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117 モザイク寿司

「僕達にとっては凄く有り難い話だけど、本当に良いんですね?」


 手の平に置かれた大きめの鍵を目線の高さまで上げて、ソウマが最終確認とばかりに念押しした。アランが所有している建物の、玄関の鍵だ。この鍵で3階建ての建物の2階までは入ることが出来る。今までは、1階で営業していたレストランの支配人が管理していた鍵らしい。


「非常に不本意で、私としても苦渋の決断でしたが……ルカさんのたっての希望ですので。もちろん貴方達が気に入らないようでしたら、断って頂いて構いませんので!」


 むしろ断れと言外に匂わせながら、アランがニコリと笑みを深める。威嚇されたソウマの顔が引き攣った。ルカは機先を制し、ソウマがとっさに断りの言葉を口にするのを遮った。


「ソウマ達、王都に拠点が欲しいって言ってたよね?ひとり一部屋、各部屋にユニットバス完備の家具付き物件だよ?キッチンだけは共用になるけど、冷蔵庫まで備え付けだよ?そんな冒険者ギルドにも近い超優良物件に家賃タダで住めるんだよ、断ったら損だから!」

「うん、でも家主のアラン様が、あまり乗り気じゃないような」

「アラン先生も納得してくれてるから。ですよね?ソウマ達になら貸しても良いって言いましたよね?」

「私としては、ルカさんと2人きりの結婚生活が望ましいのですが」

「新居は3階部分なんですから、2人きりじゃないですか。ソウマ、皆で内見行ってきて!気になる部分は改装しても良いし、鍵も付け替えるから前向きに検討してね!」


 ソウマ達への報酬の上乗せ分として、部屋を貸すようアランに頼んだルカ。元々は宿屋だったアラン所有の建物は、1階部分はレストラン、3階部分はアランの自宅として改装してある。だが2階部分だけは宿屋の客室そのままを、レストランの事務所や従業員の更衣室として使っていたらしい。

 レストランを閉店したため、現在1階と2階部分が空いているのを如何するか、アランとは色々相談していた。1階は店舗として借りたいという人がチラホラいるらしい。2階も空けておくのはもったいないし、賃貸物件として貸せば良いとルカは言っていたのだが、アランが防犯上の観点から渋っていたのだった。


「せっかくのルカさんとの新婚生活に、邪魔が入るのは……」


 ソウマ達が部屋を見に行ってからも、アランはまだブツブツ言っている。


「誰も邪魔しませんって。ソウマ達なら逆に、邪魔しに来た人達を追い返してくれますよ」


 最近はルカの結婚式準備に掛かりきりで、他のクエストを全く受けていない彼ら。結婚式が無事に終わったら、気分転換に討伐系のクエストに出掛ける予定らしい。冒険者の皆は部屋を留守にすることが多くなるだろうが、それでも気心の知れた仲間が近くに住んでくれると心強い。同じ建物で暮らしていれば、集まるのも簡単だし。ルカがうっかり監禁されたとしても、早目に気付いてもらえそうだし。良い事づくめだ。


「それよりアラン先生、頼んでた物を出してください」

「はい、これですね。まぁソウマ君達が部屋を気に入らない可能性もありますし」


 諦めの悪いアランは置いておいて、ルカはアランがアイテムボックスから出した紙をテーブルに広げた。この王国の国旗が、だいたい1メートル四方の紙一面にプリントされている。レシピ集を印刷してくれる工房にお願いして作ってもらったものだ。


「ルカさん、本当に作るんですか」

「はい。弁当はほぼ出来ていますから、今からでも間に合います」

「その空いた時間で私に構って欲しいんですが。ルカさんは意外と負けず嫌いですよね」

「そういう訳では」


 別にソウマと張り合っているのではない、ただ彼の力作と比べると松花堂弁当(王)でも見劣りするなと思っただけだ。


 ソウマが創り上げた芸術品とも言うべき和菓子にひとしきり感激した後で、ルカはふと不安に駆られた。これと並べると、松花堂弁当がかなりショボくないか?あまりにも格差があり過ぎないか?手抜きだと思われるんじゃないか?と。

 そこで無い知恵を絞って、和菓子は王家の紋章をデザインしたものだから、弁当は国家の印をデザインしたものを作れば体裁が保てるのではないかと考えた。国家の印といえば国旗だろうと、この国の国旗を象ったモザイク画を、手まり寿司で作ることにしたのだ。


 安置と言うなかれ。ルカはプロの料理人ではない、家庭料理レベルの技量でソウマに対抗しようなんて烏滸がましい。芸術品の横に並べるのに恥ずかしくない程度の威信を、国家の象徴たる国旗から拝借したいだけだ。しかも国旗は、王家の紋章ほど複雑ではない。なんて素敵。


 中央に盾と、盾の後ろを右上から左下に斜めに貫く剣。左上に太陽の意匠、右下に蓮に似た花の意匠。それがこの国の国旗の図柄だ。色はだいたい4色。盾は深緑で剣は銀、太陽と花が赤、地の色が白。青とか入ってなくて良かった。こちらの世界でも青い食べ物は見ないし、青い食品は食欲を減退させるらしいし。


「1つのお寿司の大きさが、この位かな。アラン先生、線引くので定規の反対側持ってもらえますか?」


 今日は手始めに設計図作りだ。手まり寿司の実物大の方眼を用紙にいれる。そして各色何個くらいの手まり寿司が必要か数え、寿司ネタに何を使うか考える。1色につき3、4種類の寿司ネタを使うつもりだ。銀色が難しいが、鯖とか太刀魚みたいな銀色っぽい魚がいたので何とかなるだろう。

 王都は海に近いので、新鮮な魚が手に入りやすい。ただ、生魚はあまり好まれず、マリネにしたり軽く炙ったりして食べるのが主流なので、工夫は必要だ。


「あ、もう少しだけ幅を広げてもらえます?」

「はいはい、はあー、早く結婚したいです」

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