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口減らしされた少年の生存戦線  作者: 抹茶スライム
第一章 禁忌の森
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第七話 マジッククリエイト


 全身に強化魔法を掛けて、悪魔に向かって走る。

 

 もう魔力残量は僅だ。

 

 バリアを張っても一瞬しか持たないだろう。だから、バリアは捨てる。

 

 

 一瞬一瞬が遅く感じる。

 まるで世界は水中にいるときのような抵抗が働いているが、脳だけ高速で働いているような感覚だ。

 

 

 悪魔の左手がピクリと微かに動いた。

 

 俺はそれと同時に右手を上に振り上げて、右側斜めに飛ぶ。

 半身状態の俺の直ぐ傍を何かが通りすぎる。衝撃波に似た風圧が俺を襲う。

 

 しかし、ここで倒れてはいけない。

 俺は左足を何とか地面に付けて、何とか倒れずに着地する。

 そして、直ぐに悪魔に向かって走る。

 

 悪魔は既に俺に照準を合わせていた。

 

 それを確認した俺は左側に飛ぶ。

 今度は少し余裕を持って避けれた。

 

 俺と悪魔との距離はおよそ7メートル。

 

 

 やっと、俺の攻撃の範囲内まで近付けた。

 

 ここで俺は強化魔法を止める。ギリギリ雷魔法一発は放てるぐらいの魔力量を残した。

 ぐっと、身体が重くなる。倦怠感が襲ってきて今すぐにでも眠りにつきたいが、耐える。 

 勝負だ。

 

 俺は悪魔より速く、手で照準を定めていた。

 

 悪魔も遅れて照準を俺に向けるが、俺の魔法の方が速く発動する。

 それは雷魔法の“サンダー”。

 もうこれで魔力はゼロ。

 

 眩い光に俺の右掌が包まれたと思ったら、即座に放たれるは雷。

 

 その雷は、数本枝分かれしながら、悪魔に真っ直ぐ伸びていく。

 

 俺はこの戦いで気付いた。

 奴は、同時に魔法を行使出来ないことを。

 

 

 俺の予測通り、悪魔は左手を俺に向けたままだ。

 攻撃しようとしていた所に俺の魔法が当たる。

 これで…。

 

 

 バリィッと雷が弾ける音が辺りに響き渡る。

 眩い光が収まり、雷が直撃した悪魔は。

 

 

 無傷のまま立っていた。

 

 

 俺はその場で崩れ落ちる。右手を地面に付けて身体を支えているが、これ以上動けない。

 顔だけは奴に向けている。

 

 魔力枯渇による倦怠感。

 悪魔の攻撃によるダメージ。

 これまでの疲労感。

 満足に食事がとれなかった為の空腹感

 全てがのし掛かり、俺は絶望感を顔に露にさせた。

 

 俺は見た。

 奴は、雷が当たる瞬間に、俺への攻撃は止めて、即座にバリアを張ったのだ。

 

 だから、無傷。

 

 そして、今度こそ、俺に魔法を当てて殺しにくる。

 

 

 

 俺は汗が止まらなかった。

 心臓は鼓動を速め、胃が締め付けられる感覚がする。口は血の味がして、呼吸は荒くなる。

 

 

 俺は『間に合え』と、心の中で反芻する。

 

 

 奴の左手がピクリと動く。

 俺は目を強く瞑った。

 

 

 死を覚悟した瞬間、ズドンと音が響くと思ったが、鳴ったのは低く鈍い音。

 

 

 俺は口角を吊り上げる。

 

 ――間に合った…!

 

 

 目を開き、悪魔を見れば、俺に左手を突き出したまま静止していた。

 そして、頭からは、俺の“投げていたミスリルソード”が刺さっていたのだ。

 

 

 俺はそれを見た後、右手を強く握って、歯を食い縛った。

 喜びでどうにかなりそうだった。

 

 

 そう、ここまで全て俺の予測通りだったからだ。

 

 俺は、立ち上がって直ぐに放たれた魔法を避けた時には、止めの布石を投げていたのだ。

 文字どおり投げたのだ。

 俺のミスリルソードを、悪魔の頭上に落ちるように。

 

 俺は、剣を投げつつ、一発目の魔法を避ける。目線は奴の手と、奴の頭上の俺の剣だ。

 未だ空中にあった剣が悪魔にタイミングよく当たるようにするのが非常に大変だった。

 次の魔法も避ける。そこで、投げた剣が悪魔に当たるよりも速く魔法の射程圏内に入れた。

 そして、ようやくその時は訪れた。

 

 俺は強化魔法を解いて、雷魔法を撃った。魔力的に本当にギリギリだった。

 そして、奴は攻撃より防御を優先することは途中の一撃いれたサンダーで分かっていた。

 だから、バリアを張ってサンダーを防ぐことは予測の内だった。

 

 奴は魔法を同時に発動出来ない。

 そして、頭上に直ぐ迫って来ていた剣に気付いてなかった。

 

 奴がバリアでサンダーを防いだ後、俺に攻撃を再度しかけることを予測していたが、ここからは大博打。

 

 奴が魔法を打つよりも速く剣が刺さらなければならないし、剣先が上手く頭に向かなければならなかったし、何より刺さらなければ意味がなかった。

 

