絶望は卒業式で
「えー、こうして皆さんが……」
桜が舞い陽光が暖かく降り注ぐ別れの季節……春。
暖かな空気と涙する親たちに見守られながら、俺たち32期卒業生は本日をもって卒業する。
普段はつまらなくて、早く終わらないかと退屈に感じていた校長の長話もこれで最後かと思うと胸にくるものがあった。
「……それでは卒業証書授与を執り行います。 Aクラス、出席番号1番、相沢 智樹さん」
「はいっ!」
卒業証書の授与が始まった。一人一人、名前を呼ばれて壇上で証書を受け取る。
女子は号泣しながら証書を受け取り、男子は涙ぐみながらも証書を受け取っていく。
「次、Dクラス、出席番号14番、古煉 或刃さん」
「はい」
ついに自分の番が来た。
緊張で震える手を握りしめ、正面を向いて壇上へと歩く。
緊張しすぎて手と足が同時に動いたが、笑う人はいなかった。
「卒業、おめでとう。 これからも頑張ってくださいね」
「は、はいっ!」
ああ、ダメだ。 我慢していたのに涙が出そうになる。
一礼して壇上を降り、席に戻ろうと歩く。 緊張で見れたものではなかったかもしれないが、自分は無事にやり遂げた。
このままいけば平穏に全員の証書授与は終わるだろう。
そんなことを考えたのがいけなかったのか、はたまた偶然だったのか。
ソレは、誰も現実逃避が出来ない明確なカタチで起きてしまった。
最初の異変はなんだったか。
自分が席に着き、座った時だったと思う。 どこからか、「ぱきっ」という音が聞こえたんだ。
静かに小さい音で音楽が流れるだけの体育館に、やけに大きくその音は響いた。
次の、瞬間。
まるで天が裂けて崩れ落ちて来たかのような、轟音。
壇上、校長の真上の天井が砕け、そして落ちた。
「きゃああああっ!!」
最初に声を出したのは誰だったか。
とにかく、俺たちの卒業式が平穏無事に終わることはなくなった。
そして、この時はまだ知らない。
この『卒業式』が、もう2度と終わりを迎えることがないことを。
ハッキリとした目的も無く、混乱したまま俺たちは体育館の外に出ることになった。
誰もが起こったことを受け入れられずに呆然としている。 でも、みんなが見てしまったんだ。
崩壊し、落下してくる天井。そして、それに押しつぶされる校長先生と生徒たち。
やけにゆっくりとしたその光景は、首が折れ、半身が押しつぶされ、千切れた腕が飛び、呆然とした顔がミンチになるその瞬間を、確かに見てしまった。
あまりにも非現実的なその光景。
思い出したのか地面に突っ伏して吐いている人の姿も見える。
何をすればいいのか、考えもなにもない俺は、ふと上を見上げた。見てしまった。
体育館の屋根に突き刺さり、轟々と燃え盛る「ヘリコプター」の姿を。
しかも、その「ヘリコプター」はテレビ局や個人が所有できる民生品ではなく、まだら模様と赤い丸が描かれている自衛隊が所有しているはずの「軍用機」だった。
(おかしいだろ。 なにが起こったら自衛隊のヘリが落ちて来るんだよ……!)
