収納から取り出した、瓶詰めの液体だけだった。
「なのでウスターソースに蜂蜜その他を足した、この簡易お好みソースを使ってお好み焼きを作ります。ルカ、台所を借りてもいいですか?」
「どーぞどーぞ!あ、うどん出しとくね!」
「アタシも手伝う!」
こうして急遽始まった広島風お好み焼き作り。材料は各自のアイテムボックスの中身を合わせれば、全て揃えられた。先程マリナが挙げた基本材料以外にも、トッピングとしてチーズや海老が用意される。
「まずは薄力粉を水で溶いた生地を、うすーく広げます。これが結構難しくて」
フライパンを2つ並べた魔導コンロに向かうのはマリナだ。お店だと鉄板、お家だとホットプレートで作るのだそうだが、両方無いので苦肉の策だ。
「ここに魚粉を掛けると美味しいんですけど、無くても大丈夫です。ルカ、キャベツの千切り取ってもらえます?」
ルカが差し出したボウルに山盛りの千切りキャベツを、マリナが生地の上にこんもりと盛り、塩コショウする。
「こんなに入れるの?」
「これでも少なめです。あまり欲張ると、ひっくり返すのが大変なので。お店によっては更にネギとかモヤシを入れますよ。天かすも今日は省略です。この上に豚バラを並べてもらえますか」
ユウキが豚バラ肉を並べた上から、マリナが少量の生地を回しかける。そして空の方のフライパンに油を引いて温め、お好み焼きを作っているフライパンの上に、逆さまにして被せた。
「フライパンだとひっくり返すのが難しいので、こうして」
くるりと2つのフライパンを一緒に回転させ、上下を入れ替える。お好み焼きがフライパンを移動した。見事にひっくり返されて豚バラ肉が下になり、その上にキャベツ、最初に広げた生地と重なっている。
「キャベツはこのまま蒸し焼きにします。ルカ、そちらのフライパンを見ててください。ワタシはうどんを炒めるので」
空になったフライパンで、うどんを炒めて簡易お好みソースで味付けする間に、火が通ったキャベツから水分が抜けて、カサが減ってきた。マリナはフライ返しを両手で操って、キャベツたっぷりのお好み焼き本体を、うどんの上に移動させる。
「凄っ、器用だねー」
「ホットプレートならもっと簡単なんですけどね。次は卵です」
空いたフライパンに卵を割り入れて、黄身を潰しながら丸く広げるマリナ。小首を傾げて考える素振りを見せ、食器棚から大きな平皿を出してきた。
「本当は、お好み焼きをまた卵の上に移動させて、更にひっくり返すんですけど。ちょっと無理そうなので」
マリナはお好み焼きの上に平皿を逆さにして被せ、フライパンごとひっくり返した。平皿に移ったお好み焼きは再度上下逆転し、生地の上にキャベツ、豚バラ肉、うどんの順に積み重なっている。その更に上に焼いた玉子を載せ、お好みソースとマヨネーズを掛けたら。
「肉玉うどんの完成です!」




