冬の始まり1
横断歩道を渡ったところで、後ろから妙に掠れた声が聞こえてきた。
「おーい、風磨!」
振り向けば緑川が膝に手をついて道路の向こう側に立っていた。
信号は青なのになかなか歩き出さず、とうとう赤になってもまだ荒い息をしている。
風邪でも引いたんだろうか、とまだ眠い頭で考えながら一応待ってやる。
「サンキュー。今日まじで寒すぎな」
「それが寝坊の言い訳か?」
笑いながら歩き始めると、緑川がぶるっと震えながら付いてくる。
「まあそれもそうだし、なんか喉も痛くて」
「だろうな…てかお前、また風邪引いたのかよ」
こいつは毎年この時期になると鼻水を垂らしてる気がする。
「しょうがねえだろ、今流行ってんじゃん。お前はよく平気だよな毎年…くしゅっ」
確かに俺は、自分でも不思議なぐらい風邪を引かない。
今だって緑川が騒いでる割には、全く寒さを感じない。体質だろうか。
「ほら」
お母さんに無理やり持たされたマフラーを渡すと、非常に喜んでいる。
こっちとしても鞄が軽くなって助かるし、ウィンウィンとはまさにこういうことだろう。
ちょっとおとなしくなった緑川を横目に、俺は少し、いやかなり、足を速めた。
このままでは遅刻確定だ。
俺はいつもギリギリだが、授業を欠席したことはない。