ーー俺は知らなかったが、このヘリコプターは「CH-47 チヌーク」という大型の輸送ヘリコプターだったらしい。
もし、俺がそれを知っていたなら、この後の結末を変えられたかもしれない。
でも、俺はそんなことは知らなくて。
教えてもらった時には、既に全てが手遅れで。
丘の上に作られたこの学校から、燃え上がる街を呆然と見ていた俺たちは。
奇しくも、逃げて来たはずの燃え盛る背後の体育館から現れた新たな『脅威』によって。
俺たちは、既にこの世が『普通』では無いと強制的に認識させられることになる。
ーーそして、地獄の黙示録が幕をあげる。
「うわああぁっ⁉︎」
「なんだよお前、やめろよ、離れろよ! あっ、やめ、ぎゃああぁっ!!」
そんな悲鳴が聞こえたのは、背後からだった。
コレで意識を現実に引き戻されたのは、俺だけじゃなかったんだと思う。
突然の悲鳴に振り返り、起こっている事を認識したと同時に動きだしたのは俺を含めて、5人。
悲鳴の原因へと向かったのは、2人。
校舎へと逃げたのは、3人。
俺は、逃げたほうだった。
だって仕方ないじゃないか。
まるで映画みたいな『ゾンビ』が体育館から出てきていたんだ。
俺は、俺たちはヒーローでもなんでもない。
現にこうして逃げている途中に、背後から『ゾンビ』に向かった2人の絶叫が聞こえてきた。
校舎に飛び込んで、一階の隅にある工作室へと逃げた俺たち3人は身を滑り込ませた。
ここなら安全だ。扉は校内で1番分厚く頑丈だし、いざという時は非常用の脱出口もある。
倒れるように床へ身体を投げ出し、そこでやっと俺は一緒に逃げていた2人を正しく認識した。
男子と女子が1人ずつ。
それは最初に壇上へ上がった 相沢 智樹と、学年で1番の美人だと言われている 碓氷 華煉だった。
俺が2人を見ていると、2人もやっと俺を認識したのか、バツの悪そうな表情を浮かべ、顔を逸らした。
まあそれは仕方ない。 俺たち3人は、他の人たちを見捨てて逃げ出したんだから。
現に今も体育館の方からこの世のものとは思えない絶叫が続いている。
校舎内から足音が聞こえないということは、他の人は誰も逃げられなかったのだろうか。
「ね、ねぇ」
そんな事を考えていると、碓氷 華煉が声を発した。
「……なんだ?」
「あの、その、やっぱり助けにいった方が良いんじゃないかしら? ほら、ここなら安全だし、誘導するだけなら私たちにも出来る気が「ふざけてるのか?」…なっ⁉︎」
思わず、押し殺したような低い声が出た。
「助けたいなら勝手にしろ。 俺はあんな所に戻りたくない」
「なっ! あなたそれでも男なの⁉︎ 恥ずかしいとは思わないの⁉︎」
「ちょ、ちょっと落ち着けって!」
ヒステリックにも叫びだした碓氷をみて相沢が慌てて止めに入る。
だが止められているのにも関わらず、碓氷は叫ぶのをやめようとしない。
しかもヒステリックの標的は相沢にも移り始めた。
「あなたもあなたよ! 男なら助けに行きなさいよ!」
「無茶言うなよ! お前もアレは見ただろうが! おい、アンタ! アンタも何か言ってくれよ!」
「なら好きにすればいい」
「「なっ⁉︎」」
「助けに行きたいなら行け。だが俺は絶対に行かない。 相沢、お前はどうなんだ?」
「俺は……行かない。 あそこには戻りたくない」
「ーーだとよ。 ほら、助けに行きたいなら1人で行け」
男子の意見はまとまった。
碓氷は震えながら俯くと、叫ぶのを堪えるように肩を震わせながら黙った。
そのまま部屋の隅に椅子を引いていって、碓氷はそれっきり隅から動こうとはしない。
相沢は罪悪感からか、苦しそうな表情をしていたが、それでも恐怖感が大きいのか、パクパクと口を開こうとして閉じて、を繰り返す。
そして俺は……予想以上に参っていた。
こうして無理矢理冷静を装いながら2人の様子をみて自分は間違っていないと暗示をかけ続けていないとおかしくなりそうだった。
そんな重く、暗い静寂の世界は日が落ちて月が登り、また日が昇って来る頃に相沢の手で破られた。
「外に、出ないか?」
虚ろな雰囲気は変わっていないが、目には熱が少しだけ戻っていた。
「ここには満足な水も食料も無い。このままじゃ飢え死にするだけだ。 トイレだって行かなきゃ行けないし、なにより外に出れば警察が保護してくれるかもしれない」
