26
昨日のスーパーでのやり取りから、真央は、光と一言も口をきいてない。
「真央、お早う」
朝、洗面所で光と会っても、無表情のまま、チラッと、視線を向けるだけで、真央は返事もせず、ぷいっと出ていく。
「はあ、まだご機嫌ななめのままか」
光は、顔を洗ってから、朝食を食べる為にリビングへ行く。
「 お早う。姉さん」
「お早う。バカ弟」
こたつに座って、朝食を食べていた桃子から、バカ弟呼ばわれする光。
「バカって姉さん。」
「真央のご機嫌ななめしたの、あんたでしょ。どうにかしなさい」
言いたい事を言うと、朝食のパンを食べる桃子。光は、桃子の向かいに座り、用意されていた朝食に手をのばす。
朝食の席に必ずいるはずの真央がいない事に気づいた。
「 そういえば、真央は?」
「 あんたと話したくないから、部屋で食べるってさ」
「 そっか」
光は、ガックリ肩を落とすと、それ以降口を開かなかった。
―――
同時刻。長谷川家の前をうろうろする渉。
「はー、来たはいいけど、どうやって真央に会えばいいんだ?あの、叔父さんめっちゃ怖そうだし」
「家の前で、うろうろするくらいなら、チャイム鳴らせばいいでしょ」
「うわあ、そら!しゃべった?!」
渉の足元に、ちょこんと座ったそらが、喋りかけてきた事に、ビックリして、渉は、パニックになりかける。
「そんなこと今は、どうでもいい!早くこっちへくる。」
「へっ?ちょっとまってくれ。そら」
「いーから!」
そらは、渉のズボンの裾を、くわえてグイグイ引っ張り強引に、家に連れていく。
渉にドアを開けさせ、そらは、家に入る。
「 真央。渉くんが来てるよ。あと、叔父さん出てきなさいよ。つうか、出てこい!」
そらの呼びかけに、真央は、出てくるが光は出てこようとしない。
リビングから半分だけ、顔を出して、渉をじっと見てるだけ。
「ちょっと、叔父さんいつまでも、中学生相手に、大人げない事してないで、出てきなさいよ。」
「そうだぞ!」
真央とそらに、怒られても態度変える気ゼロの光。
そんな光をパカンと、桃子が丸めた雑誌で殴る。
「痛い。姉さん」
「お黙り。とっと、行って話してこい。このおバカ」
桃子は笑顔で 、光にそう命令を下す。
「わかりました。お姉様」
光は、リビングから出てきた。
――いいもん。こいつがチャラチャラした態度だったら、いちゃもんつけるか、なんかして、追い出してやるし。
とまあ、光が考えている事とは、裏腹に、渉は、しっかりと光を見据えて、自己紹介した。
「突然押し掛けてすみません。俺は、橋田渉と言います。真央さんと、お付き合いさせて、頂いてます。」
――むちゃくちゃ、しっかりした子じゃないか。
光は、渉の態度に感心し、自分の行為を詫びた。
「いや、昨日はすまなかったよ。俺も大人げなかった」
「叔父さん、昨日は、ごめんなさい。大嫌いなんて言って」
真央も光に謝る。
「もう、いいよ。気にしてないから」
「本当!やったー」
「なあ、真央喜んでるとこ、申し訳ないけど。そらが、なんでしゃべったのか教えてくれないか?」
渉の発言に、光が驚いて、ツッコミを入れる。
「まさか、真央話してないの?自分の事。てっきり、俺、話してあるのかと思ってたよ。」
「 俺の事は、話したよ。そらの事は、なんていうか話づらいんだよ。理由が理由だし」
「私が、今度説明するわよ。それより、真央と渉くんは、誕生日一緒に過ごすって言ってたけど、どうするの?」
「何も、考えてないな。」
「そういえば、そうだな」
二人揃って、間抜けな答えを返されて、そらは、ずっこけそうな気分になる。
「ウソでしょ」
そらのツッコミに、二人が、困ってると光が助け船を出す。
「明日、初日の出見に行くか?三人で、朝早いけど、いい思い出になると思うぞ」
「いいかもな、それ」
「マジで、いいんですか?俺、毎年親父と兄貴と見に行ってたけど、今日に、なって急に親父が、行けなくなって中止になったんだよ」
「じゃー決まりな、明日5時に集合なここに」
「ありがとうございます」
こうして、三人で初日の出を見に行く事になった。




