30
真央は、ミズキと高橋くんを連れて、家に入ると、リビングから怒鳴り声が聞こえてきた。
「何事 ?!」
真央は、あわててリビングのドアを開ける。
「ったく、どうゆうつもりよ。学校に行ったら、ミズキの転校手続きが完了してるって!しかも先月に勝手に済ませたですってぇ? ふざけんじゃねぇわよ。このくそ親父!」
黒髪ロングヘアで、パンツスーツ姿の女性が、40代と思われるスーツ姿の男性の襟首をつかみ、怒鳴りつけていた。
――ヤンキーが、我が家に参上したよ。
真央が、ついそう思うのも無理はないくらい、女性は、声を荒らげていた。
「姉さん、ここは他所の家だから」
「先生、落ち着いてください」
ミズキと高橋くんに宥められて女性は、落ち着きを取り戻す。
「茜ちゃん。落ち着いた?」
「ええまあ」
茜と呼ばれた女性は、不承不承ながらも、ストンと座る。用意されていたお茶をグーと飲んで、一息つく。
「なあ、母さん一体どういう事なんだよ。家に帰ったらポツンとこの子立ってるし。何がなんだか」
今までのやり取りを見て、何がなんだかさっぱりな真央は、桃子に説明を求めた。
「えっと、私もどう説明したらいいのかわかんない」
桃子も困り切ってるみたいで、苦笑いしながら、そう言った。
「あたしから、説明します。」
「そうして茜ちゃん。」
茜は、ため息をつくと説明を始めた。
「まずは、あたし達の名前言わなきゃ。あたしは、佐藤茜で、この子が妹のミズキ。そこのバカなおっさんが、父の道春です。ちなみに、うちのくそ親父が、桃子さんといとこ同士なの」
「茜。くそ親父は、酷くない?」
「お黙り。くそ親父!あんたが、いらない事するから、ややこしい事になってるんでしょ。」
茜は、父道春を黙らせ、説明を続ける。
「あのね、話すと長くなるけど、うちの父が来月から転勤で北海道へ行くのよ。
それだけなら、別にいいけど。あたしの結婚が決まっててね。でもね、婚約者の海外赴任が決まったのよ。急遽あたしも行く事になってさ。そしたら、この子一人になるからって言ってたら、桃子さんが、うちで預かってあげるって言ってくれたのね。来月初めから、こっちの中学通うようにって事で、ミズキと話してたのに。このくそ親父ときたら、来週から通うようにしてやがんのよ。信じられないわ」
茜の説明を聞いた、桃子、真央、ミズキ、高橋くんの4人は、むちゃくちゃだ。そう思った。
一方、茜は、ギロリと父親を睨んでいた。無言で、このむちゃくちゃな行為について、弁解を求めてるようだ。
1分位の沈黙の後、道春は、観念したらしく、口を開く。ただ、その顔は、子供のように、膨れっ面だ。
「だって、高橋くんが急にお父さん転勤になってこっちの親戚の家に引っ越すって話聞いてさ。ミズキと離れたら可哀想かなって思ったんだもん」
「だからって、一ヶ月我慢したら会えるんだから別に、そこまでしなくてもいいでしょ」
茜は、父の発言にツッコミをいれた。
「まあ、もう転校手続き済んでるんだよね。だったら、いいよ。僕、今日からここで、お世話になるんでしょ」
ミズキは、特に怒った様子もなく淡々とそう言った。
茜は、何か言いたげにしてたが、それ以上何も言わずにいた。
「じゃあ、桃子さん真央ちゃん。ミズキの事よろしくお願いします」
夕方、ミズキの荷物を整理すると茜は、二人に挨拶して道春を引っ張り連れて帰った。
真央は、ミズキの部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
返事するミズキの声がどこかしょんぼりしていた。
「入るぞ」
真央は、ミズキの部屋に入ると話をはじめる。
「なあ、なんて呼んだらいいんだよ。お前の事。」
「普通に呼びすてでいい。」
「そっか。ミズキ大変だな。色々と。
ぶっ飛んだ親だと。」
「まあ、確かに色々へんたじゃなくて、変人だからね。」
「言っとくけど、うちの母さんも変人だからな気を付てな。」
「うん。なんだか分からないけど。これからよろしくね。真央と呼びすてにしても、平気?」
「ああ、大丈夫だせ。こっちこそ、よろしくな」
二人は、握手をかわした。仲良くなれそうだと、真央は思った。
だが、真央は、そらを始め、自分の秘密などを話ししなくては、いけないという事実をこの時は、すっかり忘れていたのだった。