昨日のうちに、警察には電話をしていた。
しかし警察に電話は繋がらず、それどころか誰に電話をかけても繋がらなかった。
だからこその、脱出。 確かにこのままではジリ貧だろう。工作室にあったのは数本のペットボトルに入った水と、教師が生徒から没収したであろう菓子がいくつか。それだけだ。 足りないものが多すぎる。
幸か不幸か、外からの絶叫は暫く前にやんでいた。 『ゾンビ』の姿も見える範囲にはなく、今なら脱出することも出来るかもしれない。
「……なるほど。 確かに一度外に出た方が良いかもしれないな。 でも、もしも『ゾンビ』に会ったらどうする?」
「ベタかもしれないけど、ここは工作室で武器になるものが沢山ある。 鉄パイプでもなんでもいいからそれを使おう」
「うん、そうするのが一番だよな」
「リュックは運搬用の大きめのがあるからそれに使えそうなものも詰めていこう」
「分かった。それなら直ぐに準備を「ちょっと待ちなさいよ!」…は?」
「外に行くなら、私も連れて行きなさいよ! 」
「……相沢、どうする?」
「置いてくのは可哀想だし、まあいいんじゃないか? えーと、碓氷さん。 碓氷さんも武器になるものを準備して「嫌よ!」……なんて?」
「そんな野蛮なことは嫌よ! 私は女子なの、男子が守りなさいよ!」
またヒステリックが始まった。相沢が宥めようとするが無駄。 碓氷は話を聞かずに喚き散らすばかり。
これではいつここに『ゾンビ』がやって来るか分かったもんじゃない。
「……おい」
「なによ⁉︎ 私に何か文句でもあr……ぶぎゃっ⁉︎」
「お、おい! 古煉なにやってんだよ!」
俺は叫ぶ碓氷を殴り倒した。
非難を飛ばす相沢だが、こうしないといけない理由があった。
「悪いな相沢。 でも急がないとマズイ。 音が近づいてきてる」
「マジかよ⁉︎ くそっ、早くしないと……!」
「あるだけの水と菓子は俺が持っていく。 相沢は武器になりそうなものを持ってきてくれ」
「わ、分かった! 直ぐに集める!」
そこまで言うと、テキパキとリュックに水と菓子、あと置いてあった絆創膏など使えそうなものを入れる。
相沢は鉄パイプや鉈などを集めてリュックに入れていた。
1分もせずに詰め込み終わると、俺と相沢はアイコンタクトを交わして非常用の脱出口である鉄製の重い扉を開けた。
「ま、待ちなさいよ! 私を置いていく気⁉︎」
「ついて来たいなら勝手についてこい。 残るのもついて来るのもお前の自由だ」
「そんな無責任なことが……!」
「ほらよ」
水の入ったペットボトルと菓子を少し碓氷に放り投げ、工作室を後にする。
ギィィ……と音をたてて、扉が閉まった。 扉の外は裏庭に繋がっている。
辺りを見渡すが今の所『ゾンビ』の姿は見当たらない。
「古煉、はやく行こうぜ?」
「……ああ、そうだな。悪い相沢」
俺たちは意識して置いてきた碓氷の事を考えないようにしながらも、足早に学校から抜け出したのだった。
〜碓氷 華煉side〜
「なによ、なんなのよ彼奴ら!」
碓氷 華煉は荒れていた。
優れた容姿と明晰な頭脳、そして恵まれた家庭環境によって彼女はつい最近まで幸せで順風満帆の人生を送ってきた。
そんなお姫様のような彼女は、今までただの一度も誰かから蔑ろにされることがなかった。
男子は鼻の下を伸ばして彼女の言うことは何でも聞いてくれた。
女子だって裏表の無い彼女を好いて色々と便宜を図ってくれた。
彼女は幸せすぎた。
思い通りにならない事など無く、自分のした行動が間違っていた事なんてなかった。
自分は護られ愛でられることは当たり前であり、間違っても傷つけられる事なんてなかったのだ。
そんな彼女が体育館から出てきた『ゾンビ』を見たときに感じたのは、ただただ純粋な迄の『死』だった。
その『死』の感覚を自分でもはっきりと理解する事なく、彼女は逃げ出した。
友を、教師を、そして親まで見捨てて逃げたのだ。
そしてそれは『ゾンビ』に向かった2人の絶叫が聞こえた事で、彼女は間違っていなかったことを悟った。
逃げ出して工作室へたどり着いたのは彼女の他に2人。 どちらも男子で、彼女はいつもの通りごく普通に『正しい』ことを言ったつもりだった。
