105 ずんだ餅
「うわー、凄い!カラフル!」
ルカとアランが買い出しから帰って来ると、テーブルの上には既に沢山のおはぎが並んでいた。小さめに作られたおはぎ達は、まさに色とりどり。出掛ける時には白餡の白とかぼちゃ餡の濃い黄色、さつま芋餡の淡い黄色だけだったはずが、何色も増えている。
「これはまた綺麗ですねぇ。何で出来ているか教えて頂けますか?」
アランも感心したように、ソウマに尋ねている。合成着色料なんて無かったはずだから、全て自然素材で色を付けているはずだ。ルカも興味津々で、アランと並んでソウマの解説を聞いた。
紫芋の餡で包んだ紫色のおはぎ、黒ごまをまぶした黒色のおはぎ辺りは分かる。一見よもぎ餅に見える緑色のおはぎは、ほうれん草を混ぜたらしい。ピンク色のおはぎは白餡にいちごジャムで着色し、水色のおはぎは白餡にバタフライピーというハーブを煮出した汁を入れたとか。
「枝豆があればずんだ餅の黄緑色も作れるんだけどね」
残念そうに言ったソウマの目の前に、ルカはアイテムボックスから出した枝豆を突き出した。
「ジャーン!」
「え、何で!?」
「もしかしてと思って、魔法植物研究所に寄ってみたんだ。そうしたらもう枝豆が出来てたから、収穫して来た!採りたてだよ!」
魔法植物研究所の敷地内に植え替えられた聖なる大豆は、種蒔きから10日ばかりだというのに、もう枝豆がワサワサ出来ていた。一応鑑定して普通の枝豆だと確認してから、アランにお願いして収穫してもらったのだ。何しろ聖なる大豆の木は高さ10m程に育っていて、ルカでは手が届かなかったので。
アランは剪定ばさみ片手に脚立に登って、枝豆をごっそり採ってきてくれた。それでも木の上の方には、まだまだ沢山の枝豆が生っていたそうだ。
「よし、枝豆茹でよう!半分はずんだ餅にして、半分はそのまま食べよう!」
「やった!枝豆超久しぶり!」
枝豆は枝についたままなので、はさみでパチンパチンと切り離してゆく。ソウマ達にはおはぎ作りを続けてもらい、ルカとアランとで枝豆を担当した。
「おや、豆のサヤの端は切り落とすものなんですか?」
「ああ、塩茹でしてそのまま食べる時は、端を切り落とすと塩味が滲みて美味しいんです。茹で時間も短くなりますし。あ、ソウマー、ずんだ餅に使う方は如何すれば良い?」
「一緒で良いよー。茹で時間だけちょっと変えるからー」
枝から切り離した枝豆を洗い、塩を入れて沸騰させたお湯で茹でてゆく。たまに味見して茹で加減を確かめ、まずはずんだ餅に使う枝豆を作る。ずんだ餅用の枝豆は潰しやすいように、少しだけ軟らかめに茹でるようソウマに指示された。茹で上がったらザルにあけ、第2陣のための湯を沸かす。
ケイに風魔法を当ててもらって枝豆を冷まし、枝豆のサヤと薄皮を剥ぐ。ひと粒ずつ豆から薄皮を剥ぐのはなかなか面倒な作業だが、このひと手間が美味しさに繋がるのだ。だけどチマチマと薄皮を剥いでいると、あれだけ大きな大豆の木なんだから、もうちょっと豆も大きくても良いのにと思ってしまう。
「ソウマ、何処までやっとく?」
「潰すとこまでお願い出来たら嬉しい」
「潰すのは私がやりましょう。どの程度ですか?」
「ありがとうございます、アラン様。ペースト状の少し手前くらいでお願いします」
アランがすり鉢で潰した枝豆に、ソウマが砂糖と塩少々で味をつける。出来上がった枝豆ペーストで、餅部分を包んだらずんだ餅の完成だ。
第2陣の枝豆は普通の塩ゆで以外にも、ガーリックと唐辛子で炒めたペペロンチーノ風味枝豆や、バター醤油味枝豆にした。ルカはまだお酒は飲めないが、ほぼビールのおつまみメニューになってしまった。
「そういえばアラン先生は、お酒飲まないんですか?飲んでるの見た事ないですけど」
「飲めない訳ではありませんが、特に好きでもないので付き合い程度ですね。竜人族はアルコールで酔いませんし」
「そうなんですか?」
「はい。ドワーフと飲み比べをして勝ちました。酔って醜態を晒すことが無いせいで、ジャックに私と飲んでもつまらないと言われます」
全く酔えないというのも、大人の楽しみが1つ減ってもったいない気がする。だがアランが続けた言葉で、ルカは認識を改めた。
「まあ、竜人がアルコールに弱いと大変でしょうからね。特に番が」
どう大変なのかは考えたくない。ルカは笑って誤魔化しながら、話題を逸らした。
「ソウマとマリナは成人してるけど、あまりお酒は飲まないよね」
「僕も、そんなに好きじゃなくて。甘党だからかな」
「ワタシもですね。お酒は匂いだけで酔ってしまうので」
飲酒出来る年齢の全員が、酒好きとはほど遠いようだ。道理でお酒の話題にならないはずだ。
「お酒より甘味ですよね」
「そうそう。ブランデーケーキとかウイスキーボンボンとか、甘味になってればお酒も美味しいんだけどねー」
「ワタシはその辺りも食べられなくて。お菓子のアルコールだけでも大丈夫になればいいのにと、いつも思います」
マリナとソウマが、お菓子に使われるお酒の話で盛り上がっている。聞くとはなしに聞いていると、アランがコソッとルカの耳元で囁いた。
「今度ブランデーケーキを作ってみるので、味見してもらえますか?」
「良いですよ」
「思いきりブランデーを入れて作りますね」
それはほぼ飲酒と変わらないのでは?未成年を合法的に酔わせようとする悪い大人に、ルカは非難の目を向けた。とても愉しそうな笑顔を返された。




