音楽教師の異世界冒険譚
美しき司祭は言った。
「神はあなたを遣わしたのです。あなたは与えられた使命を知らなくてはいけない。あなたにとってもっとも大切なものは何かを知り、それらを護るために自ら成長しなくてはいけない。あなたがあなた自身を知るとき、真実の扉は開かれるでしょう。」
「ふう、今日の授業はつかれたなぁ。あいつら、隙あらばおしゃべり始めるから、、、、俺の喉壊す気か?」
勤務先の学校から峠を通って隣町にある自宅を目指す。就職戦線をなんとか切り抜けて教員になり、念願かなって去年初ボーナスを頭金にして購入したaudyのA4が軽快に峠道を駆け抜けていく。学生の間はずっと中古のコンパクトカーに乗っていたからやっぱり大きなセダンは快適だなぁ。まあ、あと6年以上もマイカーローンを払い続けなきゃいけない訳だけどね。おっさん趣味と笑いたければ笑うがいい。なんと言われようと俺はセダンが好きなんだ。車はやっぱボンネットとトランクが突きだしてないとね!!
あ、自己紹介してなかった(汗)
俺は慧・ジーリック。22歳独身。とある音大の付属高校の教師をしている。今日も授業を終えて帰宅の途中だ。担当はヴァイオリン科。ヴァイオリンを主科にしてる生徒の場合は90分の授業で1人の生徒のレッスンをするわけだけど、ピアノ科や声楽科の生徒の副科のレッスンだと90分で4人。新米教師の俺はまだ主科のレッスンは任されておらず、副科のヴァイオリンの授業とオーケストラ指導の副教官、音楽理論(基礎)や音楽史などの座学を担当している。必然的にレッスンを受けている生徒以外の3人は他の生徒のレッスンを延々と見学していなければならなくなる。おまけに音楽理論や音楽史の授業って、俺が学生の頃も確かに退屈したし、、、、退屈しだした生徒同士でおしゃべりしはじめてしまう気持ちもわからなくはないけど、、、、いや、わかっちゃダメだろ(汗)他の生徒のレッスンを見学することも大事な学習なんだし、座学だって授業聴いてなきゃテストで困るだろ、、、、などとぶつぶつぼやきながら通い慣れた道を運転していく。
「今夜は生姜焼って言ってたよな。」早く帰ってりりあの作った夕食が食べたいなぁ。あ、りりあっていうのは俺の妹。高校2年生で、プラチナブロンドのさらさらな髪がよく似合う超美人なんだが、料理が大好きでついでに超ブラコン。多少ウザい時もあるが、これだけ可愛いとやはり甘えられて悪い気はしない。ついつい甘やかしてしまうので家にいるときは俺にべったりだ。「こんなんじゃ彼氏もできないぞ。」と言ったら「お兄ちゃんがいるからいいもん。」と言い切りやがった。大学生の時、彼女を家に連れていったら当時小学生だったりりあが怒り狂って修羅場になった。以来サークルも飲み会も禁止、バイトも車のローンを支払うための最低限しかさせてもらえず、放課後は速やかに帰宅しないとすぐ電話がかかって来るので恋人を作ることもできず、就職してからも部活の顧問の日以外は定時帰宅。ちなみに顧問をしている部活は週一回の陶芸部。週に何日もやると素焼き前の作品の乾燥をするスペースが足りなくなってしまうのだそうで、趣味で陶芸をやってた先生が退職してしまい、指導できる教員がいなかったところに「どれか部活の顧問をしてください」と言われた俺が週1という条件に飛びついたわけだ。そのかわり陶芸の入門書と格闘するはめになってしまったけど。
それにしても、幸い両親ともに音楽家なので自宅には練習スタジオが2つあり、学校に残らなくても家でいくらでも練習出来るからいいものの、俺の青春はどこへいってしまったんだ?
ちなみに我が家の使用言語は日本語のため、「もしかしてハーフ?」って感じの俺と違って、りりあはバリバリ外国人顔のくせに親父の母国語であるドイツ語はしゃべれない。俺も大学で第二外国語として単位を取ったあとはほったらかしたのでほとんどしゃべれないんだけどね(笑)
お袋が外国語が苦手なので親父が必死で日本語を勉強したらしい。うちの両親それでよく結婚したよな。ついでにりりあは英語も苦手で、テスト前はいつも泣きついてくるので俺の方が英語がめちゃめちゃ得意になってしまった。本人いわく「高校卒業したら料理学校に行ってお兄ちゃんのご飯は一生りりあが作ってあげるからね?だから英語しゃべれなくてもノープログラム♪」だそうだ。確かに勉強はともかく料理だけはかなりの腕前だからなぁ、うちのブラコン姫は。ん?ノープログラム??ノープロブレムだろーが!!問題大有りだ!!第一、一生って、俺を結婚させないつもりかよ?
夕食の生姜焼を想像しながらいつもの石畳を、、、、??石畳?、、、、って、ここどこだ?