この非現実の中で、自らのしたことを理解せずに、普段通りに行動した。
そして、初めて拒絶をされた。
そこで自己防衛の本能に無意識に従った彼女は閉じ籠った。
そして今日、再び彼女は拒絶され、工作室に1人で取り残された。
「大丈夫、ここは大丈夫……。 だって安全だもの、扉は閉まってるし、待ってればパパやママが助けに来てくれるもの…………」
昨日のうちに相沢と古煉の2人は工作室の扉に机や椅子を立て掛け組み合わせて即席のバリケードを作っていた。
バリケードがあれば安全だ。
食べ物も水も少しだけならある。
自分が死ぬなんてありえない。
彼女は無意識にスカートを握りしめながら、相沢と古煉への暴言を吐いていた。
しかし
『ゔあ゛ぁ゛……』
「…………え?」
不意に響いた、唸り声。
「なに…いまの……?」
少なくとも先ほど出て行った相沢や古煉の声ではない。
恐る恐る、彼女は窓の外を見るが誰かがいるようには見えない。
「だ、誰かそこにいるんですか? いるなら助けてください!」
バリケードの向こう側に誰かが来たのではないかと、彼女は声をかけた。
『…………』
「お願いします! もう水も食べ物もないんです!」
『………………』
「あ、あの……?」
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………ゔあ゛ぁ゛』
「……………………え?」
『ゔゔぅ゛……』
『があ゛ぁ゛……』
『ゔう゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔゔぅ゛……』『お゛ぉ゛ぉ゛……』
『ぶゔぁぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ごぉ゛ぁ゛……』『あ゛ぁ゛……』
『ゔう゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔゔぅ゛……』『お゛ぉ゛ぉ゛……』
『ぶゔぁぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ごぉ゛ぁ゛……』『あ゛ぁ゛……』
『ゔう゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔゔぅ゛……』『お゛ぉ゛ぉ゛……』
『ぶゔぁぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ごぉ゛ぁ゛……』『あ゛ぁ゛……』
『ゔう゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔゔぅ゛……』『お゛ぉ゛ぉ゛……』
『ぶゔぁぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ごぉ゛ぁ゛……』『あ゛ぁ゛……』
『ゔう゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ゔゔぅ゛……』『お゛ぉ゛ぉ゛……』
『ぶゔぁぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』『ごぉ゛ぁ゛……』『あ゛ぁ゛……』
「ひっ、ひぃぃ……!」
返ってきたのは、『ゾンビ』の唸り声の大合唱。
それと同時にギシギシ……ギシギシと、工作室の扉のバリケードから嫌な音が鳴り響き始めた。
「離れなきゃ……。ここから離れなきゃ…………!」
(急がないと急がないと急がないと急がないと………………え?)
立ち上がった彼女が見たのは、ビッシリと窓に張り付いた『ゾンビ』たちの顔。
血の気が失せ、皮膚がちぎれ肉や骨が見えている、明らかに死んだはずの人間の成れの果て。
「い、いや……。いやっ、いやっ、いやあァァッ!!」
非常用の脱出口である鉄扉に取り付き、狂ったようにドアノブを回す。
しかし男2人で押して開ける必要のあった重い扉は彼女の細腕ではガチャガチャと硬質な音をたてるだけで開く様子はない。
「いやぁっ! 開いてっ! 開いてよぉ! 死にたくない! 私はまだ死にたくないぃ!」
ガチャガチャガチャガチャと硬質な音だけが声に答えるように響く。
そして……
バキンッ!
