雌山羊は大嫌い 上
異世界といえばチートハーレムである。無論、俺も男、ハーレムという言葉には心躍るものがある。
この世界には多種多様な美女美少女がひしめいている。人間の美女はもちろん、ケモミミ元気娘、エルフのお姉さん、野性味あふれる獣人美女。転生者と見るや玉の輿を狙ってくる女ばかりだから向こうから積極的に来てくれる。男の俺としては嬉しい限りである。
ただ、どんな女とのセックスも飽きるものだ。運命の人と思って結婚しても、亭主が酒の溺れたり女房が子どもを虐待したりするように幸せというのもなれてしまえばただの惰性だ。
惰性とはいえ、気持ちいいものは気持ちいのである。魔法で強化した魔羅と精力で、ベッドの上のレスリング四回戦目が終わったところで、一服していた。
隣で横になっている女は獣人だ。耳に生えた獣の耳が愛らしい。鹿のようにしなやかな手足に、ちょっとキツめの美形。さっきまで俺がドック・スタイルでファックしていたせいで今は絶え絶えになった息を整えている。
「ねえ」
ようやく落ち着いたらしい獣人の女が言った。ピロートークは嫌いだ。女も男みたいにヤッたら満足して寝てくれりゃいいのに。
「ちょっと、折り入って頼みたいことがあるんだけど……」
ほらな。こんなことばっかりだ。まあ、生理が来ないとかそういう報告に比べたら百万倍マシかもしれないが。
獣人女の紹介で、俺は「客」と会うことになった。
おしゃれなカフェのオープン席で、俺は街を眺めた。どこかの季節労働者が安い賃金で作ったコーヒー豆を目の前で挽いて淹れてくれる、小さなカフェ。
ちびちび飲んでいたブラックコーヒーが半分くらいになったとき、待ち人は来た。ねじ曲がった二本の角が生えた、中年の男。
「龍ヶ宮さんか?」
訛りの強い発音だった。そうだと答えると中年男は周りを気にしながら席についた。
「依頼内容は聞いたかもしれませんが、一応依頼主の私からも」
報酬が出るなら細かいことはどうでもいい。
「私の娘のサコーを探してほしい。女の癖に結婚したくないと言って、故郷の村を逃げ出してこの街に入ってから足取りがつかめない」
ワーオ。自分の娘に酷い言いよう。
「……獣人なんてこの街には五万といる。特徴は?」
「私のものと似た、山羊の角。それにかなり美しい」
男は少しだけ得意げに言った。
「それだけじゃだめだ。どこかに傷があるとか、どんなことをしているとか、そういうことはないのか?」
「一族に伝わる宝刀を持っている」
男は苦々しく言った。
「サコーを見つけられるとしたらその剣が目印になるだろう。柄に二尾の狼が彫ってある」
「重要なものなのか」
「ああ、代々長男に受け継がれ戦闘に使われてきた名刀だ。私の祖先が襲ってきた狼人族を斬り殺したと言われる業物だ。女ごときに使いこなせるものじゃない」
俺はため息をついた。目印は珍しい刀だけ。獣人の美形の女はどうしてこうトラブルばかり起こすのか。
「これが前金だ」
男は懐からずっしりと重い革の袋を取り出した。受け取ってみるとかなりの額が入っている。
「サコーは故郷に許婚が待ってる。必ず取り戻してほしい」
男は獣人の中ではそれなりの貴族であるらしい。倹約家の俺の生活水準から考えれば前金だけで満足できるレベル。
「わかった、探してみよう」
「助かる」
金はあるに越したことはない。俺はブラックコーヒーの残りを一気に飲み干して立ち上がった。