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4月の半ば。春の陽気な日差しが降り注ぐ、六畳程のフローリングの部屋。
その部屋の隅には、乱暴に放り投げられた紺色のスクールバック。だらしなく、脱ぎ捨てられた白い靴下と紺色のブレザー。そして、部屋の窓辺で、1人の小柄な少女が昼寝をしていた。彼女の名前は、長谷川真央。
その真央目掛けて、一匹の猫が襲撃する。
「いってぇ何しやがるバカそら」
真央は、自分を引っ掻いた目付きの悪い真っ白な猫 そらを睨み付ける。
そらも、負けじと真央を睨み返し、怒鳴っった《・》
「お黙り、あんたが、だらしないのが悪いんじゃない 何度言えばわかるのよ帰ったら制服は、着替える。それに」
そらは、前足で、真央が脱いだままのブレザーを前足パシパシ叩いて
「ブレザーは、ハンガーに掛けなさい。汚れがつく」
そらは、寝転んだままの真央のお腹の上に登り、無遠慮にムニムニと胸を触る。
そらがお猫様でなかったら、犯罪と認定される光景だ。
「ちょっおい、お前どこさわってんだよ!」
そらは、真央の抗議を無視。胸の他に、脇腹を触ったり、ポロシャツの裾まで、まくる始末。 いや本当、しつこいけど、そらが、お猫様じゃなかったら、犯罪だからね。
「 信じらんない あんた ブラしてないの1日中ノーブラでいたの サイテー」
「鬱陶しいんだよ あれ」
「 鬱陶しくてもするの!慣れよ慣れ あんた 女の子でしょうが !」
真緒は、むくりと 体を起こして、そらを抱えて怒鳴った。
「 お前のせいだろうが そら お前のせい お前が、あんなこと言いやがるせいで、俺は、男から女になったんだろうが!」
「 そうだっけ?」
「 そうだっけ? じゃねぇ バカ妹」
真央は、叫んで自分が男から女になった元凶をにらみ1ヶ月前の事を思い出していた。
長谷川真央は、1ヶ月前までは、県立高校に通う男子高校生だった。
そして そらは、真央の双子の妹で真央同様高校生だった。
その2人が、なぜ、中学生の女子と猫になったのか?
事の始まりは、約1ヶ月前の事 。3月の初めで、その日は、学校が早く終わり真央達は、友達と遊んで帰る途中だった。
2人は、交通量の多い道路の端を歩いてた。
「そら、気をつけろよ。わかってると思うけど、この辺 事故多いからよ」
「わかってるわよ。小さな子じゃあるまいし飛び出したりしないわよ」
そんなやり取りの直後 、ブォーという音。スピードを出しすぎて、ハンドル操作をミスったトラックが、真央とそらを目掛けて、やってくる。
「そこの2人危ない!」
遠くから人が警告してくるけど、間に合わない暴走した トラックが突っ込んできた瞬間 ひかれて死んだ。
気づけば 真央とそらは、あの世行きと書かれたバス停の前にいた。
真央とそらの前には、死んでここへやって来たらしい人々が並んでいる。とはいえ、真央とそらの二人に、死んだという実感が全く無い。
さっきまで、普通に歩いていたのだ。
「ねぇ、やっぱり死んだの私たち」
「そうでーす。」
「びっくりしたいきなり、なんだあんた?」
真央がいきなり現れたハイテンションなスーツ着た男に そう言った。
「あの世行きのバスを管理してる者です。そこのお嬢さんの言った通りあなた達は、不幸な事故でお亡くなりなったのです。しかーしお二方は、運がいい 。100万人に2人しか当たらないという。生き返って人生をやり直す権利を得たのです。はい、拍手拍手」
「やったー」
とそらは、男の言った通り拍手してるが、真央は、ネット小説じゃあるまいし。そんなにホイホイ都合のよい話があるわけない。胡散臭いと真央は、思う。だけど、この話がマジなら、自分は異世界へ送られてしまうのか?
「 で その生き返りの権利とやらは、あれか 異世界へ行ってとかってやつか?」
「今 流行りのパターンですね。残念ながらそのようなことは、出来ません。」
――だろうな。やっぱり、小説の話だけだったんだ。
「 えー出来ないの 異世界トリップ出来るって思ったのに。」
そらは、本気で 残念がってるけど 真央は、内心ホッとしていた。異世界で モンスター倒すとか、魔王倒すとかあり得ないって思ってたから。
「ですが、元いた世界という縛りは、ありますが 好きな姿で、やり直す事は出来ます。」
「 本当 じゃあ猫になりたいって言ったら可能なの?」
「はい、可能です。」
男の一言に、そらは、手を挙げ、オーダーしている。
「 真央は女子中学生 それも、私 そっくりの」
「お嬢さんそっくりの女子中学生っと」
真央に直接確認とる事なく、男は、パカパカと、ノートPCにオーダーの内容を打ちこんでる。無責任な仕事ぶりだ。
「おいこら 、そら勝手に決めるな なんで 俺が女子中学生なんだ!しかも おっさん俺が答える前にOKしてんじゃねえ」
「 それは、すみませんでした。でも キャンセル不可なので 」
男は、悪びれもせずに言った。
「 仕方ないねぇ 」
そらは、ニコニコしながら言ってくれる。なんとも無責任な態度だが、このそらという娘は、自分が楽しければいいという、エゴイストなのだ。真央は、それをわかりきってるのだが、今回ばかりは納得いかない。だって、せっかく人生やり直し出来るのに、何が悲しくて、女子中学生にならなくてはいけないのか?
せめて納得出来る説明してほしいものである。
「さっきの質問に答えろ そら」
「 だって 見てみたいんだもん 真央が、女の子になって生活したらどうなるのか」
「それが、理由かよ。」
なんて 理不尽な 真央は、そう思った。
「大丈夫 私が、色々教えてあげる」
「 猫に教わりたくねぇ」
2人の言い合いが終わったところを狙って男は、声をかける。
「それでは、お二方よろしいですか あちらに
送ります。」
「ちょっとまてぇ」
真央の抗議もむなしく 2人は元の世界に送られた。
こうなったら、女子生活をとことん楽しんでやろうじゃねぇか。
そう思ったとたんに、真央の意識は、遠退いていった。
再び気づくと そこは我が家 母親が心配そうに覗きこんでいた。
「母さん」
「 そらちゃんから事情は、きいたわよ なんかめちゃくちゃだけど 生き返ってよかったじゃない うん やっぱりかわいい さすが 母さんの娘よね。」
「母さん 普通に受け入れないでくれ 頼むから、息子が、女の子になって 娘が、猫になってんだぞ」
「別に いーじゃない、名前は、そのままでいっか。真央ちゃん明日は、色々買いに行くわよ。」
母親は、 この異常事態をあっさり受け入れそれどころか 真央にどんな服買うかとか色々考えているみたいだった。
こうして、長谷川真央は、女の子として人生やり直すはめになった。