バリケードを支える役目を果たしていた、金属製の突っ張り棒。 それが折れたことでバリケードは破られた。
それすなわち
『ゔう゛ぁ゛……』
『ゔゔぅ゛……』『ゔう゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『があ゛ぁ゛……』『ゔゔぅ゛……』
『ゾンビ』たちが工作室に侵入する事と同義である。
「開けっ! 開きなさいよっ! 開いて! お願いだから開いてよぉ!」
『ゾンビ』たちが唸りながら彼女へとフラフラ近づいてくる。
あと5歩
あと4歩
あと3歩
あと2歩
あと、1歩…………
ガチャッ、ギィィ……と音をたて鉄扉は開いた。
「やった! はやく、はやく…外……に…………」
確かに、鉄扉は開いた。
だが、それはあまりにも遅すぎた。
「こんなのって、ないよぉ…………」
外と内、両側から雪崩れ込んだ『ゾンビ』に彼女は呑み込まれた。
……数秒後、この世の絶望を体現したかのような絶叫が、校内に響き渡った。
ーー時は少し遡る。
「……なんだよ、これ」
俺の隣で、相沢が呆然とした声を出した。
俺も冷静に振舞えているのか、かなり怪しい。
俺たちの目の前には、荒廃した街。 昨日まで俺たちが普通に暮らしていた街。
それがまるで、戦争でも起きたみたいに荒廃していた。
ビルは倒れ、車は乗り捨てられ、あちこちに血の跡がある。
家々は激しく燃えたのか黒炭にかわり、生きているものなど存在しない。
遠くに視線をやれば、隣の街も同じような有様だとわかった。
「なにがあったんだろうな……」
「さあ、な。俺には想像もつかない……」
2人で歩きながらも俺も相沢も鉄パイプから手は離さない。
警戒は常にしていた。
だから急に『ゾンビ』が現れたときも
狂った大人たちが女の『ゾンビ』を犯していたときも
生きた人間が襲っかかってきたときも
俺たちは、なんとか無事で、傷1つ負うことなく生き残っていた。
「なあ古煉……。俺たち、なんで生きてるんだろうな……」
「……運が良かった、としか言いようがないな」
実際、そうなのだ。
ゾンビが襲いかかって来た時は数が少なかったからなんとかなった。
狂った大人は、拘束を逃れた『ゾンビ』に背後から襲われたから無力化が出来た。
生存者に襲われたのも、前に大人に襲われた警戒があったから逃げ切れた。
常にギリギリで、いつ俺たちが殺されても不思議ではなかった。
「……さて。 相沢、警察署まではあとどれくらいだ?」
「このまま行けば5分もあれば着くはずだよ」
「よし、警戒を緩めずに行くぞ」
「ああ、わかってる」
鉄パイプを握る手に力が入る。
警戒を緩めずに暫く歩く。すると、警察署が見えてきた。
だが……
「おい、これは……」
「はは…まじかよ……」
警察署は、破壊され尽くしていた。
駐車場のパトカーは殆ど破壊され、警察署の壁は引き裂かれたかのように歪んでいた。
窓は全て割れ、扉は吹き飛びパトカーに突き刺さっている。
地面はヒビ割れ、黒く焦げ付いているところも見える。
「どうする?」
「……入ってみよう。なにか物資もあるかもしれない」
相沢の問いに答える。
俺たちはこうして警察署に入ることにした。
…………ザァッ
「……ん?」
「古煉、どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない」
(なにか動いたような……。気のせい、か?)
そこが、どんな場所になっているのかも知らずに。
2人の後ろ姿は警察署の中に入り、見えなくなった。
いかがでしたでしょうか。
最後は賛否両論あると思いますが、この2人の行方は読者の方々に想像していただければと思います。
究極の極限状態のとき、人はどう過ごすのでしょうか?
それは人それぞれだと思います。
だからこそ、この2人の行方は皆さんが考えて頂ければ幸いです。
ではまたいつか、別の作品でお会いしましょう。