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30 知らないところで

 すき焼きを食べ終わり、デザートのアップルパイを皆で堪能している時。口をモゴモゴさせながら、ハオランがアランに目配せした。


「今ですか?」

「うん、早い方が良いし、丁度揃っているから良い機会アルよ」

「ですが、せっかく美味しい物を食べている最中に」

「美味しい物を食べているからこそ、殺伐とした話でも和むアル」

「何の話ですか?」


 和やかな場にそぐわない物騒な単語に、ユウキが反応してしまった。全力でスルーしてたのに。出来れば今日は、すき焼きとアップルパイから得た幸福な気分だけを胸に解散したかった。


 アランがハオランを咎めるように横目で睨む。アランのそんな表情は初めてで、ルカはこの後の話題が愉快なものではないと確信した。聞きたくないけど聞かなきゃいけない類の話だろう。やっぱりまた今度、というのも気になって眠れなくなりそうなので、フォークを置いてアランを促す。


「アラン先生、話してください」

「ユウキが気にした時点で、話は次回と言われても困るよな。うるさくて敵わなくなる」


 ケイが隣でボソリと言う。好奇心で目を輝かせているユウキから目を逸らし、頭痛を堪えるように手でこめかみを押さえている。ユウキは直情型で何事にも猪突猛進、考えるより感じろ、迷う前に即行動というタイプだ。優しく大人しいソウマやマリナでは手に負えず、ケイがいつもストッパーになっている。苦労性のケイが、将来ストレスで寂しくならないか心配だ。


「あまり楽しい話ではありませんよ?」


 アランの言葉に、ルカは神妙に頷く。ユウキも似たような顔で、だが目だけは爛々と光らせて、こくこくと何度も頷いた。他の仲間も同様なのを認め、アランは肩の力を抜くためか、薄く嘆息した。


「分かりました。今から話すことは内密にお願いします。実は、最近帝国で政治的な混乱がありました。軍のトップだった大将軍が処刑され、大将軍と親しくしていた第三皇子が蟄居を命じられたのです。原因は転移者への違法行為、具体的にはルカさんの誘拐未遂です」

「え、私ですか?」

「はい。ルカさんを人質にしてケイ君に兵器を量産させ、他国を侵略。その際にはユウキさん達にも協力させる計画だったと」

「そういった輩が出ないように、あちこち根回ししてたけど、本当にやるバカがいるとは思わなかったヨ」


 ハオランが呆れたように肩を竦める。確かに以前、狙われる可能性があるとは聞いていた。アランがネックレスをくれた時にも、危険があるのだと認識していた。だけど、実際に危ない目にあった事はなかったし、念の為の措置だと楽観的に見ていた。なんなら過保護だなーなんて、呑気に思っていた。

 

「それ、ルカには教えてなかったんですか?」


 青褪め顔を強張らせたソウマが、低く問う。いつもと違って硬い声だ。


「決着が着くまでは教えられなかったんです。相手は他国の重臣でしたから。疑いを持っていると知られる訳にもいかなかった。下手したら外交問題ですし、証拠を隠滅される恐れもありました」

「だけどルカが危険な目に──」

「ソウマ、アラン先生もハオランさんも、私を護ってくれてたよ」

「他にも、光の片翼のなかでも腕利きなメンバーが、1日中ルカの護衛についてたネ。何度かルカを誘い出そうとしたり、連れ去ろうとしたりする奴等がいたけど、全員捕まえて地獄を味わわせたヨ!」

「ハオラン、その辺で。ルカさんが怖がっています」


 アランが止めてくれたが、具体的な事を聞いてしまうと恐怖が差し迫ってくる。仲間達も一気に顔色が悪くなった。マリナなんて倒れてしまいそうで、ルカはカタカタと震える彼女と手を取り合い、お互いを支え合った。


「皆さん、帝国の件はもう解決していますから。関係者は全員処刑されていますし、皇帝陛下も今後二度と同じような事が起こらないよう対処すると、誓約されました」

「他の国にも徹底済みネ。第三皇子も亡くなる予定アルから」

「えっ!皇子様も誘拐計画に加担してたんですか?」

「いや、第三皇子は誘拐については知らなかったヨ。でも大将軍は第三皇子を担ぎ上げて、侵略の旗印にするつもりだったからネ」

「第三皇子の御母堂は、小国の姫君だったんですよ。血筋を盾に小国の王位を寄越すよう迫り、従わなければ力ずくでと」

「酷い話ですね。だけど亡くなる予定ってことは、そのうち殺されるって事ですよね。とばっちりでそれは重過ぎませんか?」

「そんな事ないヨ」


 ハオランはそう言うが、ルカには見せしめだとしか思えない。大将軍以下関係者が全員処刑というのも、誘拐未遂の刑罰には重いように感じる。ルカは転移者とはいえ一般人だ、王族が被害者ならまだ理解出来るのだが。

 それともこの世界ではこれが普通なのだろうか。ルカの考えが甘いのか。


「帝国の第三皇子はまだ未成年だというので、これでも減刑されたんですよ。本来ならば公開処刑なのに、毒杯を賜ることになったのですから」

「しかも皇帝陛下の温情で、眠るように亡くなる毒らしいアル」


 せめて苦しまないようにとの、親心か。だとしても納得は出来なかったが、ルカには口出しする権利もない。


 この世界は平和だと思っていた。実際ルカの周囲は平和だが、それはアランやハオラン達の手で作られたものだった。

 ルカは残しておいたアップルパイの最後のひと欠片を、黙って口に入れた。美味しさが半減していた。さっさと食べてしまえば良かったと、ルカはひっそり後悔した。

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