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コトハのあめ玉  作者: 空超未来一
『十人のインディアン』
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十人のインディアン:壱

 十人の少年並んでいた……一人帰って九人になった

 九人の少年ブランコしてた……一人落っこちて八人になった

 八人の少年楽しそうにした……一人眠って七人になった

 七人の少年いたずらしてた……一人首折って六人になった

 六人の少年遊んではねた……一人くたばって五人になった

 五人の少年井戸にいた……一人落っこちて四人になった

 四人の少年飲んで浮かれた……一人潰れて三人になった

 三人の少年舟に乗った……一人溺れて二人になった

 二人の少年銃をいじった……一人撃たれて一人になった

 一人の少年寂しくしてた……その子が結婚して、誰もいなくなった



 (セプティマス・ウィナー 作1868年)



 ――――誰もいなくなった。





「……?」


 どこか聞き覚えのあるリズムに俺の意識は奪われた。口ずさむのはオカルト本を読みふける泡子だ。


「泡子、それなんだっけ?」

「……十人のインディアン」


 そのタイトルではピンとこなかったが、どこかかすめている気もする。痒い所に手が届かないとはこんな感じだ。

 十人のインディアン……十人の……インディアン……インディアン……。


「ああ、”Ten Little Injuns”か!」

「ほえっ!?」


 突拍子に思い出したものだから柄に似合わず大声をあげてしまった。びっくりした琴葉が椅子からひっくり返って転がる。

 たまらない様子で琴葉に抗議された。


「ちょっとゆうやくん! おったまげるじゃないですか(じゅる)」

「わ、悪い……つかお前、寝てたな?」

「ね、寝てませんよ失敬な!」

「反対側にもよだれがついてるぞ」

「証拠隠滅に失敗しただと……?」

「ウソだよばか」


 まったく、今は部活真っ最中というのに部長が居眠りしてどうしたものか。……いやまあ、大したことはしてないが。机の上に広がる無残なUNOの姿を見れば誰でも分かる。

 とはいえ……。


「十人のインディアンかあ。つい最近英語の時間で習ったから耳に残ってたんだろうなあ。泡子のとこでもやったのか?」

「……うん。非常に興味深い内容」

「おっ、お前もそう思うか」

「あ、あのっ」


 そこで話についていけない様子のもここが目を回しながら胸の前で挙手した。その手はあたふたと暴れている。


「じゅ、十人のインディアンってなんなのかなっ? その、わたしのクラスではまだやってなくて……」

「わたしも気になります!」

「お前は俺と同じクラスだろう。授業でも寝とったな」

「(ぎくっ)」


 この調子じゃ近々控えてる期末テストは悲惨な結果に終わるだろう。あの優しいフィン先生のことだから何とかフォローしようとするんだろうが、さてどこまで出来ることやら。琴葉に限っては今更な気もするな。

 成績のことはひとまず置いておき。


「十人のインディアンはアメリカを中心に広まった民謡で主に子供向けの歌として知られている。十人のインディアン……つまり子供たちが遊ぶわけだが、徐々に一人一人減っていくんだ」

「減っていくの?」

「どうしてです?」

「……みんな死んでいくんじゃよ」

「「ひゃっ!?」」


 ドスのきいた泡子の声音に、もここと琴葉の二人は身を寄せ合って驚く。かくいう俺も正直焦った。

 泡子のほっぺを餅のように伸ばしつつ俺は説明を続ける。


「童謡とはいえ残酷な内容でな、子供が一人一人消えていくんだ。一人は家に帰り、一人はブランコから落ちて、一人は居眠りして脱落する。こうやって最後の一人も消えて、結局そこには誰もいなくなったって具合にな」

「み、みんな死んじゃうんじゃないんだ。よかったあ……のかな?」

「と思うだろ?」


 せっかく安堵したところ悪かったが俺は即座に否定してやった。ほっとした顔に雲がかかるのを見て小動物をいじめてるみたいな気持ちになる……。

 とりあえず一言謝っておき、先を進めた。


「一般的に知られている歌詞じゃ子供は死なない。いや、さすがに無茶苦茶なやつもあるんだが基本的にほのぼのしてるんだ」

「……いなりん、見せたほうが早いかも」

「そうだな。ちょっと待ってくれ」


 かばんからスマホを取り出し、例のG先生に電子の海から古い歌を探してもらう。校内で携帯は禁止なんですよー! とか居眠り魔に言われても説得力がない。

 むふうと頬を膨らませる琴葉はさておき画面に表示されたものを共有した。


「なんだか……ちょっと気味悪いかも」

「他に優しい歌詞を書いた作詞家がいる。もっといえばあの推理小説家アガサクリスティの『そして誰もいなくなった』の原作も十人のインディアンだ」

「ミステリーの題材にもなったとは……段々雲行きが怪しくなってきましたね……」

「その考えは微妙なとこだが……」


 まあしかし、琴葉のいうこともわからんでもない。

『十人のインディアン』にはそれだけ魔性の力が込められているということだ。人を魅了し、陥れ、そして食らい尽くす。

 人の知ることのない『未知』とは恐ろしく、かつ、甘いものである。

 スマホを眺め、俺は口にした。


「……この少年たちはみんな死んでるんじゃないか、と思う」

「へ? どういうことですゆうやくん」

「例えばだ、ブランコに乗っていた少年がいるだろう。一人落ちて八人になったというが、果たしてブランコから落ちただけで少年のグループから外れるか?」


 次の少年にしてもそうだ。眠ってるだけで少年たちに見捨てられるというのも考えにくい。可能性としては残るが逆説的に考えても証明はできない。

 つまり、だ。


「全員死んだという説が一番現実的だ」


 一人目は帰宅中の誘拐もしくは事故による死亡。

 二人目は頭部損傷による死亡。

 三人目は薬物使用による死亡。

 四人目は脊髄損傷による死亡。

 五人目は過労による死亡。

 六人目は転落による死亡。

 七人目は急性アルコール中毒による死亡。

 八人目は溺れることによる死亡。

 九人目は銃撃による死亡。

 そして十人目は……、


「十人目が分からなんだよな、これが」

「……ぼくもそこを研究してる」

「普通に幸せになったじゃダメなのかな……?」


 もここが苦笑いしてるが、やはり俺にはそうは思えない。最後の一人だけが幸せになるってのも悪くはないが、文言が気になって仕方がない。

 最後の二人になったとき、一人が銃を放ってもう一人を殺害した。生き残ったほうが結婚して誰もいなくなったとあるけれど。

 それなら一人が二人になったと記載するはずだ。あくまで主体は少年。今では古臭い考えだが、当時は女性が男性のもとにやってくるという考え方だった。すなわち少年+お嫁さんの形をとるわけだ。

 最後に誰もいなくなったほうが話としてはすっきりまとまってるし、真実はそうなのかもしれないけど……。


「うーん……」

「珍しくゆうやくんが頭を抱えてうなってますね……明日は雪が降るかも!」

「……雪合戦したい」

「私はその雪でかき氷食べたいなあ」

「せめて季節感をそろえなさい」


 十人のインディアンの話題はここで途切れた。

 けれど、俺の頭の中は十人の子供が踊ったり暴れたり蹴ったりのパーティー状態だ。その日の部活のことはほとんど覚えていない。

 ただ。


「(考えてダメなときは経験あるのみです)」

「(おもしろそうかもっ)」

「(……詳しく聞かせたもう)」


 帰り際に聞こえた三人の小声が妙に頭に残った。


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