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101 交渉

「ごめん、マリナ!ライブの撮影出来なかった!」


 予定よりかなり早く、海中ダンジョンの調査を済ませて帰って来た仲間達。顔を見るなり両手を差し出してきたマリナの望みを瞬時に察知して、ルカは反射的に頭を下げていた。まだ仕事中だったルカがカウンターに頭をぶつける勢いで謝罪していると、後ろから肩をトンと叩かれる。副ギルドマスターだった。


「ルカ、皆さんを特別室へ」

「はい!皆、帰って来て早々で悪いけど、ギルマスから話があるんだ。寄ってもらって良い?」

「良いけど……」


 ソウマがチラリと背後を気にする。ハオランとヒューバートが、それぞれ指名依頼の達成届を提出しているところだった。指示を仰ごうと副ギルドマスターに目で問うと、副ギルドマスターが自ら2人に声を掛ける。同席して欲しいとの要請に、2人が揃って同意する。


 ぞろぞろと特別室へと移動する。ケイが複製(ダブルの)魔法を契約した部屋だ。そう広くも無い部屋では既にギルドマスターが待っていて、全員が入るといっぱいになった。円卓を囲む椅子にヒューバートとハオラン、ユウキ達一行が座れば満席だ。ルカは出入り口の前に立つギルドマスターと副ギルドマスターの隣に、気持ちだけ隙間を空けて並んだ。


「実は、ちょっと厄介な事が起こってな」


 ギルドマスターが、天草蘭丸が魅了魔法を使った事件を簡単に話し、次いで彼がこの世界に持ち込んだ大豆の扱いについても説明する。ルカが植えた聖なる大豆が予想外の成長をみせた話に入ると、仲間達が一斉にルカを仰ぎ見た。ごめんなさい、秘密にするのは無理でした。もう洗いざらい吐いてしまいました。でも収穫される普通の大豆の権利はもぎ取ったから許して。


「分かりました、マリナが変化させた大豆は提出します」


 ソウマが良いよね、と仲間達を見回す。ユウキが若干不服そうだったが、反対の声は上がらなかった。


「だけど煎り豆の提出はお断りします」

「如何しても駄目か」

「はい。これを渡したら、マリナに再度究極回復魔法を掛けるよう、強要されるかもしれません。冒険者ギルドは信頼していますが、国とかは信じられませんので」


 ルカの事もありましたし、とソウマが付け加える。そしてアイテムボックスから聖なる大豆と普通の煎り豆を全部出すよう、皆に伝える。全員の聖なる大豆を纏めてギルドマスターに渡してから、ソウマは木枡に入った煎り豆を数粒摘み、口に放り込んだ。ポリポリと噛み砕き飲み込んで、ニッコリ笑う。


「煎り豆はこの場で全部食べます。それなら心配ないでしょう?」

「そうだな、そうしよう」


 ケイがソウマの膝の上の木枡に手を伸ばし、煎り豆を鷲掴みにした。続いてユウキとマリナもポリポリボリボリ、黙々と煎り豆を食べ始める。


「そんな事をしても、聖なる大豆に生った実に究極回復魔法を掛けたら同じかもしれんぞ?」

「そうですね。でも聖なる大豆の鑑定結果に、異世界由来の豆に聖属性が付与された、ってあったと思うんですよ。ですからこっちで収穫した大豆では、究極回復魔法を掛けても変化が無いんじゃないかと」

「なるほどのう。そう来るか」


 ニヤリと笑ったギルドマスターが、ポケットから小瓶を出した。ルカが没収された、回復薬に漬けた煎り豆が入った瓶だ。


「ルカが持っとった豆だ。あと8本あるが、これらは如何する?出来れば全部、聖なる大豆に変えといた方が、お互い面倒が減って楽そうだが」


 ケイがルカに呆れた目を向けてくる。なに馬鹿正直に全部差し出してんだと、その目が言っている。仕方ないじゃん、海千山千のギルドマスターに隠し事とかすぐバレるからと、ルカは心の中で叫んだ。


 ソウマが少し考える素振りを見せる。ケイと顔を見合わせて頷き合い、同じ様に視線を交わしていたユウキとマリナに目を移す。


「如何しようか。マリナ、如何したい?僕は後から色々言われて呼び出されるよりは、今全部変化させちゃった方がましかなって思うんだけど」

「そうですね。いちいち呼ばれるのも……ギルドマスター、豆は全てここに揃っていますか?」

「ああ。誰かが隠しとらん限り」


 ギルドマスターはポケットから次々と小瓶を出しては円卓に並べる。計9本の、各種回復薬に浸かった大豆入りの小瓶。経過観察のためにルカの部屋に置いていた全てだ。

 マリナが小瓶を1本取り上げて、軽く振った。薬液の中を大豆が舞う。


「これで全部ですね。ギルドマスター、お願いがあるんですが」

「何だ?」

「これらを全部、聖なる大豆に変化させますので、代わりに天草蘭丸様の歌っている映像を撮影して、販売してもらえませんか?出来ればもう一度ライブも開催して欲しいのですが」

「……」


 今度はギルドマスターが考え込んだ。天草蘭丸は魔封じを施され、神殿預かりとなったとルカは聞いていた。神殿は男性神官と女性神官の生活圏がきっちり分かれているし、トラビス神官が居るので、万が一魔封じが破れても被害が拡大しないだろうとの判断らしい。男性ばかりの空間で、あの人ちゃんとやっていけるのだろうか。処分を聞いたルカは、他人事ながら不安に思ったものだ。


「少し考えさせてくれんか」


 ギルドマスターと副ギルドマスターだけでは決められなかったようだ。返事は一両日中には必ずと約束したギルドマスターに、マリナはよろしくお願いしますと丁寧に頼んで、ただの煎り豆を回復アイテムに変えた。奇跡を目の当たりにした副ギルドマスターが滂沱の涙を流すのを横目に、ルカはそっと1歩距離を取った。

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