Ep.02 折れた翼
――俺が引退を決意した、あの日。
もう飛ばないって、決めたのに。
それなのに航空学園に入学してしまった俺は、やはり未練に囚われていたのだろうか——。
中学生の頃、俺は飛ぶことに夢中だった。
親友であり、競技でタッグを組んでいた幼馴染、椎野 結花と一緒に、大空をかけまわっていた。
――"模擬戦闘"
俺たち2人が、食事も忘れて没頭した競技。
メダルを獲ることもあった。
出る大会、出る大会で賞を獲っては、大人たちにちやほやされる。
でも、本当はそんなのはどうでも良くて。
ただ果てのない蒼空を翔ける、その楽しさが全てだった。
中学二年生の夏、ついに俺たちはU15《中学生》大会のチャンピオンとなる。
その勢いで一般の部に出場、3位に入賞。
いつしか俺たち2人には、お揃いの銀色の機体から連想された「銀翼の双蝶」という名がつけられていた。
どこまでも行けると思った。
碧の果て、どこまでも。
結花と一緒なら。
そんな中、結花にアメリカ行きの話が持ち上がる。
アメリカは、日本と比べて航空産業が盛んだ。
競技数、試合環境――あらゆる面で日本は敵わない。
事実、アメリカ留学は模擬戦闘のプロ入りの一歩と言われている。
「行くの? アメリカ」
「昴が行くなら私も行くって言っといた」
「……それは無理だよ。だって、俺にはアメリカ行きの話は来てないから」
「大丈夫! もうちょっとしたら昴にも話が来るって」
一緒にやってきたんだから、私にだけ話が来るわけない——
そう言った結花を信じて、俺は少し待ってみることにした。
しかし、待てども待てども、俺にアメリカ行きの話が持ち上がることは無かった。
だから、一週間と少し経ったその日、俺はとうとう結花に切り出したんだ。
「結花、行ってきなよ」
「いやだよ。昴と一緒に行くの!」
「後から追いかけるからさ、先行っててよ」
嘘だった。
どうせ自分はアメリカに行けるような器じゃないんだ。きっと俺は、お眼鏡にかなわなかったのだろう。
「ほんと?」
「うん。だから、行ってきなよ」
「……わかった」
何週間かした頃、結花はアメリカへ発っていった。
結花が発った日、俺は近所のコンビニで、週刊誌を見かけてしまう。
「"双蝶"、2人の明暗がわかれる!」
「"双蝶"、タッグ解散か」
悲しかった。
俺は所詮、結花と同じ土俵には立てないんだと。
もう二度と、楽しい日々は戻らないんだと。
それを改めて眼前に突きつけられた思いがして。
俺は泣きながら家へと駆け戻った。
両親や当時師事していたコーチから励まされ、俺は他の人とタッグを組み直して何度か大会に出た。
しかし、結果は芳しくない。
6位、10位、15位……。
段々と順位が下がっていった。
試合の度、俺のミスは増えていく。
相手の子は文句ひとつ言ってこなかったけれど、それが反ってって俺の中の罪悪感を大きくした。
中学3年の秋、俺はとうとう、選手を引退した。
もう二度と飛ぶもんか――
そう思った。
だが、どこかに諦めきれない何かがあったのかもしれない。
もう二度と飛ぶもんか、そう思っていたのに、気づけば桜花航空学園に入っていたのだ。
そしてそれが、俺の意思を超えて後の騒動へと繋がってゆく——。
)続:Ep.03