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成宮りんさんから頂きました。
橋田家のリビング。
「やったぜ、兄貴 オール80点以上」
フフンと どや顔で、弘に返ってきた全教科の答案用紙を見せる橋田。
――本当に取ってきたよ。つか普段から本気出せってんだよ。真面目にやれば出来るのに、なんでやらないんだ。
弘は、心の中で文句言いつつも、誉めてやる。ただし、誉めちぎると、調子に乗りやがる。だから、上から目線でを賛辞の言葉を送ってやった。
「ほう、やれば出来るじゃないか、バカ弟 」
「じゃ 水族館行ってもいいよな?」
「いいぞ 水族館でも、どこでも 行ってこい」
「よっしゃ!」
叫んだあと カーブの応援歌を歌いながら自室へ戻る弟を観察しながら、弘は勉強嫌いの弟が 、本気で勉強するくらい 夢中になる娘ってどんな娘なんだろ?と思った。
橋田が上機嫌で、カーブの応援歌を歌ってた頃 長谷川家では 真央が、水族館へ行く時に着る服を選んでいた。
「なー そら、どっちがいいと思うよ?」
真央は、ピンクのTシャツに赤のキュロットと紺色のTシャツと白いキュロットをそらに見せる。
「あれ?決めてなかったけ?デニムワンピしようって言ってなかったっけ?」
そらが、指摘すると、真央は困った顔になり、ゴニョゴニョと白状する。
「今日になって 橋田が一緒に行く事が わかって」
――男を好きになるなんて、あり得ねぇ。そう思ってたんだけどな。認めたくないが、俺は橋田が好きだ。だから、可愛い格好をして誉めてもらいたい。だから、ここは、そらのアドバイスが欲しい。
そらは、にまぁと笑う。真央の思いを察したというよりは、自分にとってよい暇潰しのネタを見つけた。そんな笑みだ。
「 へーそれは、それは、結構な事 。それで、雑誌が山積みになってんだ?」
そらが、机の上に積まれた 数冊の雑誌を一瞥する。真央が、近くのコンビニで買った、10代の少女向けファッション雑誌から何故か20代後半の女性向けファッション雑誌まである。
「 ツッコミたい事は、色々あるけど、とりあえず 好きな男の子の為に努力しようって思ったのは、誉めてあげる。話それちゃったわね、ええと、どっちの服が いいかよね。私はそっちの」
そらが答えようとした時、バーンと勢いよく自室はドアが開く。
「まっおちゃーん そっらちゃーん ねぇこれ、真央ちゃんに、似合うと思うのよね?どう?」
ハイテンションな母 桃子が、服を持って現れた。
「母さん」
「ママ 」
真央とそらが 呆れた声を出すも、桃子は一向に気にしない。
「 ね、どう?」
「 確かに、かわいいけど、それ なんちゃって制服とか そういうのでしょ?私は、嫌だな、こっちのピンクTシャツと赤のチェックのキュロットのが、真央らしくていいと思うよ?」
「 えー」
そらの指摘に、桃子が泣きそうな顔をする。実際少しだけ、涙がにじんでる。
――ヤバい、このままじゃマジ泣きされる。真央はあわてて言う。
「俺、それでいいよ 。うん これ 明日着てくよ。」
「やっぱり、真央ちゃんは、わかってくれると、思ったわ」
さっきまで泣きそうだったのに、明るい顔だ。実のところ、この桃子という人は、嘘泣きしてでも、自分の意見を通そうとする人なのだ。真央もその辺は、理解してるのだが、桃子に反抗しようものなら、あとからどうでもよい嫌がらせしてくる。ちょっと、面倒な人だ。だから、桃子には反抗しないと決めてる。
―――
翌日、真央は白いブラウスにピンクのリボンを結んで、赤のチェックのキュロットスカートをはく。 靴下は、紺のハイソックスと靴は白いスニーカーを合わせた 。
「じゃ 行ってきます」
真央は、近くのバス停から未希と波奈 それと、橋田と一緒にバスへ乗って中島市立水族館へ向かう。
1時間程で水族館に着いた。
「人多いな」
中島市立水族館は、新しく改装したためかたくさんの人で、賑わっている。
チケット売り場の前で、波奈は一つの提案をする。
「ねぇ、2人に別れて 中見ない?」
「じゃあ もう決まりね。私と波奈 真央は、当然 橋田くんとね 決まりね。」
