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「少し先の世界から来たの。わたしたちの未来のために」季節は7月の終わりで、少しずつ日の長さを感じているころだった。渡り廊下は暑い、先を急ぐ僕に見慣れない女子生徒はこう言った。僕らは受験シーズンの真っ只中にいて、ストレスで頭のねじが外れてしまうこともあるだろうと思う。夏期講習に行くはずがネカフェで漫画を読み漁っていた先週末のことを考えていたら、「わたしのことわからないの」歩幅を緩める僕に合わせるように、彼女は尚言った。「未来から来たんだよ。わたし、3組の高野。」「未来からって、じゃあ今何歳なわけ?」「18歳、高校三年生だよ。少し後の世界、具体的に言うと4年後くらいかな、そこからタイムリープ?してきたっぽい。」「少し後にも程があるだろ」そこまで言って、ひんやりとした冷気が僕らの身体を覆った。同級生のどうしようもない電波な話に付き合っているほど受験生は暇ではない。「ていうか、君も受験生だろ」ふと気づいて、そう聞くと意味ありげに笑みを携えている彼女の口が開く。「自分がどこの大学に行くかはもうわかってる。もちろん、遠野くん。君のことも」空調のきいた校内は涼しく快適だ。下校するのであろう生徒とすれ違いながら、背中に汗がつたっていくのを感じていた。「わたしの話、少し聞いてよ」受験のことなら心配しなくて平気だよ、にこやかにそう付け加えた彼女と初めて目があってようやく僕は足を止めたのである。「わたしたち、3年かな4年かな、そのくらい後に、お付き合いすることになるんだけど、別れちゃうの」「わたし、別れたくないから未来を変えに、過去に来たんだ」しょーもな。絶対嘘。すぐさま足を止めたことを後悔したわけだけど、信用を得られないのは彼女も想定の範囲内だったのであろうと思う。「お父さんやお母さん、飼ってる犬の名前、犬の名前をつけたのが遠野くんだってこと、人生で納豆を食べたことがないこと、一昨日図書館で借りた本、全部わかるよ、知ってるよ」「それってストーカーとどう違うの」「はじめて納豆を食べるのがいつかも知ってる、びっくりして吐き出しちゃうことも」「なんかちょっと、気持ち悪いんだけど、高野さん」「だよねえ。」だよねえってなんだ。そもそも面識のほとんどない女子生徒とこんな話をしていることが異常なのに。「遠野くんは、大学在学中実習に行くの。そこでお昼ごはんが出されて、そこで初めて納豆を食べるよ。」「はあ、」「そんで、意味がわからなくてトイレで吐き出しちゃうよ、ちょっと面白いよね」いかにも僕がしそうなことで、確かにちょっと面白かった。

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