第二章 破滅の足音 1
第二章 破滅の足音
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ルーファスは、最近、気分が優れず、父が国王になってから召し抱えた医師に薬を調合してもらっている。
ルーファスは、あの三日前の夜に歴代国王が次期国王に伝えてきた教えを父から聞かされた。気分が優れないのは、そのときからである。
夜、睡眠に就くと、必ず、夢を見るのだ。その夢の恐ろしさの余り、目が覚めるのである。冬だと言うのに、目覚めたルーファスは、汗だくであった。
そんな日が、三日も続いているのだ。体調が優れないのは、当たり前である。しかし、ルーカスにとっては、体調の変調よりも、精神の変調の方が問題であった。
その原因もルーカスには、見当がついている。だからこそ、毎夜、恐怖に目覚めることになるのだ。寝ると、必ず、破滅の夢を見る。
この平和で美しいシャインソール王国で、破滅が芽生えようとしているのだ。そんなことが起こるはずがない、そう、三日前までは、思っていた。
ところが、ルーファスは、王国における重大な秘密を、そして、これから起こるであろう破滅の足音を聞いてしまったのだ。
ルーファスは、もう、今までの生活に戻ることはできない。普通の生活を送ることは、自分自身で許すことができないのだ。
破滅を阻止しなくてはならない。何としても破滅の芽を摘み取らなくてはならない、そう、ルーファスは思わずにはいられなかった。
そんな、もの思いに耽っていると、ルーファスは、耳障りな音に気がついた。何かを打ちつけるような不快な音である。
そこで、現実世界に引き戻されたルーファスは、物音が何であるかを理解した。自分の部屋の扉を打ちつけるノックの音だったのだ。
まだ、早朝である。通常なら、声を掛けるだけで終わる。ルーファスが気付かなければ、就寝中と考え、一旦、引き揚げ、頃合いを見計らって、もう一度起こしに来るのだ。
それが、今は、扉が壊れんばかりに拳を打ちつけてノックし続けているのである。これは、唯事ではない、そう、ルーファスは、判断し、返事もせず、扉に手を掛けて、自ら開けた。
そこには、貴族の中でも最長老であるアルフレッド・プラームが立っていた。アルフレッドも既に七十三歳になり、大抵のことでは動揺しない男である。
そのアルフレッドが、顔面蒼白で目の前に立っているのだ。ルーファスの中で不安は、どんどんと膨らんでいった。
「ど、どうしたのだ、アルフレッド老。いったい、何が起こったのだ」
ルーファスは気持が焦り、言葉を上手く発することができず、舌を噛みそうになった。しかし、ルーファスの、そんな言葉を聞かずとも、アルフレッドの口からは、最初から決まっていた言葉が、捲くし立てられた。
「お、王子様、ルーファス王子様、お気を確かにしてください」
「だから、どうしたというのだ、アルフレッド。お前こそ、気を確かに持ち、伝えるべき事を早く申さぬか」
ルーファスは、もう我慢ならずと、アルフレッドを怒鳴りつけてしまった。しかし、当のアルフレッドは、そんなことなど耳に入らないのか、口早に続きを話し出した。
「御父上が、クライス・ド・ソール五世陛下が、お亡くなりになられました」
「な、なんだと、アルフレッド、貴様、そのようなことを言って、間違いでしたでは、すまされぬぞ。本当に確かなことなのか」
先々代の国王であるクライス・ド・ソール三世の末期から仕えてきているアルフレッドという男が、このような重大事を確認せずに報告に上がるはずがないことを重々承知の上で、ルーファスは再確認したのである。
ルーファスは、再確認せずにはいられなかったのだ。父である五世は、確かに一年ほど前に、心臓を患い、死の淵を彷徨うことになりはしたが、父に召し抱えられた名医によって一命を取りとめたのである。
その後、五世は、誰よりも自身の健康を気遣うようになった。ちょっとしたことでも医者を呼びつけ、必ず、定期的に健診をするようにしていた。
その父が亡くなるなんてことが、信じられなかったのである。万が一ということも考えられたので、一応、ルーファスは、アルフレッドに確認した。
「まさか、暗殺されたのでは、あるまいな」
「いいえ、それは、ございません。陛下は、自室で亡くなっておられました。それも扉と窓には鍵が掛けられておりました。そこで、我々は、窓を外側から数名掛かりで叩き壊して、陛下のお部屋に入ったのでございます。そして、医者に診せたところ、一年前に患った心臓の発作が起こり、助けを呼ぶ間もなく、お亡くなりになられたとのことでした」
「そうか、心臓発作で亡くなったのか。父上・・・」
ルーファスは、悲しかった。早くに母を亡くしたルーファスにとっては、たったひとりの肉親であった。その父が、心臓発作で急死したのだ。
弟のフランクとは、異母兄弟である。確かに父親は同じだが、ルーファスにとっては、肉親と呼ぶには、血が薄く感じられた。そして、何より、その惰弱な性格を嫌っていた。
そんな、ルーファスは、悲しみをかなぐり捨て、アルフレッドに命令を下した。
「良いか、アルフレッド。弟であるフランクには、まだ、知らせるな。あいつは、気が小さいゆえ、何を口走るか分からん。直ぐに、貴族たちを全員玉座の間に集めるのだ。そこで、父の死を皆に私自ら伝える」
そこまで、アルフレッドに伝えると、一旦間を取り、再び、アルフレッドに話し始めた。
「王国に王が存在しない期間を作ってはならない。そのような期間を作ると、シャインソール王国に対して牙をむく諸外国が動き出すことになる。そうなれば、動揺した兵士たちでは、太刀打ちできん。よって、私は、その場で、国王となることを諸侯たちに宣言する。文句はあるまいな、アルフレッド」
そう言って、ルーファスは、アルフレッドを睨みつけた。アルフレッドは、ただ頷くことしかできなかった。
これが、フランクにはない、王族の正当な血のなせる技なのである。フランクは、所詮、父である五世が、城へ出入りしていた素性の分からぬ女性に手をつけ、産ませた子供である。正当な血筋でないことは、皆が暗黙のうちに了解している事項なのだ。
よって、アルフレッドだけでなく、貴族諸侯の誰もが、ルーファスの王位継承を妨げることはできない。
勿論、フランク自身でもルーファスの意思を覆すことはできない。つまり、これからは、ルーファスは、王子ではなく、クライス・ド・ソール六世となり、シャインソール王国を、否、全世界に号令を掛けることになる。
「さあ、行け、アルフレッド。何をグズグズしておるのだ。今や、クライス・ド・ソール六世となった余の命が聞けぬというのか」
その言葉には、既に威厳が込められていた。そんなルーファスに対して、アルフレッドは、全てを理解し、新国王に仕えるべく、早急に、貴族諸侯をかき集めに向かった。
アルフレッドが去り、独りになったルーファスは、破滅の足音が、この王国に近づいてくるのを感じずにはいられなかった。