未希のさも当然のような発言を聞いて真央は、抗議しようとする。
「 なんで、俺と橋田なんだよ? じゃんけんで決めるとか」
「だって、こうしたほうが、自然でしょ?」
キッパリと言われて 反論しようがない。
二人とも、真央と橋田がくっついてくれたらいい。そう思った上での提案だ。
チケットを買って入った後は、2人に別れて見て回った。
真央は、水槽内のお魚を見ながら、ありきたりな感想を口にする。
「カラフルな魚なら、そうでもないけど、 普通に食べてる魚だと、こういう所でもうまそうなだなって、思っちゃうんだよな……不謹慎だけど」
真央の意見に同意した橋田は、ウンウンと首肯く。
「それわかる。 なんでだろうな」
真央は、 もうちょいましな会話にならねえかなと思いつつ、周りの水槽を見てた。真央の視線の先にお土産屋さんがあった。
――このだんまり空間から、脱出するきっかけになるし、密かに楽しみにしてた物も買えるじゃないか。
一石二鳥だ。真央は、ワクワクとした気分で、橋田に、訊いてみた。
「 ねぇ、あそこで、ちょっと買い物しても、いいか?」
「いいけど?何買うんだよ?」
「秘密 」
嬉しそうに言う真央に、橋田は かわいいなと思った。
その真央は、ボールを追っかける子犬の如く、とっとことぬいぐるみコーナーに一直線に向かう。
「発見 スナメリのぬいぐるみ」
小さな子供みたいに、はしゃぐ真央。
この水族館のアイドルであるスナメリのグッズは、他にも沢山ある。
Tシャツやタオルハンカチ。ボールペンやシャーペン等々あるのだが、真央はスナメリのぬいぐるみが、どうしても欲しかった。昔、スナメリに一目惚れした時に欲しかったのだが、売り切れて、手に入らなかったのだ。だから、今日はそのリベンジの意味でも、水族館に行く事が楽しみだった。
「どうせなら、本物のスナメリ見てから買えよ」
橋田は、呆れてたが 、真央は、気にせず、こう返した。
「 どうしても、これ欲しかったんだよ」
真央は小さなスナメリのぬいぐるみを抱っこして、レジに向かう。
その間、橋田は、真央から離れていた。
実のところ、真央がスナメリのぬいぐるみを手にして、はしゃぐ姿は、とても目立っていたのだ。
周りの家族連れやカップル。学生らしき集団から、視線を集めまくってた。
端から見れば、可愛い彼女とその彼氏に見えてたのかも知れない。皆、微笑ましい場面に、出くわした。そんな目で、真央と橋田を見ていたのだった。
会計を済ませて、 再び、展示を見て回る。ペンギンのコーナーを通り過ぎると、スナメリのコーナーだ。
「スナメリ スナメリ かわいいな 」
「大声で、騒ぐなよ 恥ずかしい」
橋田は、怒ったふうに言ってみるが、その顔は、全然怒ってない。苦笑いしてる。真央がはしゃぐ姿が子犬にしか見えないからだ。
頭に耳、お尻にしっぽが生えていたなら、バタバタとしっぽを振り、耳をパタパタとさせてるに違いない。
「悪い、つい嬉しくて」
シュンとなる真央。橋田にしか見えない耳としっぽが、垂れてる。きゅーんという鳴き声さえ、聞こえてきそうだ。
「 そんな怒ってないから、気にすんな」
ポンっと、頭を撫でてやると、再び顔が明るくなる。垂れてた耳もしっぽも復活して、ブンブンパタパタとさせてる。ちあくまで、そう見えてるのは、橋田だけで、実際の真央はニコニコしてるだけだ。
その様子を未希と波奈がこっそり見ていた。
「いい感じだねー」
「そうだねー このまま、告白してくれたらいいけど、しそうにないね。」
未希は、舌打ちをする。こんなにいい雰囲気なのに、ミッションコンプリート出来そうにないじゃない。そう鼻息を荒くする未希とは、対照的に波奈は至って冷静だ。
いつも喧嘩ばかりする二人が、いい雰囲気になっただけでも、大進歩だ。
告白し、カップル成立も時間の問題だと睨んでいる。
「 まあ、真央と喧嘩せずに一緒にいれるだけでも、進歩じゃないかな?」
「それも、そうね」
未希は、納得する。その代わり、二人にどうだったのか、質問攻めにすればいい。
帰りのバスで、未希は、真央と橋田に水族館での事を、文字通り、質問攻めにしたのは、言うまでもなかったのだった。