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12月のある朝。中島市の最低気温が、-5度を記録した。
長谷川家では、桃子が、なかなか起きてこない真央を起こしに真央の部屋に行く。
あれ、起こすのそらの役目じゃなかったと、思われるだろうが、そらはお猫様。寒い冬の朝に、真央を起こす訳がない。それどころか、そらは、リビングのファンヒーターの前を占領して、寝んね中だ。
「真央ちゃん 起きなさい!遅刻するわよ!」
真央を布団から出そうとするが、真央が 布団をつかんで、抵抗する。
「寒い!起きたくない 今 出たら、俺 寒くて 死んじゃう 」
「ハイハイ 意味不明な事言ってないで、 さっさと 起きなさい 」
桃子は、容赦なく布団を剥ぎ取った。
桃子さん、いつもは、真央に、我が儘言ったりしてたのに、意外と普通にお母さんやってます。
「 母さんが 意地悪だー」
真央は、文句を言いながら しぶしぶ ベッドから体を起こす。
「 あっそうだ 真央ちゃん 今日いつもより 寒いから、ポロシャツの下 これ 着てき行きなさい。」
桃子が、1枚のインナーシャツをみせる。
「 えーそれって、ヒータックインナーってやつだろ?おばちゃんみたいだし、モゴモゴしそうだから、やだよ 」
「 そんな事ないわよ 真央ちゃん 女の子は、体冷やしたらいけないの!だから つべこべ言わずに着なさい」
「 はーい 」
しぶしぶ 真央は、ヒータックインナーを受け取り、着替える。
「 未希と波奈にバレたら、絶対バカにされそうなんだけど」
ブツブツと文句を言いながら、いつも着るキャミソールの上からヒータックインナーを重ねて着ると、後はいつも通り制服を着る。
「 思ったより良いかも 」
真央は、桃子の言うことはきいておいて正解かもと思った。
朝食を終え、学校へ行く支度をしてると いつも通りの時間に、未希と波奈が、迎えに来た。
「いやー 今日は、一段と寒いねぇ。 思わずヒータックインナー 着てきちゃったよ。」
「 あー 私も。夕方 雪が降るかもしれないしねぇ」
――ダサいとか言ったり、するかと思ったのに、意外かも。ちょっとビックリだ。
そう思った真央は、2人に訊いてみた。
「 2人も着てるのか?ヒータックインナー」
「うん 寒いしさ、学校指定のセーターだけじゃ、心許ないもの」
「 そーそー、セーターペラペラだからさ。寒いじゃん。体育あったら、体操服着ちゃうんだけどね」
2人は、至極当然と言わんばかりに言う。
「真央は、着てないの?」
「着てるよ。 ただ、おばちゃんみたいだから着てくるのヤダったけど、着てるとこれ暖かいよな」
―――
学校に着くと、手袋やマフラーを外しながら、渉に挨拶する。
「おはよう 渉 」
「 おはよう 真央 寒いな今日」
「うん」
ちなみに未希と波奈は、真央から離れて先に 教室へ行っていた。
渉は、急に真央の手を握る。
「 冷たいな手 やっぱり、女子は多いな冷え性」
「いっいきなりなんだよ。人の手握りやがって、渉の手 暖かいからいいけど」
真央は恥ずかしくて、わざと 怒ったように、言ってみたけど、心配してくれた事が、本当は凄く嬉しかった。
そのまま、渉と手をつないだまま、教室に、入っていって、クラスメイトに、冷やかされたのは言うまでもなかった。




