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「ブース」
絆創膏をあげてから、毎日朝登校してくるなり橋田にこう言われる真央。
――落ち着け俺。キレるな。橋田渉なんか、ごくごく普通の顔だぞ。そんな奴にブスって言われても、気にするな。真央は、頑張ってそう思ってみるも、沈黙する真央の態度に勘違いしたのか、子供っぽく、橋田が煽ってくる。
「 何黙りこんでんだよ? ブスって言われて、泣きそうな訳?」
「 うるせえ 、テメーに言われたかねー。俺が、ブスなら、お前はモブ顔じゃねぇか!」
「 なんだと!」
まさに、売り言葉に買い言葉。このように、2人のけんかは、ほぼ毎日くりかえされる。 最初友人達も止めてたが、毎日こう繰り返されては、誰も止めない。
というか、ああまた、始まったくらいにしか思われない。
今朝は、ケンカは予鈴が鳴るまで続いた。
「あんたら、じゃれあうのは、いいけど、チャイムなってるの聞こえた?」
2人の前には、担任の鈴木先生。笑顔だが、彼女から放たれるオーラは、明らかに怒気を含んでる。2人は、すみませんと言って着席する。その際、にらみ会うのを忘れない。
先生に目をつけられたせいか、どうか分からないが、2人はその日1日目を合わせないようにしていた。
「なんなんだ アイツ毎朝、人の事ブス、ブスって言いやがって ムカつく!」
放課後、 未希と波奈と別れた後も、真央は、1人で ぶつぶつ文句を言っていた。
家に着き、とある事を思い出す。
今日は母が用事で、出かけてるので家にいない真央は鞄から鍵を取りだして、玄関の鍵を開けようとした時、視線の端に真央の大嫌いな生き物が見えた。
「 うぎゃああ、ヘビ ヘビー。やだ こっちくんなー」
ニョロニョロと動く蛇が、真央は大嫌いだ。子供の頃噛まれたのがトラウマになってるのと、ニョロニョロとした動きが、生理的に受け付けない。
近所に響きわたるくらい、大声で叫んだものの、頭がパニックになってて、どうしたらいいのか分からない。
そこへ意外な人物が表れた。
「 おい、長谷川 どうした?」
近くを通りかかった橋田である。
「 あっヘビ 」
「ヘビー?」
真央が、指さすほうを橋田は見て呆れた。
「なんだヘビ くらい この辺じゃ珍しくねえだろ さっさっと家に入ればいいだけじゃねぇか」
橋田は、それだけ言って去ろうとするが、真央に手をつかまれる。つかまれた手を通して、真央の震えが伝わってくる。
「なんだよ?」
「俺、ヘビ、苦手なんだよ 。どっかやってくれよ。なったのむ」
いつも橋田を怒鳴りつける姿とは、打って変わって、上目遣いでお願いする姿は、どこか可愛らしい。
――こいつもなんだかんだ言って、女子なんだよな。しゃーないな。
「ヘビは、無理に追い払わないほうがいいらしいぜ、お前が 家に入るまで、見張っててやる、それならいいだろ?」
「 うん、じゃ頼んだ。」
「 いーから早よ入れ」
橋田に言われ 、真央はようやく鍵を開けて入る。ドアを少し開け橋田に声をかけた。
「ヘビ、 こっちに来てねえよな?」
「それどころか、さっきどっか行ったよ」
安心したのか、真央の顔に笑みが浮かぶ。
「サンキュー」
「じゃ 俺帰るぜ」
「うん じゃあな」
真央は、ドアを閉めてから家に上がると、リビングの入り口から そらが見ていた。
「見いちゃった 見いちゃった 。真央が男子に懇願してるとこ」
フフフと怪しい笑い声を出すそら。
あー、こいつ人の行動を面白がってやがるし、あの時言ったセリフ通り、俺がどうなるか楽しんでやがる。
無意味だとわかってても、ついそらに文句を言ってみる。
「お前見てたんなら助けろよ」
「だってぇ面白いだもん 。あーこれからも楽しみだわあ 真央の観察 録画出来たらいいのに」
まるで、昼ドラの続きを楽しみにしてる主婦のような一言に真央は、好きにしろやと思った。
翌日橋田に改めてお礼を言おうとしたら
「いやー昨日は、うけたわお前にも苦手なもんあるんだな、お陰で貴重なもん見れたぜ」
橋田の一言にキレて真央は、怒鳴る。
「お前が、勝手に俺のところへ来たんだろが、誰も助けろとは、言ってねぇ」
結局、いつものけんかになってしまった。