第五章 魔王の真実 5
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タイトの解説は、皆をわざと混乱させているようにしか思えない。このままでは、誰も納得がいくはずがなかった。しかし、当の本人は、お構いなしに話し続ける。
「王妃、貴女は、祖国であるフォルファスを愛していた。その祖国を脅かす存在であるシャインソール王国を心底憎んでいた。そのため、王妃の座を利用して、シャインソール王国の滅亡を画策した。
先ずは、結婚して早々、シャインソールの財政状況を悪化させるために無駄遣いをしていった。そして、国民にも、そのことを知らせるために、町の宝石商を城内に引き入れて、その内情を吹聴させた。結果として、王国の権威は失墜していきました。
次に、後継ぎを作らないことで、王族の血筋を絶やすことを画策しました。そのために、まず、宝石商に、若くて美しい娘を調達して、自分付きの宝石商人として登城させることを約束させます。そこには、勿論、陛下と親密な仲にする意図があったのです。それが、ミランダでした。
次に、先代陛下に、国民たちが陛下への無礼な態度が目立つことを吹き込み、その権威を示さなくてはならないと思わせます。
国民の命を国王の意思で奪い、絶対的な恐怖与え、もう一度、国王の力を天下に知らしめなくてはならないと誘導し、フォレスティン村での殺戮を進言したのです。
その事実を五世陛下自ら六世陛下に伝えさせ、愛するミランダを守るため、父である五世陛下を六世陛下自身の手で暗殺させたのです。
こうして、先ず、先代五世陛下を殺させて、王族の血筋をひとつ減らしたのです。それから、兵士の士気を下げ、陛下を自滅させるために幽霊騒動を画策しました。
そのために、自ら差し出したミランダを、村の女性たちから嫌われるように誘導します。ミランダに美の素晴らしさを教え込んでいた貴女は、ミランダの危うさにも気づいており、それを利用して、自ら命を絶つように仕向けました。おそらく、傷を負って登城して来たミランダに、強く傷のことを印象付け、美に対する自信を喪失させ、死へと誘ったのでしょう。結果、貴女の狙い通り、ミランダは愛する陛下のもとで自害し、陛下は魔王となり、村の女性たちを、大勢の貴族たちの前で、処刑してしまったのです。
しかし、ここで終わらないのが、王妃、貴女の凄いところです。
更に、貴女は、王国の滅亡を加速するべく、幽霊に化け、城内に出没して、貴族二人を自ら手に掛け、騒ぎに本物としてのリアリティを与えました。そして、ミランダから聞いていたキャサリンの恋人であるダグの前にも、キャサリの幽霊として現れ、自分の遺体のありかと、キャサリンとしての無念を吹き込み、貴族をひとり、ダグの復讐の生贄として与えたのです。
貴女の描いた絵図面では、運良くいけば、ダグが陛下を打倒し、世継ぎのないシャインソール王国は、滅亡することになります。仮にダグが、逆に、陛下に打ち取られても、ダグの死は、更なる王国への反発を生むことになります。
シャインソールは、大国です。幾らでも、ダグやキャサリン、ミランダの変わりは見つけられるでしょう。そして、それができる権力を王妃は持っているのです。結果的に計画を継続的に行うことによって、近い将来にシャインソール王国の命運は尽きることになります。
どうですか、王妃様。何か付け足すことや、訂正するところはありますでしょうか」
そのタイトの問いかけに対して、それまで黙って聞いていたアルテアの顔は、みるみる変化していった。
「キーッ、タイト、この悪魔め、いったい、どこで私を監視していた。いつから私の心を盗み見していた。死ね、死ね」
支離滅裂な言葉を投げかけながら、胸から短剣を取り出し、タイトに向かって突進してきた。
「エミリオ将軍、アルテアを止めるのだ」
そう言ったのは、六世である。それを聞いて、エミリオは、素早く、タイトとアルテアの間に割って入った。それを見て、タイトは叫んだ。
「エミリオ将軍、殺しては駄目だ」
そう言うや否や、エミリオは、剣に手を掛けることなく、拳で、アルテアの腹部に当て身を食らわしたのだ。その場で、アルテアは、崩れ落ち、意識をなくした。
タイトは、頭を下げて、エミリオにお礼を言った。エミリオは、一瞥しただけで、王妃をソファの上に横たえた。
アルテアの騒動が終わると、ダグが、タイトに質問してきた。
