Ep.07 ドッグファイト攻略策
次の日、昨日の反省のため、部室に集合した。
「昴、ドッグファイトもうちょっとどうにかしないとね……」
昨日の特訓。並列飛行までは問題なかった俺だが、1対1の空中戦となるとボロボロだった。
「やっぱ2年のブランクはでかいよ……」
以前は、まるで飛行機が俺の手足になったように自在に操ることができたものだった。
テニス選手が、ラケットを自分の腕の延長として捉えられるようになる、というのと近いかもしれない。
さすがに2年も離れていると、個々の実力が如実に現れるドッグファイトにはついていけなかった。
そもそも、模擬戦闘会で使われる模擬弾はあまり遠くへ飛ばない。
必然的に、模擬戦闘の勝敗を分けるのは近接空中戦――”ドッグファイト”となる。
「このままじゃ負けるな」
相手は去年のU18大会で準優勝している。
万全の態勢で臨んだとしても、勝負の行方は分からない。
「まずは相手の分析をしてみてはどうでしょうか?」
亮人が意見する。
尤もだ。ひとまず、相手の試合映像を探すことにした。
最近は模擬戦闘ブームとあって、インターネットにはいくらでも映像が転がっている。
というわけで去年、相手――空戦研究会が準優勝したトーナメントの3回戦、空戦研究会が勝った時の試合映像を見ていくことになった。
「四式戦かぁ」
空戦研究会の2人の機体は、共に四式戦闘機――疾風の愛称で知られる大戦後期の優秀な機体だった。
四式戦は、コンパクトな外観のわりに、相当な馬力を持つ型式だ。
「どっちかというと私寄りのスタイルね」
結花の二式戦の延長として存在する四式戦。重武装かつ速度性能で相手を逃がさないスタイルだ。
対する相手――御門航空学園の機体は、一式戦と零戦だった。
一式戦――”隼”とも呼ぶ――は、小回りのきく機体だが、俺の九七式戦同様、軽戦闘機で馬力には不安がある。
もう一方、零戦――零式艦上戦闘機五二乙型――は、重武装かつ低速域でも運動性能が高い。
まず標的になったのは、一式戦だった。
四式戦に後ろからつかれ、上下に揺さぶられた相手は結局馬力勝負という相当に分の悪い勝負に挑まなくてはならなくなる。
四式戦が苦手とする急旋回で逃げる方法もあるが、後ろにつかれている以上行動を読まれる可能性が高いため、迂闊には動けない。
しかも、旋回時には高度をロスすることになる。
昇降性能で勝てない以上、高度のロスはなるべく避けたいところだろう。
しかし高度を保って旋回しようとすれば、今度は速度をロスすることになる。
どちらにせよ、状況は最悪ということだ。
一式戦はしばらく逃げたものの、被弾して撃墜判定を受けた。
続いて、1機となった零戦に2機の四式戦が襲い掛かる。
こちらも為すすべなく被弾し、空戦研究会の勝利となった。
「これは……かなり脅威だな」
俺の九七式戦は、一式戦とほぼ同等の水平運動性を誇るが、垂直運動性能は一式戦のほうが高い。
ただでさえ九七式戦で四式戦に挑むというのは、一式戦で挑む以上に不利なのだが、肝心な俺の勘まで鈍っていてうまく操れないとしたら、勝ち目は皆無だ。
ひたすら馬力にもの言わせた相手に押し負けることは必至だろう。
勝つためには、どうにかして勘をとりもどし、水平方向の格闘戦で圧倒するしかない。
明日からのメニューは、ひたすらドッグファイトの訓練だ。
本来であれば結花との連携確認なんかもしなければならないのだが、いかんせん時間がない。
ひとまず、俺の勘を取り戻す実戦訓練が最優先されることになった。