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翌日月曜日の朝 。真央は、橋田と一緒にいるところを偶然目撃した未希と波奈に、昨日の事をしつこく尋問されていた。


「本当に、野球の話で盛り上がっただけ?」

「部屋に2人きりなのに、本当に何もなかったの?」

「 しつこいな!さっきから言ってるだろ!本当だって! 」


真央がそう叫んだら、未希と波奈は、顔を見合せる。2人の顔には、「なんだつまんない」と書いてある。

真央は知らないが、クラスの女子の間では、「長谷川真央と橋田渉をくっつけようの会」なる物が結成されており、その会の会長と副会長の2人は、真央と橋田が恋人同士発展しそうな出来事(イベント)に遭遇した場合、真央にその詳細を訊ねるのが、2人の任務なのだ。

昨日の出来事(イベント)など、まさにうってつけな出来事(イベント)だが、 尋問の結果、空振りだった為、2人の話題は、昨日視たテレビ番組へとシフトしていった。

未希と波奈の質問攻めから、逃れてホッとするのもつかの間、さっきまで話題に登ってた人物に呼ばれる。



「長谷川 !」


さっきまでの話題が話題なだけに、返事したくないが、無視する訳にもいかない

ので返事する。


「なんだよ?」

「 今日の放課後、図書委員で、図書室の整理する日だ忘れんなよ。」



――そういや、こいつと俺 図書委員だったけな。

忘れてた事実を頭の隅っこから、引っ張り出して、真央はげんなりとした気分になる。クラス委員より、楽そうだからと立候補したのだ。その時、男子の委員のなり手がいなくて、じゃんけんに負けた橋田がなったのだ。あの時は、こんな事になるなんて思ってなかった。

だけど今は違う。特に今日の放課後なんて、あの2人からすれば、おいしいネタだ。


確か図書室の整理は、 各クラス二人組で、担当を割り振られるはず、真央は、橋田と2人きりにならない方法は、ないか考えたが、何 もアイディアが出ないまま、放課後を迎えた。




放課後。家庭科室や音楽室といった特別教室が集まる特別校舎。その二階の端にある図書室に、1年生から3年生までの図書委員が集まっていた。

顧問であり、真央達のクラス担任でもある鈴木先生が、生徒の座ってる閲覧用の机の前で、今日の作業について説明していた。



「はーい、皆揃ったわね?、事前に通達した通り、今日は、新しく本が入ったので 古い本を整理して 処分する本とそうでない物にわけます。 本棚毎に担当を振り分けます。お互い協力してね。でないと怪我します。重い本が多いからね。」




鈴木先生が、チラリと橋田と真央を見る。 常にけんかを、繰り返してるせいだろうと、真央は思う。



先生の説明が終わると、各クラス毎割り振られたエリアに散っていく。

真央達は、百科事典が納められた本棚を担当することになった。



真央は、棚から下ろした百科事典4冊を一気に持とうとするが――



「 んぎー、なんで~重い」



百科事典4冊なんて、楽々持ちあげれる筈だ。なのにやたら重い。少し持っただけで、すぐ限界がくる。


「 長谷川 なにやってんだお前、女のお前が、そんだけ持つのは、無理に決まってるだろうが、2冊にしとけ」


橋田にヒョイッと取り上げられる。

軽々と百科事典を持っていってしまう橋田の姿に、かつての自分の姿が重なってしまう。


よくそらやクラスの女子が重たい物を持ってるのを見るに見かねて、よく代わりに持ってた。


それが今は逆だ。男子に重い物を持って貰ってる。


――悔しい。もうあの頃みたいな事はできない。本当に自分は女になってしまったんだ。なんか泣きたい。

そう考えていたら、実際涙が出てきた。

なんなんだよ。涙なんか出てくんなよ。

あいつに見付かったら、馬鹿にされるじゃねぇか。


止めたい涙。でも一度緩んだ涙腺は、止められず、最初ポロポロ流れ出るだけだったのが、ウェェと泣き声まで、伴ってきた。止まらない涙に、頭はパニックだ。


泣き声を聞きつけたであろう、橋田が本棚の向こうからやって来た。笑ったりせず、真剣な顔つきだ。



「長谷川?どうした、急に泣いて?なんかあったか?」


橋田が 優しく訊いてくる。なんでもねぇよ。と答えたいが、代わりに出てくるのは、ウェェという泣き声だ。

泣き止むまで、頭をなてでくれた。泣いた理由を言わないのに、せめたりせず黙って側にいてくれた。


こいつ、意外と優しいんだな。真央は、頭の隅っこでそう思った。


「落ちついたか?」


こくりと頷きながらハンカチで涙を拭いた。


「わりぃ 急に泣いて 」

「なんでかは聞かねぇでもよ、泣きたくなったら俺のとこで泣け胸くらい貸してやる」


とても、中1のセリフじゃねぇと真央は、思ったが口には出さずに頷いた。


「ところで、そのハンカチ 。ダラケックマじゃん 。意外と可愛いの持ってんだな」


と橋田に言われてハンカチを隠す。

真央が持ってるのは、小学生 中学生の女子の間で人気のキャラクター、ダラケックマ 。腹巻きステテコの親父スタイルの熊が、だらだらと格好でテレビを視てる姿が描かれたハンカチ。そのハンカチを見て、橋田はクスクス笑う。


「笑うな、好きなんだよダラケックマ。 悪いかよ」


先程まで、沈んでた気分が嘘みたいに晴れて、どんどんいつもの調子に戻っていく。結局またケンカが始まってしまった。



夕方。橋田とケンカしたこともあり、作業が、大幅に遅れたせいで帰りが遅くなってしまった。いつもの真央なら、1人グチグチと、橋田に関する文句を言ってるとこだが、今日はそんな気にならない。


自室に入ると、学習机の引き出しから、一枚の写真を取りだした。

入学式の時にクラス全員で撮った写真だ。


クラスのほぼ中央、小難しい顔した橋田が写ってる。



「 今日はサンキューな」


真央は、学校で言えなかったお礼を、写真に向けて言ってみた。

そのまま、引き出しへ戻そうとするも、なんか戻すのも、寂しい気がして戻さずに、デスクマットに挟んでみた真央だった。


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