表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話

   

「それでは、私はお先に失礼します」

 一時間ほど三人で飲んだ後、赤いドレスの山口は一人で帰っていく。松本が送っていく素振りを見せないように、まだ夜は遅くなっていなかった。

「ふうっ……」

 彼女の姿が視界から消えたところで、有野の口からは溜め息が漏れた。それを見て、松本が軽く笑う。

「昔から変わらんな。有野、あいかわらず女性は苦手か」

「わかっているなら、呼ぶなよ……」

「すまん、すまん」

「いや、いいよ。松本に悪気がないのはわかる。それに、僕も少しは、女性に慣れた方がいいんだろうさ」

「おっ、いよいよ有野も、身を固める気になったか?」

「そんなんじゃないけど……」

 有野は友人の言葉を聞き流しながら、カクテルの残りを口にする。それから改めてメニューを手前に引き寄せて、トントンと指で叩いた。

「ところで、僕が今飲んでるのは何だ? 名前だけ見ても、何が何だかさっぱりわからないよ」

「おいおい。知らないで注文してたのか? お前、雑学的な知識も豊富だから、カクテルにも詳しいかと思ったのに……」

「僕の知識は、しょせんアニメ由来だ。でもカクテルのアニメはないからね」

 キャンプを題材にしたアニメにハマればアウトドアに詳しくなり、自転車競技がテーマのアニメならば、その方面に詳しくなる。カルタとりのアニメのおかげで、百人一首を勉強したこともある。

 それが有野という男だった。

「そうか。じゃあ俺が教えてやろう。お前が飲んでるのはジントニックと言って、苦味や酸味を楽しむもので……」


 その日の有野は、珍しく遅くまで飲んだ。

「今は、早く帰る必要ないからね」

「どうした? 大切な深夜アニメとやらがあるんじゃないのか?」

「それがないんだよ、今期は」

 アニメに詳しくない松本のために、有野が説明する。

 夕方や日曜朝の子供向けアニメとは異なり、深夜アニメは原則として十二話あるいは十三話構成。一クールと呼ばれる三ヶ月ごとに、番組が入れ替わる。面白いアニメが多いクールもあれば、今期のように観る番組がないクールもあるのだった。

「なるほど。それで今は時間に余裕があるのか。だったら……」

 爽やかな青色のカクテルを口元へ運びながら、松本がニヤリと笑う。

「……今期は婚期だな」

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