「タイトさん、私が見たキャサリンの幽霊はアルテア王妃だったのですか。私が見たときは、頭部の半分が潰れたように見えて確認できなかったのですが」
「幽霊は、昔から、夜暗くなってから出てくるものと相場は決まっています。おそらく、黒いローブでも頭から被り、顔にも炭でも塗って頭部を見えなくしていたのでしょう。幽霊だと思うと、誰も、その部分を怖くて確認することはできないでしょうからね。尤も、その部分は、たいして重要ではありませんから、他の方法であっても問題ありません。何故なら、この幽霊騒動に、最もリアリティを与えたのは、フォレスティン村の女性たちを惨殺した事実なのです」
「そうよね、幽霊だという思い込みが、頭部が隠れているという現実から目を逸らしてしまったのね。確かに、三日前の玉座の間に幽霊が現れたときは、蝋燭の灯りがすべて風で消えてしまって真っ暗だったわ」
思い出すように、考えながらアスリーンが口を挟んできた。タイトは話を戻すために、再び喋り始めた。
「ただし、陛下だけは、幽霊を恐れなかった。それは、フォレスティン村の女性であれば、例え相手が、どんな姿だろうと、恐怖の対象ではなく、恨みの対象でしかないからです。
更に、陛下も教えに従って行動したことで、ある程度、人間の本質を本能的に察知していたのでしょう。幽霊のことは、噂でしか聞いていない。自分で実際に体験しないことに耳を傾けてはいけない。だから、剣で斬ることに躊躇しなかったのです。普通の人ならば、触れることもできないものを、剣で斬ろうとは考えませんからね。これが、幽霊騒動の顛末です。
どうですか、皆様、これは、真実ではありません。これは、はっきりと言えば、私の妄想の産物です。ただし、こういう考え方もできるという知識を皆様に与えた筈です。いくつかの妄想は、今、本人たちの口から肯定されて真実となりました。でも、そんなことは、問題ではないのです。
問題なのは、人は、自分で変わろうと思わなければ、変われないということです。いくら、私の言うことを聞いて、それらしく聞こえても、それを自らの意思で考えて、自分のものとしない限り、変わることはできません。もし、そのプロセスを踏まずに変わったと言うならば、それは、変わったのではなく、仮面を被っただけです。それも非常に脱げやすい仮面です。だから、ちょっとした拍子で、落ちて、元の自分の顔に戻ってしまうのです」
「あなたーっ」
そう言って、アスリーンが、タイトに抱きついてきた。アスリーンは、抱きつかずにいられなかったのだ。
三日前に、六世に対峙して以来、ずっと、心の中にあった、真っ黒な思いが、晴れたのだ。その喜びを表さずにいられなかった。
「こら、アスリーン、陛下の御前である。控えなさい」
ジェラルドの忠告など、耳に入らないのか、アスリーンは、嬉しさのあまり、タイトに口づけまでしてしまった。
これには、さすがに、当のタイトも驚いて、腰を抜かし、その場で倒れてしまった。
「愛してるわ、あなた。あなたは、私の心に光を与えてくれる。貴方無しでは、私の心は、真っ暗闇よ」
「僕もさ、アスリーン」
そう言って、今度は、タイトから唇を合わせた。
「フハハハ・・・」
暫く聞かなかった、六世の豪快な笑い声が響いた。
「よい、よい。夫婦仲の良いことは、傍らで見ていても本当に気持ちの良いものだ」
六世の心の叫びであった。自分では、できなかったことだが、間違いなく、自分に最も必要であったことなのだ。その点を心底悔いた。
いつの間にか、エミリオ将軍が、タイトの前に立っていた。
「タイト、そろそろ、一連の件に幕を引かないか」
タイトは、アスリーンを離し、立ち上がった。そして、エミリオと対峙した。
「三日前の約束を守っていただきありがとうございました。そうですね。お待たせして、本当に申し訳ありませんでした、エミリオ将軍」
「なあに、気にするな、タイト。俺とお前の仲だ」
二人以外は、何を言っているのか、理解できないでいた。一連の事件を全て裏で画策していたのは、アルテア王妃であり、それを認める形になったのではないのか。
その疑問を解決するべく、タイトは話し始めた。
「実は、まだ、話は終わりではないのです。先ほど、述べたように、アルテア王妃の計画は、シャインソール王国の滅亡でした。ところが、ひとつ、計画に狂いが生じたのです。それが、フランク王子の件です」
「え、フランク王子は、四日前に、殺されているじゃないですか。キャサリンの幽霊騒動同様に頭を割られていたと聞いています。あれは、アルテア王妃の仕業じゃないんですか」
