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長谷川家のリビング。風呂上がり、髪を乾かさないまま、真央は、渉と携帯電話で、通話していた。
「マジで〜本当?」
『マジマジ!シバケン、メジャーリーグ行くの決まったって、お前ニュース観てないの?』
「観てないよ。夕飯の支度と宿題に追われて、それどころじゃなねーや」
『忙しかったんだな』
「そうだよ」
『じゃーな。切るぞ』
ツーツーという音を残して切れた携帯電話のボタンを押して、こたつの上に置いた。
「はああ、シバケンがアメリカに行く〜俺、何を楽しみにすりゃいいの?」
真央は、シバケンが、カーブからいなくなる。そのショックから、暫く、動けないでいた。
翌朝。真央は、当然の如く風邪をひいて、熱を出した。
「ミズキの手が、冷たくて、気持ちいい」
真央は、ミズキの手を持って、頬ですりすりしていた。
「すりすり、するなよ。気持ち悪い。それより、さっさと、体温計よこせ」
真央は、脇に挟んでた体温計を取り出して、ミズキに渡す。
「38℃……昨日、風呂から出て髪を乾かさないまま、しかも、この寒いなかパジャマの上に何も着ずに携帯電話で、長話してるからだ!」
「ごめんなさい」
ミズキに怒鳴られて謝る真央。
「ったく。野球選手が、アメリカ行くぐらいなんだ。別に、どうってことないだろ。むしろ、嬉しい事じゃないか。」
「だってぇぇ、本当にシバケン命だったんだよ。そりゃ、カーブは、大好きだけど。でも、シバケンのいないカーブなんて、お好み焼きにマヨネーズかけないのと一緒だあ」
真央は、真っ赤な顔して、布団の中でバダバタ暴れた。 まるで、幼子のようである。
「ああ、わかったわかった。ほら、暴れてないで、大人しく寝ろ。」
布団をかけ直して、真央の額に、熱とるとるシートを貼り付ける。
「うぎーミズキのバカ〜意地悪〜」
熱が、出てるくせに妙に、ハイテンションな真央の罵詈雑言を聞き流しながら、ミズキは真央の部屋から出て行く。
ドアを閉める前ミズキは、真央に声をかける。
「今日は、桃子さん、夕方までいないから、何かあったら、携帯電話にメールか電話してってさ。午前中で学校が終るから僕が、帰るまで大人しくしてろよ!」
「大人しくしてるから、プリン買ってきて〜プリン」
「了解」
――全く、手のかかる妹が出来た気分だよ
ミズキは、嘆息して、鞄を持つと、1人家を出た。
―――
お昼12時半をまわった頃、家に帰るとミズキは、一度鞄を置いて、近くのコンビニに行って、プリンを購入した。
購入したプリンを持って、真央の部屋に向かう。
ドアをノックするが、返事はない。
そっとドアを開けると、真央が、大人しく寝ていた。
「おーい。真央プリンを買ってきたぞ」
「やったー」
プリンと聞いたとたんに、真央は、布団をはね除けて起きた。
「ねっねっ、プリン食べさせて、お願いします」
「なんで、僕が、そんな事しなくちゃいけないんだ」
「いーじゃん。今日くらい」
「はいはい」
ミズキは、プリンの蓋を取って、スプーンで、真央の口に運んでやる。
「おいひぃ」
「ハイハイ。これ食べたら薬飲んで、寝ろ」
プリンを食べ終わって、薬を飲むと真央は、再び横になる。
眠りに完全に落ちる前、真央は、
「ありがとー。お姉ちゃん」
そう言った。
「どういたしまして」
寝ぼけてるだけかもしれないけど、お姉ちゃんと呼ばれて、少し嬉しかった、ミズキだった。




