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第一章 シャインソール王国 1&2

第一章  シャインソール王国




 世界が、まだ神の存在を信じ、剣の力で全てを掴み取ろうとした時代である。

 世界は、混沌としていた。盗み、殺し、あらゆる悪事が黙認され、暴力が支配する世であった。自由は、力有る者が持ち、力無き者は、絶望しか持てなかった。

 しかし、一人の男の出現が、世界を変えた。その男の名は、シャインソール。剣一本で世界を渡り歩いてきた者である。

 シャインソールは、その剣の腕で次々と屈強な男たちを配下に加えていった。そして、いつしか剣聖と呼ばれるようになったシャインソールの(もと)には、人が大勢集い、一つの国を形成するほどに膨れ上がっていった。こうして、いつしか誰もシャインソールには、逆らうことはできないほど、その力と名声は世界に浸透していった。

 結果、シャインソールは、国王となることを宣言した。当然、誰も逆らう者などおらず、否むしろ、皆から切望されて国王となったのだ。そして、シャインソールは、もう一つのことを宣言したのである。自分の名を永遠とするために王国の名を「シャインソール」とし、自らをクライス・ド・ソール一世とすることを。

 そして、ソール一世は、自ら法律を定めた。当然、逆らう者が出たが、ソール一世は、自ら現場に赴き、その剣の力を持って、相手をねじ伏せた。剣技においては右に出る者がいないソール一世である。結局、誰も逆らうことが出来ず、無秩序であった世界に、ソール一世と言う絶対的な力が秩序をもたらしたのである。

 その後も、遠征をし、国力を増強して、今や世界で類を見ないほど巨大な王国としてシャインソールは、君臨するようになる。

 やがて、剣技において右に出る者がいないソール一世も病には勝てず、六十五歳で、この世を去る。そして、跡目を継いだのは、ソール一世の長男である。

 ソール二世となった王子だが、一世に剣技を教えられたにも拘らず、その腕は、末端の兵士にも劣るものであった。しかし、既に、シャインソール王国の敵は、この世に存在すること無く、国王に求められるものは、剣の力ではなく、治世する力であった。

 ところが、ソール二世には、その知識もなかった。そこで、ソール二世は、側近を召し抱え、その者たちに、王国の治世を任せ、自らは、その者たちに命令を下すようになっていった。

 こうして二世に召し抱えられた者たちが、自ら貴族を名乗るようになり、ソール二世の権力の一部を担うようになっていったのである。

 結果、ソール二世の権力は失墜し、一部の貴族が特権階級として君臨するようになる。税は、王国に入ることなく、大半は貴族たちに流れるようになっていった。そうなると、王国の財産が枯渇するようになるのは、火を見るより明らかであった。よって、国王自ら、税の金額を上げる命を庶民に下すことになった。

 当然、そうなれば、庶民たちの反感を国王が一身に背負うことになり、国王の権力の失墜に拍車を掛けることになったのである。結果として、益々(ますます)、特権階級を得た貴族たちは、その権力に酔いしれることになる。そして、国王の後ろ盾を必要としなくなり、自らの意思を庶民たちに示すようになっていった。

 そうなると、庶民は最早、怒りの矛先を国王よりも大きな力のある貴族たちに向けることも出来なくなり、国王の権威のみが失墜していったのである。そして、それをソール二世の傍らで、いつも見ていた王子は、いつしか自ら学ぶ事を覚えていった。王子は、既に武力で人を抑える時代ではなく、知力を持って人を従える時代になったことを理解したのである。そして、ソール二世の時代が終焉を迎える。

 王子の時代に知識を得ていたソール三世は、国王として自ら治世に乗り出し、一部の貴族たちによる特権階級を廃止し、我欲(がよく)(むさぼ)った貴族たちを庶民の気持ちを代弁する形で、見せしめとして処刑したのである。この行為は、押さえつけられていた庶民たちの信頼を勝ち取ることになり、ソール三世の治世は、より盤石なものとなった。こうして、国王の権威を絶対的なものとしたのである。

