貴方の異能、仕事に活かしませんか? その2
誤字脱字ありましたら気軽にどうぞ。
書く度に、語数が増える謎。解決できる方おりませんか?
7月。某場所にて。
舞い散る埃と鉄の臭いが充満した荒野を駆け抜ける二人の姿がある。
そこは異能と銃弾が飛び交う戦場であった。
「こうやって火や水やらの球すら飛び交う場所を走ってると学生時代を思い出すよね。」
戦場であるはずなのに、平然と会話をしようとするこの男の名前は 三浦 萩吉
異能力者に仕事を紹介する斡旋業、通称 発掘屋と呼ばれる仕事をしている。
だが、今回は依頼とは別の案件で来ているようだった。
「常に激動♪故に感動♪身体に走るは衝動♪」
戦場に似つかわしくなさNo.1を飾れるラップと言えなくもない台詞を自慢気に披露するのは幼女だった。
幼女だった。
この幼女は 三浦 菫
萩吉と共に来たもう一人の人物である。
「走ってる衝動は物理的だし、言うなら衝撃だよ菫ちゃん。」
「まぁ、それにしてもこんな状況になるとは思ってなかったよ。
どうしてこうなったんだっけかなぁ…。」
そう萩吉はため息をつくのであった。
時刻は戻って今朝
いつもの事務所。夏になろうとするのに変わらぬ様子の二人がそこにいた。
「今日からクールビズみたいだよ。氷系の異能持ちがいるのにクールビズとか何だか可笑しいよね。」
そう。異能があるはずなのにクールビズという制度がこの社会で取り入れられている。エアコンや扇風機といった物も日常的に使用されているこの世界なのである。
「異能があろうと人に差異はない。異なると書いてこその異能なのに。それはきっと、人間だから」
幼女の姿をしているにもかかわらず、大人びた事を言う菫と萩吉は優雅にお茶会に興じていた。
少しばかり菫の返答がずれているのは仕様だ。
すると、突然。菫が何か物憂げな顔をし始める。
「ん?菫ちゃん。どうしたの?そんなこの世の終わりみたいな顔をしてさ」
物憂げな菫の表情を見かねたのか、間髪入れずに問いかけた。
「中立。史上の馬鹿。来た。」
言葉を紡ぐ時間すら惜しいのか、いつも以上に短く伝える菫に心当たりがあるのか萩吉もまた顔に動揺を浮かばせた。
「まさか…『そのまさかだ。来てやったぜ?』」
萩吉の台詞が終わるか終わらないかの所に力強く、理不尽を告げるような声が事務所内に響き渡る。
「「神は死んだ」」
死んだのが最早、自分達であると主張するかのようにこの世の終わりを嘆く二人に、さも自分は悪くないと言うかのような声が降りかかる。
『おいおい。神を勝手に殺したらそれこそ、教会の連中に殺されてしまうぜ?二人とも。』
『それに久しぶりに会ったってのに歓迎どころか今にも閉め出し喰らいそうな状況にがっかりだぜ。なぁ?親友?』
そう言い切った、言い放って切り捨てたこの体格の良い黒人かと間違えてしまうほど焼けた肌を持つ男は、萩吉の学生時代からの親友。
奈元 弓近 だった。
「教会の人達を怒らせるような発言をしてしまったのは確かに恥ずべき行為だし、君の歓迎をしなかったのは申し訳なく思うけどさ。」
「せめて連絡の一つくらいは欲しかったなぁ…」
文字通りに襲撃をされたショックから立ち直ったのは親友と呼ばれ呼び合う仲である萩吉だった。
『連絡ならしたはずだぜ。そこのちみっこいのが受け取ってるだろ?』
襲撃をした張本人であるはずの弓近は、事務所内にある湯沸し器から直接、お湯を飲もうとしながら、否。飲みながら返答をした。
「菫ちゃんから?」
「ねぇ、菫ちゃん。連絡受け取った?」
「受け取って…ない。連絡なんて……なかった。」
ショックから立ち直り真っ最中の菫は生まれたての小鹿のように震えた言葉尻で答える。
『ほら、ちみっこいのにはあれがあるじゃねぇか。なんつったっけかな…。ああ、思い出した。』
『The mapがあったはずだろ。』
The mapとは、対象の半径5m以内のマップを展開し、その中の熱源を表示及び、認識し続ける能力である。
ただし、一度指定した対象を変更出来ないという残念使用であるが。
「連絡の意味。調べ直せ。この馬鹿。」
菫が明確に嫌うのは大変珍しい事である。また、この男ぐらいしか嫌われていない事から、この男を菫がどれほど脅威に思っているのかが伺える。
「別に世間話に花を咲かせるのは良いんだけどさ、今日のところは依頼もないから休みにしようかと思ってたところだしね。けど、軍服を着てこの事務所に突撃をかましているのは理由があるんでしょ?」
菫を落ち着かせる為に、いつの間にかお茶を三人分入れた萩吉が弓近に問いかけた。
『おおっと。そうだった。』
『そこに気付くとは流石、親友だぜ。』
そう言ったと同時に弓近は萩吉と菫の肩に触れ、異能を発動させた。
