あたしはゆうれい 下
ジョグジャカルタに帰ってきて、俺はちょっとした遊びを考えついた。下半身に脳みそがある男たちには心臓に悪いいたずら。この前の一件で金のない俺にはうってつけの金策。
俺は小桜遠乃になって街に繰り出した。向かうのは服屋。
細い肩が露出したオフショルダーのブラウス。膝下までのフレアスカート。
街に繰り出すと、ねっとりした男たちの視線を感じる。女の子はこんな目にあってるのか。男女不平等にも納得。
「ねぇ、いまヒマ?」
体目当てのクズ男。エルフ特有の長い耳。俺はにっこり笑って立ち止まる。
「ヒマだよ」
ニヤニヤしながらクズ男はタバコを取り出す。ラッキーストライク。見せびらかすようにタバコを吸うやつには嫌い。
俺もタバコを取り出す。
「タバコ吸ってるんだ。かっこいいじゃん」
曖昧に笑ってみる。クズ男は気を良くして行きつけだという喫茶店に案内してくれた。
女が好きそうな甘ったるい生クリームやらが乗っかったコーヒーをオーダー。
クズ男の武勇伝を延々聞く。曰く、古い価値観にしがみつく大人に嫌気が差して殴り倒したとか。炎の魔法で襲ってきた狼を焼き殺したとか。そんな話ばっかり。
「わー、すごいですね」
「わかります!」
「そんなことまでできるんですか」
共感と肯定をプレゼント。
夜になったらその後の流れは分かるよな。連れ込み宿のダブルサイズベッドに押し倒される。
流石に男に抱かれるのは嫌だ。クズ男の頭を掴んで、睡眠魔法をかける。昔サキュパスに教えてもらった魔法で、リアルな性夜の夢を見せてやる。
男が起きたらここからは悪夢。満足した表情で俺の長い髪を撫でるクズ男に一言。
「わたしビョーキなんだ」
男の笑みが凍りつく。
「ねえ、あなたはわたしと一緒に死んでくれる?」
師匠に教えてもらった老化魔法を発動。眼の前の女がいきなり老化し始める。顔がしわしわになり、指に骨が浮く。
俺は奇声をあげる。役者になるのも悪くない。
転移魔法を発動。
グッバイ。クソ男。そしてまた会おう。この街で性病を治すなんてゲテモノ魔法を知ってるのは某便利屋の転生者だけ。治療費は安くない。
夜の街に立ってるだけで、光に集まる蛾のようにクソ男は釣れる。そのたびに一芝居打ってやると、次の日にはクソ男が憔悴した様子で俺の家にやってくる。魔法を(ただの肩こりに効く治癒魔法)を掛けてやると法外な治療費をおいて行く。
しばらくすると、ジョグジャカルタにある噂が流れた。性病をばらまく黒髪の美少女の幽霊。逆ギレした男が一泡吹かせようと傭兵を雇ったらしい。ゴースト・バスターズ。
面白そうだから、俺は小桜遠乃に変幻して街に繰り出す。ねっとりした視線に混じった、殺気。
裏路地に入ると、ゴースト・バスターズが前後を塞いだ。
持っているのはブラックジャックという打撃武器。プロトンパックではない。こちらを睨んでくる。
俺はタバコに火をつける。
「――ねえ、あなたはわたしと一緒に死んでくれる?」
転移魔法。咥えたメビウスは落としていく。ミステリアスな女はいい。
俺は「米津玄師」のアルバム、「Bremen」を流しながら朝のコーヒーを飲んでいた。いま流れているのは「Flowerwall」。今日もクソ男たちがやってくる。
ドアがノックされた。俺は玄関に向かう。
若い女。
長い黒髪。
オフショルダーのブラウス。
膝下までのフレアスカート。
「おはようございます。転生者の龍ヶ宮禅さんですか?」
「わたし、小桜遠乃と申します。性病を治せるって聞いたんですけど」
今回ばっかりは適当な治癒魔法で済ますわけには行かない。面倒な術式を組んで、性病治癒魔法を掛けてやる。
「ありがとうございました。タバコ吸ってもいいですか?」
俺は黙って灰皿を出す。
遠乃が取り出したのはメビウスのオプションレッドの五ミリ。
「ねえ――」
「ありがとう。私の愛した人」
小桜遠乃が、笑った。
メビウスの白い煙にまかれて、消えた。
落としていった、吸いかけのメビウス。
フィルターのカプセルは、潰してあった。
「Flowerwall」はいつの間にか終わっていた。流れている曲は
「あたしはゆうれい」




