26 疲れたときは甘い物
アランとハオランが帰り、一人になったルカは謎の疲労感に襲われた。深くは考えないことにする。だがただでさえ余計なことに頭を使ったり気を遣ったりしてしまう、そんな質なので、ルカは何か作業して気を紛らわせることにした。
何をしようかと考えているうちに、ふと甘い物が食べたくなった。疲れた時は甘い物が一番。幸い材料になりそうな物を、先程異空間収納に突っ込んだばかりだ。ルカはアイテムボックスから、自分が作ったうどんの失敗作を取り出した。
柔らか過ぎて麺として食べるのはちょっと……というこのうどんを、ルカは団子にアレンジすることにしたのだ。以前テレビ番組で、パックのゆでうどんを潰して団子にしていたので。
「みたらし団子にしたいけど、お醤油は使っちゃったし、如何しようかな。出来れば餡子が欲しいなー」
しかし小豆も発見出来ていないし、そもそも小豆で餡子を作るのはかなり手間が掛かる。ルカは餡子を作った事はないが、祖母が作るのを見たことはあるのだ。お正月用のお餅を一家総出で作るのが、ルカの家では年末の恒例行事だった。
そしてもう1つ、年末といえぱお節料理もルカの家では皆で作っていた。その中に餡子の代わりになりそうな物があったのを思い出す。栗きんとんの、きんとん部分だ。さつまいもで作るきんとんなら、ルカも作ったことがある。あれなら団子にも絶対に合う。
「ええと、確かハオランがくれた中に……」
先日ハオランに貰った野菜の中に、さつまいももあったはず。アイテムボックスの中を探ると、立派なさつまいもが2つ出てきた。味付けに必要なのは砂糖と塩と、はちみつと──栗きんとんを作った時は、栗の甘露煮の瓶詰めに残った蜜を使ったのだが、この世界では見かけないので代用だ。
あとは色鮮やかな黄色にするためにクチナシの実を使うのだけど、それも無い。チラリと食品棚に並ぶターメリックに目がいったが、こちらは代用するのは止めておく。黄色といえばサフランも黄色いが、自分で食べるのだから色は気にしなくてもいいだろう。
「挑戦するのはまた今度、ソウマがいる時にしよーっと」
ソウマは和菓子屋の息子で、和菓子だけでなくお菓子全般に詳しい。きちんとした菓子を作るのはソウマがいる時でいい。だいたい今日は、失敗したうどんを使う時点でご家庭用のお手軽クッキングだ。見た目には拘らない、美味しければ良いのだ。
まずはさつまいもを輪切りにして、厚めに皮をむく。皮の近くは茹でると変色しやすいし、筋っぽい場合があるからだ。切ったさつまいもは水にさらしてから、水を替えて鍋で茹でる。電子レンジがあれば楽なのだが、さすがに発明されていないので地道に茹でる。
待っている間に団子作りだ。うどんを潰し、砂糖を少し加えて甘味をつける。お団子状に丸めたら、3個ずつ串に刺す。串団子は4個ずつだとルカは思うが、串が短くて4個刺せなかった。団子は手で丸めたり串に刺したりしたので、殺菌も兼ねてフライパンで焼いてみた。
ここまで済んでもさつまいもは煮えていなかった。そこで、ついでにさつまいもの皮を細く切り、きんぴらにしておいた。皮を捨てるなんてとんでもない、野菜は貴重なのだ。ごま油で炒めて塩を振っただけでも、明日の朝ごはんの一品になる。
そうこうしていると、やっとさつまいもが茹で上がった。煮汁を捨てて、はちみつと塩少々を加えて再度火に掛け、木べらで練っていく。さつまいもは裏ごしした方が口当たりが滑らかになるが、今日は省略する。固さをはちみつで調節して、さつまいも餡は完成だ。
あとは串団子にさつまいも餡を乗せて食べるだけ。ルカはベッタリと、団子が隠れるくらい餡を乗せて食べた。さつまいもの甘さとはちみつの甘さを隠し味の塩が引き立てる。我ながら美味しく出来たと思う。夕ごはんが早かったので、お腹も空いてきていたのもあり、2本ペロリと食べてしまった。
「……ちょっと食べ過ぎたかな」
後悔は、必ず後からやってくる。甘い物の誘惑には、とことん弱いルカだった。目につくともう1本、あと1本と際限が無くなりそうなので、残りの団子はさっさとアイテムボックスに収納する。
「お団子は1日1本にしよう。最近運動してるのに、体重が減らないんだよね……」
アランの護身術指導と、それに伴う体力作りのために、ルカとしては人生で一番運動している自覚がある。それなのに体重が全く変わらないのは、運動した分だけ食べているからか。心当たりがあり過ぎる。むしろ体重維持が不思議なくらい食べている気もする。
「よし、明日からダイエットしよう」
ルカは決意した。だが、明日からと言っている時点で、成功の確率は推して知るべしだ。もったいないからと、鍋に残ったさつまいも餡をせっせとこそげ落とし、口に入れていることからも、ダイエット成功の日は遥か彼方だ。




