23 手作りうどんに挑戦
自分の醤油パックを全て使い切ってしまったルカ。ユウキ達の帰りはまだ先の予定なので、暫く醤油味の料理はおあずけだ。だがマリナから受け取った和風出汁はまだまだ沢山ある。次にいつ確保出来るか分からないからと、大量の昆布もどきを残らず回収したらしい。
ルカ達の異空間収納は容量がおかしいので、荷物が増えても困ることはない。だから何か和食に使えそうな食材があれば、可能な限り手に入れることにしている。とはいえユウキ辺りに任せると、有り金はたいて食材を買い占めるので、ソウマがパーティーの財布を握って管理してくれていた。冒険者ギルドの貸金庫にそれぞれ貯蓄はしているが、ユウキ達のパーティーはエンゲル係数が高い。ルカも高給取りではあるが珍しい食材を買ったりするので、貯蓄はあまり増えていなかった。
だが、毎度食事にばかりお金を掛ける訳にもいかない。そこで今日は、和食研究の一環といえお金を掛けず、ありふれた食材を使うことにする。小麦粉でうどん作りに挑戦するつもりだ。この国はパンやパスタが主食なので、小麦粉なら安く手に入る。米食はややマイナーで、長粒米よりも小麦粉が安かったりするのだ。
さて、うどんを作るには中力粉が適しているが、見つからなかったので、ルカは薄力粉と強力粉を混ぜて使うことにした。確か混ぜても何とかなったはず。うどんは作ったことがないし、作業工程もあやふやなので、レシピ本やテレビで放送していたのを思い出しつつ手探りで進めてゆく。とりあえず今日のところは食べられる物が出来れば成功とみなす。
「だから、期待されても困るんですが」
ルカは、いそいそとエプロンを着けているアランとハオランに言った。何故エプロンを持ち歩いているのか不思議に思いながら。
今日は1人で試してみよう、失敗しても自分で食べるから良いよねと、軽い気持ちでうどんに挑戦するはずだったのだ。なのに小麦粉を買ってお店でお金を払おうとすると、何処からかアランが出て来て支払いを済ませてしまった。おまけにハオランまで出現し、買った小麦粉を店員から受け取った。そのまま荷物を運んでもらい、家まで送ってもらったので追い返すのも気が引ける。
「良いんですよ、試行錯誤しながら料理するのも楽しいじゃないですか」
「そうアルよ。ワタシも和食好きネ!」
2人にこう言われては断れない。今日もさり気なく護衛をしてくれていたのだろうし、だったら外で見守るよりも部屋で一緒にいた方がアラン達も楽だろう。
「分かりました。じゃあ一緒にやりましょう」
うどん作りは確か、こんな流れだった。
小麦粉に塩水を混ぜてゆき、適当な固さになるようまとめ、捏ねてコシを出す。暫く寝かせてから薄くのばし、折り畳んでうどんの太さに切り、茹でて水にさらす。塩水の濃度とか、寝かせる時間とか、細部はまるで分からない。
「まずは薄力粉と強力粉を混ぜます。半々で良かったと思うんですけど……」
初っ端から自信がなく、ルカの声が尻すぼみになった。グルテンの含有量で薄力粉とか強力粉とかに別れていたはずだから、半々で混ぜれば真ん中の中力粉になると思うのだが。
「やってみましょう。チャレンジする事が大切です」
ルカがもたもたしているうちに、アランがパッパと半々で混ぜてしまった。もう元には戻せない。それで少し腹が座ったルカは、次の指示を出す。
「次は塩水を加えて捏ねるんですが、水と塩の割合が分かりません。なので塩分濃度の違う塩水で、いくつか作ってみようと思います。後で検証したいので、どれがどの塩水を使ったか覚えておいてもらえますか?」
「だったら、塩水は3種類にしましょう。自分の使った塩水がどれか、覚えておけばすみますから」
「ワタシ、海水の濃度にするネ」
ハオランを基準に、アランが食塩2倍、ルカが食塩を半分にした塩水を作り、小麦粉に混ぜてゆく。少しずつ加えて、粘土のように纏まるよう調節した。ルカが目指したのは耳たぶの固さだ。調理実習で白玉団子を作った時と、同じ程度を目処にした。
小麦粉がひと纏まりになったら、ひたすら捏ねる。分量が少ないとはいえ、力のないルカには重労働だ。ビニール袋があれば、入れて足で踏むのだが。
「これ、どのくらい捏ねるものなんでしょう」
「すみません、分かりません」
アランは余裕で捏ねまくっている。アランの戦闘スタイルは魔法剣士タイプらしいし、体型もスラリとしているように見えるが、見掛けよりも力があるのだろう。ハオランも細身のレンジャーながら、腕まくりした二の腕にはしっかり筋肉がついている。大人の男性にとっては楽な作業のようで、2人は談笑しながら生地を捏ねる捏ねる。
あまりやり過ぎても固くなりそうなので、ルカは適当なところで2人を止めた。表面が乾燥しないように濡れ布巾を生地にかけ、しばし寝かせる。
「ベンチタイムですね」
パンも作れるというアランが言うが、うどんの場合もベンチタイムと呼ぶのだろうか。ともあれ生地作りは一旦休憩だ。ルカは額から流れる汗を、手の甲で拭った。顔に粉がついてしまい、ハオランに笑われた。




