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12月30日の朝。
朝起きて、真央が洗面所で顔を洗ったあと着替えようと、自分の部屋に戻るところを、桃子に捕まり、あるお願いをされた。
「今日スカート、履いてくれない?」
ニコニコと笑顔で、お願いしてくる桃子に対して、真央は渋い顔をした。
「なんで、今日スカート穿けって言うんだよ? 明後日穿くから別に、いいと思うんだけど。穿かなくても」
「 たまにはいいじゃない。お願い!」
手を合わせて、懇願してくる桃子。
――あの母さんが、駄々こねずにお願いしてくるんだけど。
ちょっと怖い気がするけど。まぁいいか。
「 しょうがないな。もう、わかったよ。穿くよ」
真央は、そう答えてから、はたと気づいた。
「母さん、俺、明後日、穿くつもりで用意したスカートしかないんだけど」
「それなら、これがあるから、大丈夫」
足元の紙袋から、黒いスカートを出してくる。
「 ネットで頼んだのよ。年末で安かったから。」
「 そうですか」
真央はスカートを持って、部屋に戻った。
――このスカートなら、手持ちの服を合わせて着れそうだな。
真央は、タンスを引っかき回して、服を探す。ブラウスにカーディガンを合わせようかと思うが、今日は、買い出しに行くだけなので、ラフな服でいいかと、黒いTシャツを着て、その上から、グレーのパーカーを合わせた。
「母さん、穿いたよ」
「かわいいわよ」
リビングに現れた真央を、桃子は、誉めながらパシャリとすかさずデジカメで、写真を撮る。
「なーに、勝手に写真撮ってんだよ。母さん」
「 いいじゃない。別に 」
ぷーっと、頬を膨らませて怒る桃子。
「子供かよ。それより、早くごはん食べようぜ。掃除と洗濯さっさと済ませて、買い出しに行くんだろ?」
「あーハイハイ 。もう、せっかちなんだから」
文句を言いながら桃子は、台所に行って
真央と朝食の用意をした。
―――
「 今日買うの年越しそばの材料くらいかな?」
「んー それくらいかな。お餅は、明日取りに行くし。そういや、今日来るんだよな、叔父さん。昨日叔父さんに電話したら俺の今の姿見たくて仕方ないみたいだぜ。冗談か本気か分からねえけど、服買って持てくるって言ってた。」
「そう、さっきの写真見せるからね」
「好きにしてください」
毎年、年末年始にやって来る叔父。桃子の実の弟で、36歳の独身。名前は、木村光性格は、桃子よりましだが、親バカならぬ、叔父バカだ。甥っ子姪っ子ラブな人。今の真央の事情を知ってるだけに、会うのは少し気が重い真央だった。
朝食のあと、掃除、洗濯を済ませると、近所のスーパーへ買い出しに行く。
普段は、さほど混まないスーパーだが、年末という事もあり、すごく混んでいた。
「ねぇ、真央ちゃん。おせちは、いいの?」
「母さんと俺に叔父さんだけだぞ。余るともったいないだろ。そらは、猫ごはんだし」
「そうね」
二人は、会話しながらスーパーの店内を移動しながら、必要な物を籠に入れていく。
支払いを済ませる為レジに並んでいると、後ろから、肩を叩かれたので真央は、振り返ると、背が高く口ひげを生やした男性がいた。
「姉さん」
「光」
「叔父さん、なんでいるんだよ」
「あたしがアッシーとして呼んだから」
「母さん、叔父さんはお客さんだろ。こき使うなよ」
桃子を真央は、叱るが、光は、大して気にしてない。それどころか、はっはっと笑って、こう言った。
「かわいい真央に会うためなら、アッシーだろうが、何だってやるさ。それより、再会の抱擁だー」
叫ぶなり、ぎゅうぎゅうと真央を抱きしめる光。真央はべりっと光を剥がす。
「ひっ人を抱きしめるな、恥ずかしいんだよ。まわりの人に迷惑だろが!」
支払いを、桃子に任せて光を連れてスーパーの外へ出た。
桃子を待ってる間二人で、自販機で買った暖かいコーヒーやお茶を飲んでいた。
「ところでさ、好きな男の子とかいないの?」
ブーっと、お茶を吹き出してしまう真央。
「何を急に、聞くんだ。叔父さん」
真央は、吹き出したお茶をポケットティッシュで、抜きとりながら、訊いた。
「だって、気になるんだもん。父親がわりみたいなもんだし。さっきの反応だといるみたいだね?好きな人」
「 いたらどうなんだよ?悪いのか?」
真央は、地をはうような声を出して訊く。
「 恐いよ、真央。別にいてもいいよ。で、どうなの?」
「いるよ。それどころか付き合ってるし。」
「なあにぃ、付き合ってるーなんだぁとー」
光が手に持ったコーヒー缶がメキョバキョと不気味な音をたてながら潰れる。
「ほらー付き合ってるって言ったら、そんな反応じゃないか。さっき言ってた事と違うじゃんか!」
「いや、付き合ってるって言ったら別だ。誰だ、うちの真央に、手を出す輩は」
「意味わかんねーよ。自分が、好きな人いるか聞いといて、付き合ってたら急に言う事変えるんだから、もう叔父さんなんか嫌いだ」
プイっと、真央光の側を離れる。光は、真央の嫌いだ発言に凍ってしまった。
「あれ、渉じゃん」
さっき光に怒ってた、真央は渉をみつけるなり一瞬で尻尾をふる子犬のように、テッテケと駆け寄る。
「真央、偶然だな。お前も買い出し?」
「うん。渉もか?」
「ああ。なあ真央あの人、めちゃくちゃ、睨んでるだけど、俺の事」
いつの間にか、復活した光が、じいーっと渉を睨んでいた。
「叔父さん!何してんだよ」
「叔父さん?真央の?なんで睨まれなくちゃいけないんですか?俺」
「うちの真央を気軽に、呼び捨てに、しないでくれたまえ。キミ!」
「はい。すみません」
「キャラ、違うぞ!叔父さん。行こう渉」
渉の手を引いて、光の側から走って逃げる真央。
「こらー真央待ちなさい。手を離しなさい」
激怒する光に真央は、アッカンベーをし、必殺技を放った。
「 叔父さんなんか、大嫌い!」
真央の大嫌い攻撃に、ついに撃沈する光。泣きながら、桃子がくるまでそこに倒れてた。
一方、渉は真央と一緒に走りながら、真央がスカートを穿いてる事に気付きかわいいと誉めたいが、激怒した真央の叔父さんにみつかる事のが、今は恐いのでひたすら逃げることを優先した。