ダグは、混乱してきた。もし、フランク王子を殺害したのが、アルテア王妃でなければ、いったい誰だというのだ。
「アルテア王妃が手を下したのは、幽霊騒動の最初と二番目の犠牲者であるモラード子爵、ステラー侯爵の二人だけです。この二人は、年齢も高齢であり、城内で安全と油断していたこともあって、剣の稽古をしたことがない王妃でも手に掛けることができたのです。
でも、フランク王子のときは、どうだったでしょうか。よく、考えてみてください。既に、城内で二人が死んだ、いいえ、殺されたこともあり、警備は、とても厳重になりました。特に、フランク王子は、陛下とは違い、おとなしく臆病な性格でした。
そのため、幽霊騒ぎに敏感に反応してしまい、自室の警護の人数を増やしてもらっていました。そんな厳重な警備の目を?搔い潜って、フランク王子に手を下すことなど王妃にできたでしょうか。実際に、王妃が、計画を完了しようとしたのは、フランク王子が前日に殺害された事実があったからです。おそらく、王妃は、フランク王子を殺害したのはダグ、君だと思っていたのではないかな」
「え、俺は、やってませんよ。確かに城の傍までは来ました。でも、いくら俺だって、あんなに厳重な警備体制の城に侵入したりしませんよ。何より、タイトさんに、色々言われてクタクタでしたからね。三日前だって、王妃が、キャサリンの幽霊になりすまして、城で騒ぎを起こしてくれたおかげで警備が手薄になって、侵入できたくらいです」とダグは直ぐに否定した。
「そうだろうね。つまり、フランク王子を手に掛けた人間は、アルテア王妃の描いた計画の外にいた人間ということになります」
「弟フランクを手に掛けたのは、いったい誰なんだ、タイト」
六世は、待ちきれず、タイトに、先を話すように促した。
「城の厳重な警備をかいくぐって、警備の兵士六人を声も立てさせずに斬り、フランク王子を一刀両断にできる人間となると、その剣技は、相当のものです。
しかし、良く考えてみてください。もし、犯人が、このシャインソール王国の者でないのなら、怪しまれ、いくらなんでも、六人もいれば、全員が斬り殺される前に誰かが声を上げないはずがありません。
つまり、その者は、城の兵士に怪しまれることなく、近づけるシャインソール王国の者であり、位の高い人間となります。そして、その剣の腕を考えれば、このシャインソール王国で、その腕前は、評判とならないはずがありません。
そのような条件に合う人間は、今の世には、たったひとりしかおりません。そう、剣聖と呼ばれるほどの腕を持つ、シャインソール王国最高司令官エミリオ・プラーム将軍、貴方だけです」
タイトに犯人として指摘された男は、下を向いたまま、笑っていた。
「フフフ・・・、お前は、いつだってそうだ。俺から、全てを奪っていく、以前は、愛するアスリーンを、そして、今度は、俺の夢を・・・、そうだ、俺がフランク王子を殺したのだ」
エミリオの告白に、いち早く反応したのは、ジェラルドであった。
「王国の兵士の頂点に立ち、この王国を守るべき立場にある将軍の位を授かった君が、何故、フランク王子を、その手に掛けたのだ」
ジェラルドは、信じられなかった。かつて、エミリオの剣の腕もさることながら、王国に対する忠誠心と思いの強さに惚れこんで、娘を嫁がせようと考えた男である。
「お父さん、それは、剣聖シャインソールこと、建国王ソール一世陛下と同じ思いを持っているからです。つまり、剣の道を究めること、その究極である世界最強になるという強い思いを遂げるためなのです」
「後は、私の口から話す」
そう言って、エミリオは、タイトに、自分で話す旨の許可を取ろうとした。
当然、タイトは、黙って頷いた。それは、元々、タイトが、ここにいる皆に望んだことだった。タイトの言葉ではなく、自らの言葉で全員に話す。それこそが、その人物の真実なのだ。
タイトは、最初に宣言したとおり、自分の言葉に真実はないと思っている。真実は、人、それぞれの心の中にある。その真実を他人であるタイトが知る由もない。
それでも、今回の件では、余りにも多くの血が流れ過ぎたのだ。そのため、半ば、強制的にでも、全員が真実を知る必要があると、タイトは判断したのだ。
そして、タイトは、自らの考えを披露し、知識として与え、全員の心の変化を促そうとした。それが、ここにきて、ついに実を結んだのだ。
タイトは、エミリオの勇気に敬意を表し、自ら退く、そして、エミリオの真実をタイト自身も聞くことを望んだのだ。




