Ep.03 そして嵐はやってくる
5月。
2年生に進級して、約1ヶ月。
新緑が益々青く色づく頃、突如として嵐はやってきた。
「椎野 結花です。よろしくお願いします」
突然の転校生。
周りの男子達が、可愛いだの何のと騒ぎ出す中、俺はひとり呆然としていた。
椎野 結花。
かつて共に空を駆けた、思い出の女の子。
日本に帰ってきていることは知っていたが、まさかこんな形で再会することになるとは思いもよらなかった。
自己紹介が終わり、俺の3つ前にある空席へ案内される結花。
こちらを見て、微笑んだような気がした。
* * *
1限目が終わり、休み時間。
ガタッと音を立てて席を立った結花は、恒例の転校生質問攻めの群衆を割るようにして、俺の前にやってきた。
「昴っ! 私、やっぱ昴とじゃなきゃ駄目なの!」
突然の告白に、クラス中が騒然とする。
愛の告白?
否、そうではない。
「私ともう一度、模擬戦闘会に出よ?」
選手を引退した俺を、引き戻すためだ。
「俺、曲研だからさ。大会に出るのは無理だよ」
「私が曲研に入れば無問題っしょ!」
ようするに、彼女はこう言っている。
学園内でひとつの部しか出場権がない、模擬戦闘会。
その出場権を、俺と結花のタッグで空戦研究会から奪え、と。
「でもさ、それは空戦研究会のメンツを潰すことになるだろ?」
結花は、ノンノンノン、と指を振る。
「最近空戦ブームだからさ、大会はいくつもあるのよ。ひとつの大会にも出られない曲研に、少しは分けてくれてもいいと思わない?」
きっと俺が復帰をを渋ることは、彼女の中では想定の範疇だったのだろう。
ご丁寧にも、色々な情報を載せたペーパーまで用意して力説してくる。
こうなったら、結花はもうテコでも動かない。
俺の周りには、面白そうだとばかりに見物客がおしよせてきていた。
「それじゃ、一緒に出てくれるよね」
ああ、結花は昔からそういう奴だった。
いつも、俺の都合なんか無視して。
道に迷った俺を、強引に連れ戻す。
「わーったよ、出りゃいいんだろ、出りゃ」
結花には、やはりかなわない。
渋々承諾する。
でも、不思議と不快感はない。
目の前には、あの時と変わらない笑顔があった。