 その後、税も元に戻し、庶民の誰もが、国王の治世の力を疑うことはなくなっていった。そして、その子供であるソール四世の時代になっても、国王の方針は変わることはなかった。それどころか、益々、庶民のための治世に力を入れていった。こうして、シャインソール王国は、平和で豊かな王国として、何事にも揺らぐことのない大国として、確立されていったのである。

 時は更に流れ、現在、クライス・ド・ソール五世の時代となっていた。




 シャインソール王国は、今日も平和な一日であった。いつもと変わることなく、王位継承権一位の長兄であるルーファス王子は、父であるクライス・ド・ソール五世と弟である王位継承権二位のフランク王子と夕食を済ませ、日課である治世にかかわる勉強を終わらせて、寝床に就こうとしていた。

 ちょうど、その時である。

「夜分遅くに、申し訳ございません。アルフレッドでございます。ルーファス王子、もう御就寝でございましょうか」

とルーファスの自室の外から国王三代に使えてきた最長老のアルフレッド・プラームの声がした。

 アルフレッドは、息子共々、王家に仕える名門貴族である。息子のエミリオは、王国軍の最高指揮官であった。

 また、エミリオは指揮官としてだけではなく、剣の腕も王国一であり、最強の王国であるシャインソールで頂点に立つということは、この世界において、剣の腕でエミリオの右に出るものはいないのだ。

 まさに、現シャインソール王国の力の象徴は、国王や王子ではなく、エミリオ将軍なのである。そんな、プラーム家は王国にはなくてはならない存在であり、昔の特権階級のように王家に対して進言出来る唯一の貴族なのだ。

 そんなアルフレッドに対しては、如何(いか)に王位継承権一位のルーファスとは言え、気を遣わない訳にはいかなかった。

「大丈夫です。何事ですか」

 ルーファスは、知らず知らずに、少し不機嫌に返答をしてしまった。

「ルーファス王子、国王陛下が御呼びでございます」

 こんな、夜更けに何事かと不信に思ったが、父である国王の呼び出しである。

「分かりました、直ぐに参ると、陛下に伝えてください」

 そう告げると、アルフレッドは「分かりました」と返答して国王のもとに向かった。

 そして、ルーファスは急いで服装を直し、自ら父である国王の自室に向かった。国王の自室の前まで来ると、ルーファスは、扉越しに声を掛けた。

「国王陛下、ルーファス、只今(ただいま)、参りました」

 すると、直ちに室内より声が掛った。

「うむ、入れ」

 ルーファスは、父である国王に無礼がないように、直ちに扉を開け入室した。

「陛下、何用でございますか」

「ルーファスよ、そう、固くなるな。この部屋には、お前と儂以外、誰もおらん。父で構わん」

「はっ、では、父上、いったい何用ですか、このような時間に」

「ルーファス、お前は、今年で何歳だ」

 ルーファスは、益々不信に思った。

(何を今さら、散々、放っておいて、急に親らしいことでもしたくなったのか)

と不快に思いながらも

「二十歳になりました、父上」

「そうか、もう、二十歳か。どうだ、アルテアとも上手くやっているか。まだ、世継ぎはできないのか」

 アルテアとは、三年前にルーファスの(きさき)となった隣国の王女のことである。隣国であるフォルファスが、自国の安全と引き換えに貢物(みつぎもの)として送られて来た姫である。

 当然、ルーファスの意思とは関係なく、政略結婚として無理やり妻とさせられたに過ぎない。年齢も自分と同い年で、もう少し若くて可愛気のある妃が良いと常々思っていた。

 アルテア本人もルーファスと結婚したい訳ではないのに、ある日突然、見ず知らずの土地で会ったこともない王子に嫁げと言われたのである。自国にいれば、王女として何不自由ない生活を送れるのだ。それなのに、自国の安全と引き換えということは、嫁いだ先に最大限の気を遣わなくてはならない。当然、面白くはない。

 しかし、あれは、酷過ぎるとルーファスは思わずにはいられなかった。アルテアは、自分では気を遣っているつもりかもしれないが、一国の姫であったため、全く気の遣い方がなっていなかった。それどころか、慇懃無礼な態度が目立つのである。そして、好き放題に王国の金で贅沢三昧に暮らしている。

