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元日の朝、4時10分。スピョスピョと、寝息をたてて眠る真央の側に、ゆらりと現れる、白い物体。
「やっぱり、目覚まし止めて、また寝てる」
白い物体の正体は、真央の目覚まし時計のアラームにたたき起こされた、そらである。
4時に起きて準備するつもりで、目覚まし時計をセットしておいたのに、アラームを止めてまた、寝てしまった真央をそらは、起こさなければいけない。
「真央、真央起きて 早く。初日の出見に行くんでしょ」
そらが、前足で真央を揺り起こす。
「漬物石に襲われる~。重い」
「寝ぼけて、意味不明な事言ってないで起きなさーい。とりゃあ!」
ブアサ、そらは、容赦なく前足で、掛け布団をふっ飛ばした。
「寒い。そらのバカー」
「やかましい。それより、さっさと準備しなさい。もう、4時10分よ。」
「ええ!やっべ、やっちまった。早くしないと」
真央は、ベッドを整えることなくバタバタと準備をはじめる。
「間に合った」
真央は、黒いニットの帽子に、グレーのプルパーカーと赤いチェックのミニスカートに黒いタイツとブーツ。上から黒のダッフルコートを着る。
部屋を出ると、ダウンジャケットにデニムパンツを着た光がいた。
「こりゃまた、気合いが入った格好してるな。真央が自分で、選んだのか?」
「いつもは、そうするけどこれは、そらのお古っていうか、去年の正月にセールで、ゲットした物そのまま放置されてたの、もったいないから俺が着てるんだ」
足元のそらは、 ホホホと笑い、話す。
「だって、その場のノリで買ったけどさ、よく考えたら、私の趣味じゃないなと思ったのよ。ミニスカートがね」
「そうですか」
「 5時になるぞ。外で、渉くん待ってたらいけないから、真央行くぞ。」
「うん」
光に促されて、真央はダッフルコートを着て、手袋とマフラーをつける。
外へ出ると、光と同じような服装の渉がいた。
「お早う、渉」
「お早う、真央」
「お早うございます」
「お早う、渉くん」
それぞれ、挨拶すると、既に暖気運転中の車に乗る。
「 準備出来たか?」
「OK」「大丈夫です。」
二人が、返事すると光は車を発進させた。
「やっぱり、竜王山に行くの?」
「あそこ、一番綺麗に見れるというか、竜王山しか見るとこないだろ。初日の出」
「中島市は、高いビルとか無縁だもんな」
光と真央の会話を聞きながら渉は、ボソッとつぶやいた。
長谷川家から車に乗る事20分竜王山に着く。
麓の駐車場に、車を止めてから5分くらい歩くと展望台に着く。
5時半前だが既に沢山の人が来ていた。
「わあ!人がいっぱいいるな。」
真央は、あたりをキョロキョロしながらそう言う。
「近くに、神社とお寺があるからそこで、初詣して待ってたんだろ」
「そういや、カウントダウンイベントあるって、部活仲間が言ってたな」
と渉が言う。
「それで、やたらカップルが多いんだ」
「さて、初日の出まで、時間があるからそこのレストハウスでまってよう。」
光に言われて、二人もレストハウスに入
る。
それから、予定時刻の7時すぎまで、レストハウスで暖かい飲み物を飲んだりして過ごした。
「そろそろ、出てくるな」
展望台で、明るくオレンジの光に包まれはじめた空を眺めながら、渉は、言った。
「おお、ご来光だ!渉、見た?」
「うん、見たよ。 すごい綺麗だな。」
「あっそうだ。渉ハッピーバースデー!」
ダッフルコートのポケットからピンクの可愛らしい包装紙の袋を取り出す真央。
「もしかせずとも、プレゼント?」
「うん、プレゼント なあ、開けてみてくれよ。」
「ああ。」
渉は、受けとると丁寧に袋を開ける。出てきたのは、紺色の刺繍糸で作ったミサンガ。
「俺が、作ったんだよ。」
「あーサンキュー。」
歯切れの悪い渉の返事に真央が、ショボンとして、
「 嫌だった?」
「嫌じゃないよ。こんな偶然あるんだなって思ってさ。」
と渉がダウンジャケットのポケットから出した透明な袋に、入ってたのは赤いミサンガ。
「俺も、真央にミサンガ作ったんだ。従姉の姉ちゃんに教わってね。」
「ありがとな。大切にする。」
へへっと笑い真央は、ミサンガを手首につける。
「似合う?」
「よく、お似合いです。」
渉は、そう言って自分も真央からもらったミサンガをつける。
「渉も、似合ってる。」
「サンキュー」
二人が、プレゼントを交換して楽しそうにしているのを、光は、眺めながら
「いいなー若いって誰かこの独身のおじさんにも優しくしてくれないかなー」
と呟いていた。




