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28 修学旅行班メンバー

「今から作っていくけど、俺がやるから皆手出しするなよ。特にユウキ」


 揃えたすき焼きの材料を前にして、ケイが一同ぐるりと見回し宣言した。すっかりお任せする気だったルカは、素直にハーイと返事をしたが、名指しされたユウキは不満顔だ。


「なんでアタシー?」

「お前が一番余計な事しそうだから」

「そんな事ないよー」

「いや、お前いつも変な材料入れて飯を駄目にするだろ。この前だって」

「あれは──」


 ユウキは常習犯らしい。ブーブー文句を言うユウキをソウマに見張らせて、ケイが調理を開始する。


 テーブルにはポータブルコンロの上に、パエリア鍋が置かれていた。すき焼き鍋なんて存在しないので、鉄製のパエリア鍋で代用だ。ポータブルコンロと共に、ユウキ達が野営で使っている物だとか。独り暮らしのルカの家には大きな鍋なんて無いので助かった。


 鍋が温まった所に牛脂を入れ、溶けたら牛肉とポロ葱を入れて火を通す。牛肉の色が変わってきたら砂糖と醤油を入れ、白菜もどき、きのこを並べてゆく。


「煮るんじゃなくて焼くって感じだね」

「ああ、水分は野菜から出るから。日本酒とかみりんも入れたりするけど、無くても何とかなる」

「よく知ってたね」

「ウチは母親が関西人なんだ。だからかウチのすき焼きは関西風でさ」


 話しているうちに白菜もどきがしんなりして、水気が出てきた。きのこもクッタリして、醤油の色がついてくる。砂糖と醤油の匂いが部屋に充満し、美味しそうな匂いにゴクリと唾を飲み込む。


「よだれ垂らすなよ」

「しないよ!」


 失礼なケイの肩を叩く振りだけしたルカ。今は、すき焼きに免じて勘弁してやろう。次に言ったら只じゃ置かない。


「相変わらず仲良しですねぇ。皆さん向こうにいた時から仲が良かったんですか?」


 アランに聞かれ、ルカは日本にいた頃に思いを馳せた。まだ1年しか経っていないのに、遥か昔のことのように感じる。こちらに来てからの日々が濃いからか。


「ケイとは幼馴染みなんで、話はしてました。ユウキとも仲が良かったかな。でも、マリナやソウマとは、殆ど話したことも無かったんですよ」

「そうなのですか?」

「はい。ここに来る直前の旅行で、同じグループになって、それからですね」


 高校の修学旅行で同じ班になった5人。マリナは転校して来たばかりだったし、ソウマはクラスで特殊な立ち位置で、おいそれと話し掛けられなかった。美形で紳士なソウマは男子生徒からは浮いており、女子生徒間では抜け駆け禁止の不可侵条約が結ばれていたので。


 ルカ達の班は、言葉は悪いがあぶれ者の集まりだった。修学旅行班は人数の関係で、女子生徒3人男子生徒2人で組むよう指示された。ルカの仲良しグループは女子生徒4人組だったので、必然的に1人余る。空気を読んでグループから外れたルカを、ユウキが一緒にと誘ってくれたのだ。

 ユウキは誰とでも仲良くしていたが、裏を返せば特に仲のいい人がいなかった。班決めで余った人をユウキが引き取るのが、ルカのクラスの暗黙の了解になっていた。ユウキは転校して来たばかりでまだ友人の居なかったマリナも誘い、女子生徒3人になった所にケイがソウマを連れて加わった。ケイも仲の良い友人とはクラスが分かれていたので、所在無さ気に佇んでいたソウマを引っ張ってきたのだ。


 こうして特別仲良しでもなかった5人が同じ班になったのだが、ルカにとっては居心地の良い班だった。異世界転移したのがこのメンバーで良かったと、ルカは思っている。ユウキ達じゃなかったら、冒険者パーティーに入れないルカと、何時までも仲良くしてくれるとは思えないので。


「このメンバーで良かったよねー!まさか異世界にまで一緒に来るなんて思いもしなかったけど」

「ええ、ワタシもそう思います。あの時ユウキが班に入れてくれて良かった」

「僕もそう思うよ」

「……俺も」


 皆も同じように思ってくれているようで、ルカは嬉しくなった。嬉しくて、思わずとっておきのデザートを出してしまう。以前鑑定した『呪いの首飾り』の持ち主から、お礼にと頂いたものだ。滅多に手に入らない人気店のアップルパイで、自分用のご褒美にちまちま食べようと保存していた。だけど皆で食べたくなったのだ。


「えっ、何これ美味しそう!」

「頂き物だけど、後で皆で食べようね」

「これ有名店の限定品だよね?良いの?」

「ソウマよく知ってるな。ルカ、それは向こうに置いとけ。そろそろすき焼きが出来上がる」

 

 ケイの言葉で皆一斉に卵を割り始める。不思議そうなアランとハオランに、ルカが説明する。


「すき焼きは、生卵をつけて食べるんです。でも苦手なら、そのまま食べても美味しいですよ」


 アランは卵を手にしたが、ハオランは申し訳無さそうに眉を下げる。


「生卵はちょっと苦手ネ」

「じゃあそのままで。私も卵つけない方が好きなんです」

「よし、出来た!皆食って良いぞー」


 ケイのお許しが出て、皆が溶き卵入りの取り皿を片手にすき焼き確保に動く。ルカも参戦しようとしたのだが。


「ちょっと待った!」


 ソウマにストップを掛けられた。皆それぞれ箸を持つ手を延ばしたまま、恨みがましい目をソウマに向けたのだった。

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