 自国のフォルファスでは如何(どう)だか知らないが、この最強最大の王国であるシャインソールでは、庶民の税を無駄遣(むだづか)いすることは、先々代より、固く禁じられている。王国を愛するルーファスにとってアルテアの存在は、自国の固い誓いを破った愚劣な女でしかない。それ故にルーファスは、アルテアのことを自分の妃だとは、全く認めていなかった。

 そのアルテアとの仲を、ましてや、そんな女との間に世継ぎを設けたかと平然と聞いてくる父に対して、腹の底から怒りが湧き上がってくる思いであった。

「そのようなことを聞くために、深夜に呼び出したのですか、父上」

 そう、自分の心の内を吐露するかのようにルーファスは答えてしまった。

「そのようなこととは何だ。世継ぎの話は王国を継続する上で、最も重要な話だぞ。次期国王となる者として自覚が足らん。二十歳にもなって、そんなことも分からんのか」

 案の定である。息子になど全く関心がなく、頭の中にあるのは自分のことだけなのである。国王としての自分の権威が、王子に世継ぎが出来ないことで失墜することを恐れているだけの発言なのだ。

 確かに、同じように王国を愛する者として国王の気持ちも理解できる。しかし、父にも王子である自分の気持ちを理解して欲しいのだ。自分だって、何も単にアルテアが嫌いだから世継ぎを作らない訳ではない。国民の血税で贅沢三昧をしている妃の血を引く者を王国の世継ぎとすることが許せないのだ。そのように王国の未来を考えてのことであり、絶対に私利私欲で世継ぎを作らない訳ではない。そのような思いを父である国王に()み取って欲しいのだ。

「すいません。言葉が過ぎました。決して王国のことを(ないがし)ろにしている訳ではございません。ただ、こればかりは神のみぞ知るところでございますゆえ、お許しください」

 ここで、大声でやり合って他の者に聞かれるのは、それこそ王国のためにはならない。そう考え、ルーファスは、自ら引いた。だが、アルテアとの間に子を儲ける気は全くなかった。自分が本当に子を儲けたい相手は、唯一人(ただひとり)である。そう心で叫びながら、ルーファスは、その女性のことを思い浮かべていた。

「そうか、分かれば良い。儂も言い過ぎた。許せ。ルーファス、実は、お前を呼んだのは、代々国王から次期国王へと引き継がれてきた教えを儂自ら、お前に()くためなのだ。これは、まだ、フランクには話してはおらん大事なことである。よいか、心して聞くのだぞ。この話をルーファス、お前にするのは、王位継承権が例え、お前の方が下であっても、儂は、次期国王は、お前しかおらんと考えておる。だからこそ、お前に話すのだ」

 そう話す五世の顔は、目が血走って、ある種のオーラのようなものが立ち上り、周りの空気を(ゆが)ませていた。ルーファスは、先ほどまでの父に対する反抗的な思いなど頭からなくなり、父の発する異様な気配に飲み込まれた。

「いったい、どのような教えなのです。その代々、王から引き継がれてきた教えとは」

 ルーファスは、そう言って、生唾を飲み込むと、暖炉に火がついているとはいえ、冬の夜更けで肌寒いはずの室内で額から大量の汗を流していた。自分の知りえない王国の秘密があるのか、そう思うと、何故か、恐怖せずにはいられなかった。代々国王から受け継がれてきた教えである。他の誰も知らない事なのだ。そのような教えが、普通の思想とは、とても思えない。きっと、何か、恐ろしいものに違いない。

 そう考えれば、考えるほど、ルーファスの中には、恐怖とは別の、ある種の期待が芽生えていった。今の自分を変える何かが得られる。何故か、そんな期待をせずにはいられなかった。

 その教えを聞いたルーファスは、事実変わることになる。それも王国をひっくり返すほどの変化をもたらすことになるのだ。しかし、ルーファス自身は、そのことに、まだ気付いていなかった。

 人が変わるには、大きな力は必要ない。大きな力は、人を変えるのではなく、その人自身を破滅させることになる。

 変化に必要なのは、極々(ごくごく)、小さな力なのである。動いている球に僅かな力を加えれば、その進行方向を変化させられる。人の心の変化は、それと同じことであり、それほど大きな力を必要としないのだ。そう、他人の思想を吹き込む程度で十分なのである。

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