Ep.01 曲芸飛行研究部
今から約3ヶ月前、2月の上旬。
まだ1年生だった俺の元に、昔馴染の3年生、橋口先輩がやってくるや、頭を下げた。
「昴くん、我が部に力を貸してくれないか」
橋口先輩は、曲芸飛行研究部——通称"曲研"の部長だ。
曲芸飛行大会で毎度良い成績を残している部が、俺に何の用があるというのか——。
「大会に出てくれとは言わない。尤≪もっと≫も、今の曲研では大会に出ることはできないだろうけどね」
「どういうことですか?」
この学園——桜花航空学園の曲芸飛行研究部といえば、名の知れた部活動だ。
大会成績も優秀、部員数も質も申し分なかったはず。
いくら俺、宙杜 昴が「"銀翼の双蝶"の片翼」だとしても、部長自ら恥を忍んで頭を下げに来るようなことは考えにくい。
しかし、先輩が発したのは、思いもよらない言葉だった。
「それが……曲芸飛行大会が休止になってね」
「……休止?」
「ああ。最近は模擬戦闘のほうが人気で、ただでさえ下火だったところに、利権やらが絡んで運営ができなくなったらしいんだ」
曲芸飛行大会の休止。
休止、というのは建前で、実質は無くなったも同然なのだという。
曲芸飛行大会に出るための部であった曲研は、もはや部の存在意義を失った形となったのだ。
当然部員離れが進み、創部70年という伝統ある部活動は、あっという間に廃部危機に陥った。
「部員の大半が辞めてしまって、25人いた部員が今や3年生を入れて4人だよ……」
たしか、部活動の規定人数が5人だったはずだ。
このまま誰も入らないと、廃部になってしまうだろう。
「だから、昴くんにお願いがある。我が部に入部してくれ」
橋口先輩を含めた3年生が2人いるという。
桜花航空学園は専門学校なので5年制だが、曲芸飛行大会のU18《高校生》部門への出場を活動の主軸とする曲研は、3年生の終わりで引退となるのだそうだ。
このままでは、近いうちに部員数が2人となってしまう。
「わかりました。大会に出ないということであれば、入部します」
かくして、俺の曲研ライフが始まった。