43
渉が帰った後、真央は、しばらくボケっとしていた。
「なんで、あんな事言ったかな?」
――私を好きで、いてくれますかなんて、少女マンガじゃあるまいし。
今になって恥ずかしくなってきた真央は、頭を抱えて、唸り声をあげたり、ゴロゴロしてみたりと、しばらく意味不明な事をしていた。
そこへ、ミズキが帰ってきた。
「ただいま。真央、何やってるの?」
「ちょっとね。それより、私って言えたぞ」
「そっか、言えたんだ。えらい、えらい」
ミズキは、真央の頭をなでなでする。
ちょっと、ムッとしながら、真央は言う。
「子供じゃないから、撫でられても嬉しくないってば」
「そうだね。そういえば、そらは?」
「さっきまで、人の事からかって遊んでたけど。いないな。」
その時、真央は、夜寝る前に、戻ってきて人のベッドに入り込むんだろう。そして、いつものように朝になったら、ギャイギャイ煩くしゃべるに違いない。そう思ってた。
夜、いつものように寝る準備を済ませて、ベッドに入る。
先にベッドに入りこんで、寝てるそらに、声をかける。
「そらーお休み。そら?もう、返事くらいしろっての。」
真央は、そう言って布団をかぶった。
「真央!真央ってば。」
真央は、そらの声で、起こされる。
「あー遅刻するって、そらお前」
真央が、跳ね起きると、今では、見慣れた白い猫姿ではなく、生前の姿女子高生姿のそらだった。
「驚いた? そうよね。驚くわよね。突然だけど。あんたに、お別れ言いに来たの」
「はあ?意味わかんねーよ」
「意味わかんないって、そのままよ。私の役目っていうか、目的は果たしたから天国に行くの」
そらは、上を指差す。
「目的って、俺の事ずっと、見守ってくれるんじゃねーのかよ」
「私いなくても、大丈夫でしょ。渉くんいるし、ミズキや未希ちゃんと波奈ちゃんもいる。ママもいる。それに、猫のそらは、一緒よ。猫としての寿命が、終わるまではね」
「だからって。急にいなくなるなよ」
「だって、私が満足したんだから、いーじゃない。じゃーね。バカ兄貴。私の分まで、長生きしろよ。渉くんとお幸せに」
そらは、言いたい事だけ言うと、さっさと行ってしまった。
「そらーまてよ。そらー」
真央は、自分の声で目が覚めた。目尻をぬぐうと、水滴が付着する。
――なんなんだよ。急に。目的果たしたとか、自分が満足したとか。勝手な事言ってんじゃねぇよ。
「そら?」
さっきまでの事が、夢であって欲しいとそう思い、そらを抱っこしてみる。
だが――
「んにゃにゃん!」
猫のそらは、元気よく鳴いてみせるだけだ。
朝から、抱っこしてもらえたのが、嬉しいのか、ゴロゴロと喉を鳴らしてる。
「嘘だろ?」
「真央ちゃん。早くしないと、遅刻するわよ。ミズキちゃんもう、準備出来てるのに」
部屋の外から、桃子が声をかけてくる。
真央は、そらを抱っこしたまま、部屋を出て、桃子に確認する。
「母さん。そらが、しゃべらない」
桃子は、怪訝そうな顔になり、こう言った。
「何言ってるの?真央ちゃん。そらは、最初からしゃべらないでしょ。」
「でも。そらは、私と一緒に」
「さっきから何言ってるの?生き返ったのは、真央ちゃんだけでしょ。しっかりしてよー。女の子になって、もうすぐ1年なのに」
変な子ねーと言って桃子は、去っていく。
真央は、制服に着替えると、リビングにいたミズキにも、同じ事を言ってみる。
「そらが、しゃべらないんだよ」
「何言ってるの?真央。夢でも、見たんでしょ。そらは、猫だよ。しゃべらないよ。ごはんーって鳴くけど。ねーそら。」
「んにゃーん」
そらは、ミズキに話しかけられて、返事するように鳴いた。
学校へ行って、教室に入ると渉が、話しかけてきた。
「真央。今朝変な夢みたんだけど。」
「渉も?」
二人は、他の人に聞かれないよう教室を出た。
「そらさんが、夢に出てきて私の役目終わったから真央の事をよろしくって。どういう事だと思う?」
「あのね。私も変な夢みた。」
真央は、今朝の夢の内容説明し、そらが、しゃべらない事を話した。
「そらが、しゃべらなくった。しかも、桃子さんも、ミズキも喋ってた事を忘れて、それどころか、最初からしゃべらないって言ったんだ。」
「うん。渉と私だけみたいだね。そらの事を覚えてるの」
「そうだな。俺らが、覚えてるだけで十分だろ」
「うん。だけど。」
「くよくよするなよ。真央が、元気じゃないと、そらさん心配するぞ。天国で。」
「わかってる。今だけ、泣いてもいいでしょ?」
「今だけな。」
真央は、しばらく、泣いていた。渉は、真央が落ちつくまで、待っていた。
後、数話で終わりです。もうしばらく、お付き合い下さいませ。




