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絵の中で生きる二人の少女

作者: 江ノ木右座
掲載日:2017/07/16

 ケララという女の子には、七十歳のおばあちゃんがいた。おばあちゃんはいつも絵を描いていた。


 おばあちゃんが絵を描くようになったのは六十歳を過ぎてからで、ケララはおばあちゃんの絵が好きだった。おばあちゃんの絵の中には、いつも一人の女の子が描かれていて、その女の子はケララだった。おばあちゃんの絵の中で、ケララは高い木の上に登り、草原を駈け、自然と戯れた。


 おばあちゃんにはお気に入りの画家がいた。それは、かつておばあちゃんが通っていた絵画教室で一緒に学んでいた、ロコという三十代の、専業主婦の女性だった。


 ロコはただの素人の画家だったが、おばあちゃんはロコの絵が好きで、彼女の絵にもおばあちゃんと同じく、常に一人の女の子が描かれていた。


 それは、幼くしてこの世を去ったロコの娘だった。おばあちゃんはその話を聞いていたく感銘を受け、ロコの真似をして、自分の絵の中にケララを描くようになった。


 ケララもロコのことが好きで、よく彼女の家に遊びに行った。今のロコには子供がいなかったので、ロコはケララのことを可愛がった。


 ケララにはロコの娘を失った悲しさがよくわかった。ロコはケララにはあまり娘の話をしなかったが、おばあちゃんにはよく話していて、ケララはおばあちゃんを通じて、ロコの心情を理解していた。


 おばあちゃんとケララは、ロコが再び子供を授かることを願っていた。しかし、ロコはそう思っていなかった。そしてロコの夫はそんなロコの気持ちを察していた。


 しかし、ロコがケララを可愛がる様を見れば、本当はロコも子供を欲しがっていることは、誰の目にも明らかだった。ロコは自分の娘が生前書いた詩を大事にしていて、よくケララやおばあちゃんに見せてくれた。


 その中にはこんな詩があった。


 「クリスマスが来るとみんな喜ぶ。クリスマスはみんなを幸せにする。クリスマスは一年に一度来る。なんで一年に一度なんだろう。喜びと幸せは、いつ来てもいいのに。きっと、みんなそう思っている。ただ口に出せないだけなのだ。そして、みんなクリスマスを待っている。喜びも幸せも、一度だけのこと。でも、私たちは来年もクリスマスが来ることを知っている。だから、信じて生きるしかないのだ」


 ロコの娘は、この詩の中で、最後に生きることを訴えた。最愛の娘を失った悲しみを背負った母親と、歳を重ね、老いを実感し、やがて来る「死」を身近に感じるようになった老齢の女性には、すでに世を去った少女の残した「生きる」という言葉が、書いた本人以上に、強く意識させられるものであり、それを書いた少女が、すでに故人であることが、更に強く迫ってくるのだった。


 ロコとおばあちゃんの絵の中で、女の子が二人、それぞれの世界で生きている。この二人の少女は死ぬことはない。それは二人の画家の願いであり、彼女たちの人生を彩るモチーフでもあるのだ。

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