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Ep.04 試合に向けて

図らずも俺の選手復帰宣言となってしまった昨日から日をまたいで、翌日。


朝から、俺は頭を抱えていた。


「空戦研究会に何て言おう……」


ハハハ、お前らの大会出場権、もらってやるぜ。


……なんて言った日には、どうなってしまうことやら。


「はあ……真っ正面から頼むしかないか」


気が重い。


しかし、善は急げ。動くなら早いに越したことはない。


「仕方ない、今日の放課後にでも行くか」


空戦研究会は部員が倍増したものの、まだ"部"には昇格していない同好会だ。


部員数が規定の5人を割っても、温情で存続させてもらっているウチの部は、ただでさえ空戦研究会にとっては目の敵。


最悪、取り合ってもらえない可能性もある。


昨日、だいぶ騒ぎが大きくなってしまったので、空戦研究会の部員にも話が知れわたっていておかしくはない。


放課後、3年2組の教室。


ここが、空戦研究会の活動拠点となっている。


「失礼しま~す」


ドアをノックして入る。


部屋には、書類と格闘する空戦研究会部長、白鳥しらとり 一華いちか先輩が居た。


他の部員は、どうやら出払っているらしい。


「曲研ね。話は聞いているわ」


書類から目を上げるや、白鳥先輩は俺を見据えた。


「ひとことで言うわ。ありえない」


ですよねー。相当に怒っていらっしゃる。


「でも」


そう前置きして、先輩は続ける。


「貴方たちが伝説の選手だという事実も、無視できない」


先輩の目つきが和らいだ。


「こうしましょう。1週間後、勝負の場を設けます」


「我々空戦研究会からは、大会出場予定の2人を出しましょう。貴方たちが勝ったら、出場権は差し上げます。それでよろしい?」


いつのまにか下げていた頭を上げ、先輩の手を取る。


「よろしくお願いします!」


「それじゃあ、良い試合に期待しているわ」



別れ際、学園としては一番強いチームが出場するのが本望でしょうから——、そう言ってくれた白鳥先輩には頭が下がる思いだ。


ともかく。


せっかくチャンスを得たのだ。これをモノにできないようでは、とんだ笑い者になる。


ひとまず、曲研の部室に急ぐことにした。





*       *       *




部室には、結花が来ていた。


「吉田さんと望月君は帰ったわよ」


「あー、今日は活動しないって伝えちゃったからなぁ」


名前の挙がった2人は、我が”弱小”曲研の仲間たちだ。

活動はしないと伝えたが、一応部に顔を出してくれていたらしい。


「自己紹介は済んでるの?」


「簡単に名前だけね」


「それじゃぁ明日ちゃんと自己紹介の時間とるか」


既存部員たちが、結花に振り回されなければいいが……。


まぁ平気だろう、昔から引きずりまわされるのは俺だけだった。


「それで……どうだったの? 部長さん」


そう、これまでのやり取りからおおよその見当はつくだろうが、俺は曲研の部長になっていた。


部活の体裁を最低限守るために引退を先延ばしにしていた橋口先輩が昨日、結花が入るなら、と部長の座を俺に明け渡して抜けていったのだ。


とはいえ、まだ部活動規定数の5人は割っているのだが。


「元凶がどうしてそんなケロっとしてんだか……」


「で? どうだったの」


1週間後に試合をすることになったことを伝える。


「ふーん。なら大丈夫ね、明日とか言われなくてよかった」


「楽天的だなぁ」


俺なんて、ここ2年近く操縦から離れていたのだ。そんな簡単に言わないでほしい。


「だって……昴なら大丈夫でしょ? ブランクなんて」


「あのなぁ、いくらなんでも2年も経てば鈍るってもんよ」


それに、引退直前は本当に酷い状況だったわけだし。


勘が1週間やそこらの練習で簡単に戻るとは思えない。


「昴、行くわよ」


急に立ち上がる結花。


「どこへ?」


「決まってるでしょ? ガレージよ」


俺が以前使っていた戦闘機――九七式戦闘機きゅうななしきせんとうきという型式の機体――は、引退後も未練たらしく手放さず、今は学園のガレージに置かせてもらっている。


しかし、ガレージや滑走路の使用には事前の許可が必要だ。


「使用許可取ってないなら今日は使えないぞ」


「ざんね~ん、昨日取っておいたの」


「……」


ほんと、結花はどこまで俺を引きずりまわせば気が済むのか……。


しかし、よく昨日の今日で許可が出るもんだ。1週間前くらいには申請を出していないと通らないと聞いたことがあるが……。


俺の疑問を見越してか、結花が口を開く。


「だって私。一応特待生だし」


……そうだったな。


俺が競技から遠ざかっていたこの2年の間も結花は国内外で様々な結果を残しているので、転校生ながら”特待生”なのだ。


だからこそ、こうしてわざわざ引退した俺に固執する理由がわからないのだが――。


「仕方ない、行くか」


2年というブランクに多少の不安を抱えつつ、ガレージへと向かった。

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