妹にスキルを全部譲ったため、妹は『聖女』私は『農民』として転生しましたが、あまり変わりはありませんでした。
私には妹がいた。
あまり仲はよくなくて「なんでもできるお姉ちゃんに、私の気持ちはわからないわ!」というのが妹の口癖だった。
まあ、妹の言うことも一理ある。
私には妹の気持ちが本当にわからなかったからだ。
私は自分で言うのもなんなのだが世に言う天才タイプ。一度聞けば大概のことは覚えられ、そこから推論し新たな真実を発見することが大好きだった。
一方、妹はあまり物覚えがよくないタイプ。その上きちんと人の話を聞かないためミスや誤解が多い。
何度教えられても覚えられない妹の気持ちなど私には知る術はないし、ましてやわからないことをそのまま放置し、知る努力をしない気持ちなど到底理解できなかった。
そんな私と妹だが、ある日一緒に事故に遭いトラック転生することになった。
どうやら私はチートなスキルを貰って『聖女』として転生し、妹は『農民』となるらしい。
「そんなの嫌よ! 私もチートスキルをもらって聖女になりたい!」
叫ぶ妹の気持ちは、やっぱりわからない。
聖女なんて面倒なモノに、なんでなりたがるのだろう?
しかし、そこまでやりたいのならやればいい。
「じゃあ交替しましょう。私はスキルはいらないからみんなあげるわ」
それを聞いた女神は大慌て。なんとか思いとどまらせようとしてきたけれど、私は意志を変えなかった。
異世界転生では転生者の意志が何より尊重されるのだそうで、結果望みどおりになって妹は大喜び。
「聖女になってお姉ちゃんを見下してやるわ!」
ドヤ顔でそう言った。
「まあ頑張ってね」
「その上から目線、後悔させてやるから!」
その後、妹は『聖女』の力を持つ公爵令嬢として、私は田舎の『農民』として、異世界転生した。
それから二十年。
王宮で私は妹と再会している。
「なんで私じゃなく、そんな農民が聖女に選ばれるの!」
怒り狂った妹が私を指さした。
「生まれ持ったスキルに胡座をかき遊んでばかりいたお前が聖女になれるはずがない。その点彼女は農民だが、たゆまぬ努力で頂点へと上り詰め既に多くの功績を残している。聖女に相応しいのが誰かなど一目瞭然だ」
堂々と宣言するのは、この国の王子。
妹は納得できずに泣き喚いているが、もはやどうにもならないだろう。
だから「頑張ってね」と言ったのに。本当に妹は人の言うことを聞かない。
どうやら今世も前世と大して変わらないようだ。
私は、深いため息をついた。