さて、ここまでの事をしていても異能持ちであるならば、まだたまに見かける人種ぐらいの認識がされる。この男が史上の馬鹿と呼ばれる所以は他にあるのだ。
一瞬で切り替わった視界にいつもの事務所の姿は無く、武骨な軍用ヘリとそれを操縦する人、弓近を待っていたとされる同じ軍服を着ている人がそれぞれ二人いるのを視認出来ただけだった。
「これは確か、瞬間的移動だったね。」
「この感覚を味わうのも久しぶりだよ。」
「最悪&最悪の予感。」
萩吉と菫はその能力に慣れた態度でそうコメントしたのだった。
弓近が所持し、たった今発動した瞬間的移動とは半径1m以内に転移する能力である。残念使用はデフォルトだ。
『カッカッカ。ちみっこいのの予想は大正解だぜ。』
『説明は短く、今からするが取り敢えずは力を貸してくれ。』
豪快に笑い声をあげたと思ったら、すぐに姿勢を正して頭を下げてくる姿は、事務所内での会話とはうってかわって仁義を重んじる武人であるかの印象を受ける。
「やっぱり緊急事態なんだね?僕で良ければ力を貸すよ。」
「菫ちゃんも良いよね?」
「意義なし。後から抗議あり。」
あっさりと受け入れた萩吉と不承不承といった感じの菫であったが、いったい何をどうしたら良いのかを知る為に、耳を傾ける。
『恩に着るぜ』
『時間が無いから、ざっくりと話すわ。』
『先日から科学側と教会側で激しい対立が起こっていてな、理由としては能力を創造し付与する能力者が発見された。』
多種多様、千変万化の能力の発現。また、その行使が確認されていたが、創造系統の能力はその中でも数が少なく、稀少であった。
勿論、創造にあたって制約はつくものの、どれも制約があろうと強力なものばかりである。
「教会側と科学側が争いに発展する程の能力となると…」
「制約が無い。もしくは。未だ制約が発見されてない。」
先に結論に辿り着いたらしい菫が、萩吉の言葉に続いてその結論を口にした。
『そういうことだ。』
『その能力者は中立である俺らsweet ideaが回収した。』
『科学側サンプル確保の為。教会側は神の御子と称し崇める為。
そんな理由で始まったこの戦争を止めて欲しい。』
『頼む。この通りだ。』
そう言って、弓近は再度頭を下げた。
彼は能力者が利用されるのを防ぐ為に、それを防げる可能性があり、信頼を寄せている親友である萩吉の元に来たのだった。
沈黙が場を支配する。
弓近が頼みを拒否されそうな空気を肌で感じ、頭を上げて謝罪の言葉を紡ごうとしたその時。
「分かった。引き受けるよ、その依頼。」
「だから。こいつは嫌い。」
「人の為に。ここまで奔走するから。」
萩吉と菫は親友の頼みとして、依頼として、引き受けたのだった。
『感謝するぜ。親友。』
弓近はいつも通りの口調で感謝を口にした。
『じゃあ、作戦だが……』
時刻は戻り、現在。
「まぁ、親友にあんな顔をされたら引き受けるしかないよね」
「後で依頼料請求する。」
萩吉と菫は戦場の真ん中で回想をしていたのだった。
「じゃあ、終わらせようか。この無益な争いをさ。」
「敵影無し。敵は警戒なう。」
警戒されているのは当然の結果である。
何せ、能力を使っている気配が無いのに銃弾も火の球も水の球も当たらなかったのだから。
全てを菫の能力と弓近から貸し出された対物理障壁という科学側からくすねた物で回避していた。
「これから魅せるは短いながらも予想もつかないショー。」
「終了した暁には喝采を!」
「能力。常識の大否定」
萩吉はそう言って、自らの能力を発動させた。
すると突然、空から巨大なサメが大量に降ってきた。
そしてサメが何かに衝突すると同時に爆発した。
「ナイス。爆発落ち。」
菫がそう言うやいなや、萩吉と共に走り出した。
そう。萩吉の能力 常識の大否定は事象を起こす対象に予想外の事象を三分間のみ引き起こせる能力である。
能力者が大量にいるこの世界では予想外の事が少なくなってしまっているので、こんな感じでの発動となってしまう。
つまり、やっぱり残念能力である。
無事にサメの降下及び、爆発範囲から逃げおおせた菫が一言。
「任務達成。パーリナイ。」
どう考えても残念だった…。
翌日。事務所にて。
事務所にはいつもの二人の影。
しかしながら、菫の顔は大絶賛にやけていた。
「菫ちゃん。それ以上のにやけ顔は流石に注意しないといけないよ?」
「仕方ない。お金大量。ちょー裕福。」
昨日の争いを止めたという依頼達成という事で、弓近が所属する中立の集団sweet ideaから依頼達成料が大量に振り込まれていた。
「さ、今日は普通にお仕事だよ。」
「菫ちゃん。事務所の看板を表にしてきて。」
「むぅ。らじゃー。」
貴方の異能、仕事に活かしませんか?
三浦事務所