110 結婚報告
ルカがアランと一緒に食事処に入ると、奥のテーブルに集まっていた仲間達が手を挙げて呼んでくれた。ユウキが気を利かせてくれたのか、ハオランも席に着いている。空いていた椅子にルカとアランが並んで座ると、顔見知りの従業員が飲み物を運んできた。
「結婚おめでとう!これは店からの奢りだよ!」
大声で言いながら、ドンと置かれた大きなグラスには、ストローが2つささっていた。カップル向けの飲み物なんてメニューに無いので、特別仕様なのだろう。同時に店に居合わせた人達から拍手と口笛が巻き起こる。
「ありがとうございます、皆さん!結婚式は新年に行います、その日のうちにお披露目もしますので、是非見に来てくださいね!」
アランが立ち上がって礼を述べ、喧伝する。そしてルカを抱き上げると頬にキスしてみせた。ギャー!
「何すんですか!」
「キスはして良いって約束ですよね」
「時と場所を考慮してください!」
「考慮した上で、新婚ラブラブアピールすべきだと判断しました」
「ハイハーイ、とりあえず2人共座るアルよー」
ハオランに促されて再び席に着いたルカ。改めて皆を見回すと、更に恥ずかしさが増して顔が熱くなる。苦笑するハオランの向こうには、同じような顔を並べたソウマ。ルカの隣ではユウキとマリナが手を取り合って、小声でキャーキャー言っている。そして、面白くなさそうな顔で、ルカとアランから視線を逸らしたケイ。
「ええと……さっきアラン先生が言った通り、新年に結婚する事になりました」
改まって報告するのは照れくさくて、ボソボソと小声になってしまった。皆に混じってケイも拍手してくれたので、ルカはホッと安堵する。安心すると、幾分か声が出しやすくなった。
「で、皆には結婚式に出てもらいたいんだけど。ハオランさんも」
「もちろん出席するよ、ね?」
ソウマが答えてくれ、ハオランを含めて全員が頷く。良かった。
「ありがとう、招待状はまた今度渡すよ。それと、結婚式関連で手伝って欲しい事があって」
「ここからは私が説明しましょう」
ルカとの結婚式に情熱を燃やすアランが、結婚式についての説明を始める。アランもルカも身分としては平民なので、式自体は慎ましく、身内だけのものになること。だがアラン程の有名人になると、結婚を周知するためのお披露目が必要になること。それがかなり大規模になりそうなので、助力を頼みたいこと。
「お披露目は結婚式の後、新郎新婦が街の人達に姿を見せるだけなのですが。幸せのお裾分けをしなければならないのです」
「それって何か、記念品のような物を配るって事ですか?」
「はい。たいていはクッキーやキャンディー等、日持ちのする菓子類ですね。新郎新婦の仕事関連の細工物だったり、野菜や果物なんて場合もあります。それで、私達のお披露目では和菓子を配りたいと思っていまして。その製作をお手伝い頂けないかと」
「アラン先生が有名だし、新年の初詣と被るから、かなりの数が必要になりそうで。私とアラン先生だけじゃ無理そうだから、手伝ってもらえないかな」
「うん、良いよー!」
ソウマが皆の意思を確認する前に、ユウキが返事をくれる。満面の笑顔で快諾したユウキに続き、マリナの答えも力強い。
「手伝うに決まってます!」
「……ルカが如何してもって言うなら手伝ってやる」
「ケイ、男がツンデレしても可愛くないネ!ワタシも戦力になるか分からないけど、手伝うヨ!」
「全員参加だね。お祝いの和菓子となれば妥協は許さないけど、僕が取り仕切っても良いかな?」
和菓子といえば自分の出番だと、ソウマが胸を叩く。頼もしい。密かに当てにしていたルカは、笑顔でソウマに全権を委ねるつもりだ。アランも異論は無いようで、ソウマに握手を求めて手を差し伸べる。
「本当にありがとうございます。数が多いので、業者に頼むべきかとも思ったのですが。引き受けて貰えて良かったです」
「ルカの結婚式ですから当然です。それで、期日は新年までとして、どんな物を幾つ位必要なんですか?」
「そうですね……先日マリナさんが神殿に持って行ったおはぎのような、見た目に美しい物が良いです。保存魔法を掛ければいいので、日持ちについては気にしなくて大丈夫ですが。問題は数です。1万個は準備しておきたい所です」
「1万個!?多くないですか?」
驚いて声を上げたのはルカだった。たくさん必要だろうとは思っていたが、多くても千個位だと見積っていた。一桁違う。
「ルカさん、自分で言うのも何ですが、私はこれでも世界を救った勇者です。この度結婚するにあたり、既に各国から問い合わせや祝いの品が届いています。お披露目にも大勢が来てくれること請け合いです」
「えええー……」
「私としても、多くの人達にルカさんとの結婚を祝って頂きたいですし、お金に糸目はつけません。ソウマ君、ギルドを通して正式に依頼しますので、最高のものをお願いします!」
「ソウマ、無理だと思ったら断って良いからね?これお店に頼んでも断られるレベルの大量発注だから。皆も無理しなくて良いからね?」
「いや、喜んでやらせて貰うよ」
ソウマは紅潮した顔で、目をキラキラさせていた。何故だ。もしかしてソウマは、困難が立ちはだかるほど燃えるタイプなのか?大変さの中に喜びを見出す質なのか?エムなのか?
「ルカ、大丈夫、まだ数ヶ月あるから十分間に合うよ。最高の和菓子で結婚に華を添えるから、楽しみにしてて!」
「有り難いけど、本当に良いの?」
「もちろん!僕に任せて!皆も付き合ってくれるよね!」




