第二話ッッ!! ダニエルは止まらないッッッ!!!
「第三種……ッ!」
そうッ! 今ダニエルの頭上に浮かび優奈を連れ去ろうとしているのは、紛れもなくUFOであったッッッ!!!
22世紀の現代ですらその存在が謎に包まれ、あらゆる場所で目撃情報が上がっている謎の飛行物体ッッ!! それが今、ダニエルの頭上にッッッ!!!
全体が黒光りしている無機質なデザインの円盤ッ! その妙な存在感に気圧されてダニエルが固まっているうちに、優奈はその中に吸い込まれてしまったッッ!!
これはまずいッ! 今すぐ優奈を助けにいかなければ、二度と会えなくなってしまうかもしれないッッ!! そう思って、飛び上がろうと脚に力を込めたッッッ!!!
その時であるッッ!!
『──あー、あー、聞こえるかな?』
「誰だお前はッ!?」
『「誰だお前は」と聞かれれば、答えてあげるが世の情け』
「そういう茶番はいらないッッ!! 不要不急のパロディーは控えるべきだぞッッ!!」
『不要不急のパロディーってなんだい』
「やかましいッッッ!!!」
圧倒的茶番ッッ!! 空に吠える青年とそれの相手をする天の声という、傍から見るとあまりに滑稽な絵面であるッッッ!!!
だがそこにッ! 突如UFOから一人の人型が現れたッッ!!
白と黄金を基調とした衣はまるで神話に登場する神の如しッ! すらりと美しく伸びる手足はまさに至高の宝玉ッッ!!
そしてその顔はッッッ!!!
「……なんだあれはッッ!?!?」
「ありゃワニだ」
「うわあッ! 急に出てこないでくれ焼き鳥屋のおじさんッッ!!」
そうッ! 焼き鳥屋のおじさんが言った通り、頭部はまさにワニのそれであったッッ!! あまりに不釣り合い、あまりに歪であるッッッ!!!
が、そこ深掘りすると尺が伸びるので割愛するッッッッッ!!!!!
「……ふぅ、外に出るとやはり開放感が違うな」
「その声はッッ!!」
「そうだ、その自家用旅客機の主人だよ」
そう言って、奴は不適な笑みを浮かべるッ! ワニの顔で表情など分かるはずがないと思うだろうが、この時はなぜかわかったッッ!!
「突然すまないね、君の幼馴染を連れていくことになってしまって」
「──そうだッ! 優奈を解放しろお前ッッ!!」
「残念だが、それは無理な話だ」
「なんだとッッ!?!?」
ダニエル怒りのメンチ切りッッ!! 鍛え上げられた体を持つ彼のそれは尋常でない圧力を持ってワニ野郎に襲い掛かるッッッ!!!
だがッ! だがしかしッッ!! ワニ野郎はまるで動じていないッッ!! 奴は得意げな笑みのまま、言葉を続けたッッッ!!!
「実は、優奈くんは国王の娘なのだよ」
「…………はあッッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
驚愕ッッッッッ!!!!! これまで十数年を共に過ごしてきた幼馴染が実は王の娘であったという事実は、彼にとって寝耳に水であったッッッッッッ!!!!!!
「では、そういうことだから彼女のことは諦めてくれ」
そう言うや否や、そそくさとUFOの中に戻りその場を去っていくッッッ!!! 残されたのは、唖然とした表情を浮かべるダニエルと小難しいことを考えているようで考えていなさそうな表情の焼き鳥屋のおじさんだけであったッッッッッ!!!!!
静寂ッ! 圧倒的静寂ッッ!! ざわ……ざわ……と風に揺れる道端の草以外何も聞こえない住宅街で、ダニエルは地にくずおれたッッッッッ!!!!!
「優奈が……優奈が、連れ去られた……ッッ」
その事実を認識したダニエルは、心に深い傷を負ったッッ!! 彼にとって優奈は生きる糧であり人生の半分以上を占める存在であるッッッ!!! 故に、その絶望は計り知れないッッッッ!!!!
彼の心はキンキンに冷え切っていたッッッッッッ!!!!!!
──だがしかしッ! だがしかしッッッ!!!
「……いや、そんなこと絶対に許さない……ッッッ!!! 俺は優奈と結婚するって約束しているんだッッッッ!!!! 国に逆らってでも優奈は連れ戻すッッッッッッ!!!!!! その覚悟が、俺にはあるッッッッッッッッ!!!!!!!!」
なんとッ! なんとッッ!! 彼は国家反逆を住宅街のど真中で叫んだッッッッッ!!!!!
まさに自殺行為ッッ!! 近隣住民に通報される可能性を彼は考えなかったのだろうかッッッッ!?!?!?!?
「おい」
「なんだッッッ!?!?!?」
不意に焼き鳥屋のおじさんに話しかけられ、ダニエルは飛び上がったッッ!! そして、半身を引いて戦闘態勢をとるッッッ!!!
「……お前さん、国王に襲撃をかけるんだろ?」
「ああ、そうだッ!」
「なら、頼みがある」
焼き鳥屋のおじさんは、近年まれに見る真剣な表情で告げたッッッ!!!
