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114 薔薇と琥珀

 弁当の中身が決まったので、次は和菓子だ。ソウマは見本を作っていたようで、アイテムボックスから手のひらサイズの木箱を取り出した。蓋を開けて中を確認したルカは、思わず感嘆の声を上げる。白と紅色のバラを模した練りきりを、宝石と見紛うキラキラした物が取り囲んでいた。


「凄っ!ソウマ凄過ぎる!この周りのって何?」

「琥珀糖」


 ソウマの説明によると、水に大量の砂糖を溶かして煮詰め凝固剤で固めたものを、乾燥させた和菓子らしい。本来は寒天を使って固めるのだが、寒天が見つからなかったのでアガーを代用したのだとか。


「海底ダンジョンの調査に行った時に、アガーの原料になる海藻を見つけたんだ。アガーで作ると常温でも溶けないから、羊羹なんかも作れそうだよ」

「ほんと凄いよ!これ宝石みたいに綺麗だし、バラの練りきりも本物みたい!」

「お祝い事だから、やっぱり紅白かなと思ったんだけど、他の色が良かった?」

「これが良い!ソウマありがとう、予想以上の出来だよ!これでお願いしたいけど、手が込んでるから作るの大変じゃない?」

「大丈夫、今から1日100個つくれば間に合うから。マリナが器用だから、ちょっと練習すれば成形も2人で出来そうだし」

 

 ソウマの隣でニコニコと笑うマリナも、自信あり気だ。ルカは嬉しくなって、これで良いですよねとアランを仰ぎ見た。しかしアランは、先程ルカが弁当の説明をした時よりも渋い顔で、ソウマの力作を見下ろしていた。


「……アラン先生?」

「駄目です却下です!ソウマ君、貴方までこんな非常識な物を作ってくるとは!」


 ソウマも竜人に非常識とか言われたく無いだろう、珍しくムッとした顔で反論する。


「何処が駄目なんですか?僕としてはルカのために、最高の物を作ったつもりなんですが」

「確かに私もルカさんのために、最高の物をとお願いしましたよ?だけどこれはやり過ぎです、これもどう見たって貴族仕様じゃないですか!これを無料で配ったりしたら、奪い合いになって流血沙汰ですよ!」

「流石にそれは大袈裟なんじゃ」

「甘いですよ、ルカさん」


 アランは人差し指を1本立てて、チッチッと横に振った。


「王都は比較的裕福な平民が多いですが、地方では甘味なんて月に一度食べられれば良い方なんです。しかもこの、コハクトウ、でしたか?ふんだんに砂糖を使ってるんですよね?こっちのバラの形のお菓子も砂糖たっぷりなんですよね?新年の神殿詣でには国中から人が集まります。滅多に食べられない貴重な甘味をタダで手に入れられるとなれば、良からぬ事を企む輩が必ず出没しますよ。金貨を配っているのと変わらないですからね!」

「で、でも、お披露目ではお菓子を配るものなんでしょう?」

「普通のお披露目で配るのは、1人につきクッキー1枚とかキャンディー1個とかですよ。それでもとても喜ばれますし、それで十分なんです」

「だけど、王都にはケーキ屋さんとかもあるし、お祝いなんだから多少豪華でも」

「ケーキ等の甘い物の店は貴族向けです。一般庶民は余程のお金持ちでなければ出入り出来ませんよ」


 とうとうアランが呆れたように肩を竦め、溜め息までついた。砂糖やはちみつが高価なのは知っていたし、自分が高給取りなのも自覚していたが、認識が甘かったようだ。ソウマやマリナもスイーツ巡りとかしてたので、ルカと似たりよったりの感覚だったのだろう。だがよく考えると彼等も高難易度のダンジョンを楽々踏破する冒険者なのだ、収入も桁外れだ。


「私もソウマ君に頼むと豪華になるだろうとは思っていましたし、ルカさんとの結婚に関しては大盤振る舞いするつもりですが。流石にこれは非常識が過ぎます。犯罪を助長しそうなので却下です」


 アランの厳しいダメ出しのもと、一般配布用の和菓子は練りきりが1つと決められた。バラの形にするのも無しになり、紅白のマーブル模様の丸い練りきりを配ることになる。

 ソウマが試作してきたバラの練りきりと琥珀糖は、ルカと同様に貴族へのお祝い返しに回された。こちらも爵位によって数を変え、基本の紅白からバラの色を増やして対応するそうだ。


「味も色によって少しずつ変えてみるよ。柑橘系とか、ぶどうで色付けしてラムレーズン入れるとか」

「ソウマ君、まだ余裕がありそうですね。そんなソウマ君に、王家にお返しするための、紋章を象った和菓子を依頼します」

「ソウマ、そんなの作らなくて良いから!アラン先生、ソウマに意地悪するの止めてください!」


 この国の王家の紋章は、剣と盾とドラゴンと、蓮のような花が絡み合った複雑なものだ。和菓子で表現するような物ではない。ただでさえソウマには、一万個プラス王族貴族へのお祝い返し用和菓子を製作してもらうという、負担を強いているのに。

 しかしソウマは、ハードルが高いほど燃える人だった。アランの挑戦的な物言いがソウマの職人魂に火を付けたようで、爽やかに笑って了承する。


「アラン様、その依頼、是非ともお受けしましょう!完成を楽しみにしていてください!」

「期待していますよソウマ君!」

「王家に献上する物なら、自重しなくても良いですよね?」

「思い切りやっちゃってください!」


 ふふふフフフと笑顔で遣り取りするアランとソウマ。ちょっと怖い。ルカは頬が引き攣るのを感じながら、そっとマリナの近くに避難した。

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