冬の始まり2
門をくぐるとだだっ広い十字路が現れ、緑川と俺は迷わず右へ曲がった。
銀杏の並木道を進むとジョージアン様式の白い建物が幾つか見える。
どれも通学生用の寮だ。
ここ、メリウス学院には寄宿生と通学生がいる。
割合は3:1ぐらいだろうか、少数派の通学生でもかなり立派な寮が与えられ、授業の前にはここで出席を取られる。
談話室やキッチンはいつでも出入り自由で、自習時間や昼休みに入り浸る生徒も多い。
この方針は、代々英国人の理事長が決めたことだ。
真ん中の藤を絡ませたドアに手をかけ、俺はあくびを噛み殺す。
「ふわ〜ぁ、行くぞ緑川」
「よっしゃ、30秒早い」
ハンドルを回してドアを開けた途端、今までも漏れていた話し声が数倍になって聞こえてくる。
「お、新田!緑川!」
「お前ら今日もギリギリかよ〜」
「飴いる?もうこの缶捨てたいんだけど」
相変わらずうるさい…けど憎めない友達だ。
甘いものを口にしたい気分なので飴は貰っておく。
「ありがとう」
手を伸ばしかけたとき、腕にパシャっと冷たい感触を感じた。
「わ、悪りぃ!」
牧田が太った体を弾ませて頭を下げている。
「シャツ濡れてるよな、俺のと交換…って、え?」
目を皿のようにしている牧田を見て俺も腕に目をやると、そこに染みなどなかった。
冷たいベトッとした感触もない。
「…うん、気にしないで」
俺は首を傾げながら曖昧に笑いかけておく。
きっと見間違いだったんだよな。