「俺のことも救ってくれ」
「おう、任せておけッッ!! ……えッ!?」
「ああそうだ」
鎮痛な面持ちで彼は語るッッ!! 彼が背負った悲しい使命──ではなくッ!
「俺な、実は国家公務員なんだよ」
「おうッ!」
「で、副業としてこの焼き鳥屋を開いているんだが……国家公務員の方が免職になってしまいそうでね」
「焼き鳥屋の営業許可は取ってあるのかッッ!?!?」
「いや、とってないぞ? そんなもの必要ないだろう」
「…………それはあなたが悪いッッッ!!!」
しょーもない失態の一部始終をッッッ!!!
現代では、公務員は原則副業を禁止されているッ! 許可を得ているのであれば問題はないが、得ていないのでこの件については全て彼が悪いのであるッッッ!!!
どうして許されぬのだ、必ずかの邪智暴虐の法を除かねばならぬ、と激情のままに彼は語るッッ!! それに対してダニエルはッッッッ!!!!
「じゃあ俺、この辺りで帰りますねッッッ!!!」
顔をクシャクシャに歪め泣きじゃくるおじさんを置いて、さっさと帰宅したッッ!!
「うう……あァァァんまりだァァアァ…………」
おじさんの泣き声だけが、暗くなった住宅街にこだましていた……ッッ!!
*
そしてそれから約二週間後ッッ!!
ダニエルは優奈を救いにかつてアメリカと呼ばれていた大陸のかつてホワイトハウスと呼ばれていた建物に来ていたッッ!!
「ここに……優奈が‥‥ッッ!!」
自由を奪われた優奈の姿を想像し、ダニエルは拳を握りしめるッ! そしてッ!
「今、今助けにいくからなッッッ!!! 待っていろ優奈ッッッッッ!!!!!」
全力で地を蹴り、庭に直径数メートルの大穴を開けて元ホワイトハウスへと突撃したッッッッッ!!!!!
*
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
元ホワイトハウス内部にて、ダニエルは大声を上げながら疾走するッ! 彼が駆け抜けた後はすべからく傷が残り、建物に少なくないダメージを与えていたッッ!!
そしてッッッ!!!
「いたぞ! あいつだ──
「邪魔だッッッッッ!!!!!」
「ぐッ」
「ごぼッ」
待機していた警備員は皆、銃を発砲する間も無く全員一撃で絶命しているッッ!!
そうッッッ!!! 今のダニエルの右手はまさに命を刈り取る形をしているのだッッッッッ!!!!!
彼の手刀を打ち込まれたものは例外なく死を迎えるッッ!! まさに死を運ぶ者ッッッッ!!!! 凶悪極まりない存在であったッッッッッッ!!!!!!
さらに彼は、首から上が消し飛んだ肉塊を片手で持ち上げ、おもむろに噛み付くッッッッッ!!!!!
「ずっ……じゅる……ぢゅる……っぷはぁッッ!!」
そしてッッ!! 残っていた血を全て吸い上げ、己の糧に変えてしまったッッッ!!!
そうッ! 彼は吸血鬼の血を引いているが故、吸血鬼としての能力が使えるのだッッッッッ!!!!!
それすなわちッッ!!
「ふぅ……ッ! ──ッ、おお……ッッ!! 実に、実に清々しい気分だ………ッッッ!!!」
他者の血液を摂取し、自らの体を強化するッッッッ!!!!
「最高にハイってやつだアアアアアアーーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
その名も『生命吸収』ッッッッッッ!!!!!!
「フフ……ッ、フハハハ……ッ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッ!!!!!!!」
絶叫ッッ!! 生まれて初めて他者の血を得た彼は、吸血による快楽に取り憑かれるッッッ!!! 貪欲に生き血を求めるその様は、まさに狂気ッッッ!!!
禁忌とされる『生命吸収』に手を出してしまったが故の、悲惨な姿である…………ッッッッ!!!!
「もっと……ッ! もっとだ……ッッ!! もっと俺に血を寄越せエェェェェーーーーッッッ!!!」
100メートルッ! ダニエルはその距離をたった0.1秒で踏破し、その先にいた男の首筋に指を突き刺したッッ!! そして、力のままに首を握りしめるッッッ!!!
すると突如、男の体に異変が起きたッッッッッ!!!!!
「ぐ……がはぁ…………っ」
指を突き刺された部分から、血管が伸びるように大きく浮き上がるッ! やがてそれは全身に至り、やがて男は干からびた果物のように皺だらけになって絶命したッッッ!!!
残酷ッ! 実に残酷であるッッ!! だがダニエルはすでに快楽に取り憑かれ、己が犯している過ちに気づかないッッッ!!!
「おぉおーーーーーーーんッッッッ!!!!」
彼は禁忌の力で自分こそが真の支配者であると錯覚しッッ!! もはや理性は失っていたッッッッッッ!!!!!!
化物は駆けるッ! 本能に刻まれた優奈の肉体を求めて、全てを蹂躙せんと暴れ回るッッッ!!!
だがしかしッ! それを止める一人の男がいたッッ!!