 今更だが、無茶過ぎたと思う。

 

 だが、それは結果論。

 

 俺は、それを乗り越えた。

 

 ちなみに、こんな賭けを思い付いたきっかけは、走馬灯の時に流れたゴブリン戦の映像からだ。

 俺はあの時、矢をバリアで防いでいた。そして、バリアを消すことを予測していたであろうゴブリンは、次の矢を撃ったのだ。俺はそれを予測していたので、防ぐことが出来たのだった。

 これが悪魔攻略のヒントになった。

 

 奴の攻撃は酷く単調だった。

 固定砲台のように動かずに大威力の魔法を撃つ。魔法によるバリアと妨害。それだけだった。

 しかも、奴は感情というか、知性的に見えなかった。

 

 お陰で、この奇抜な作戦が成功した。

 

 きっと、父さんと母さんが助けてくれたんだろう。

 そんな気がする。

 

 

 俺は涙を流して生きていることに喜んでいると、あの声が聞こえてきた。

 


 「「見事也」」

 

 その言葉と同時に、悪魔は岩のような質感に変化し、バラバラと崩れてしまった。

 

 後に残ったのは、岩の瓦礫と、ミスリルソード。

 

 「「汝の勇気、我の魔法を得るに相応しい」」

 

 相変わらず勝手に話を始めて続けるマーリンとやらの声。

 

 「「汝に、祝福を―…」」

 

 そう聞こえた瞬間、俺の身体がどこからか現れた青と白の光に包まれた。

 光の泡のようなものが、俺の中に入ってくる。

 嫌なものではなく、むしろ心地好ささえ感じる程の、不思議な温かさが身体に広がった。

 

 「な、なんだ、これは!?」

 

 「「此処は汝を外に転移させた後、消滅する手筈である」」

 

 体力的にキツイのに、俺の絞り出した疑問は無視された。

 …知ってた。

 


 「「去らばだ、強き者よ」」

 

 

 俺を包んでいた光の泡は、いつの間にか消えており、代わりにここへ転移してきた時のような眩しい光が俺を包んでいた。

 

 ―待て!

 

 そう言おうとしたが、それよりも先に意識が途絶えた。

 

 体力的に限界だったのか、それとも、転移による作用か。

 

 俺にはそれが分からなかった。

 

 

―――

 

 目を覚ますと、空には月が見えていて、辺りには夜の帳が下りていた。月明かりがこのポッカリと空けた空間を照らしていて、幻想的な雰囲気を作り出していた。手を動かすと、ゴロゴロとした岩にぶつかる感触がした。

 身体はその岩の下敷きになっていた。岩が思ったよりも軽いので、重いと感じるだけで圧迫されている感覚はあまりない。

 どれぐらい眠っていたのかはわからないが、一先ず、俺は神殿の外に居るのだと分かった。

 

 俺はひとつ大きく息を吸った。

 口から入るのは、涼しさを感じさせる森の空気。肺を満たす大自然の空気を逃さないように、少しだけ息を止める。その瞬間に思い出すのは先の悪魔との戦い。辛く、苦しい戦いだった。

 そして、溜まった空気を全て吐き出す。

 そこでようやく俺は、起き上がる為に動いた。

 

 のし掛かっていた人の子供の頭程の大きさの岩を一つずつ退かしていく。

 その最中に気付いたが、俺に蓄積していた傷やら疲労やらは綺麗さっぱりと無くなっていた。

 

 何故だろうと考えた。

 可能性としてはあの光の泡の効果だ。

 あれは心地好く、身体に力が漲った。

 

 しかし、特に怪我や疲労が治まったような感覚は無く、むしろ脳に新しい情報が無理矢理追加されて、若干負担が増した程だ。

 

 その新しい情報は置いておいて、何故俺の身体が元気になったのかは、取り敢えず、マーリンからのプレゼントだということにした。

 

 さぁ、無理矢理詰め込まれた情報の話をしよう。

 

 結論から言うと、俺は新しい魔法を覚えた。マーリンの言っていた『我の魔法』というヤツだ。

 

 名は《マジッククリエイト》。

 

 これは、自分の想像した内容が魔法として覚えられるスキルだ。

 つまり、魔法のように魔力を消費して使用するのだが、この魔法を使いたいと思ってイメージした魔法が、自分のスキルとして扱えるようになるというとんでもない効果だ。要は自分の想像した魔法が使えるということだ。

 前に魔法の基本属性は一人一種類が通常だと話したが、このマジッククリエイトを使えば、火魔法、水魔法、風、土…などなど、自分が想像できる範囲内であれば、どんな魔法も使えるようになる。

 

 あの光の泡はこのマジッククリエイト譲与とそれに関する情報が詰め込まれていて、俺はそれを受け取ったんだ。

 

 

 マーリンはこの魔法を誰かに譲りたがっていた。理由は分からないが、態々こんな準備をしたんだ。きっとそうだろう。

 

 俺は、崩れ落ちて瓦礫の山になっている神殿だった物を見た。

 その瓦礫は、徐々にだか、役目を終えたとばかりに光の粒子となって消滅していっていた。

 

 これは、魔法で作られた物が何らかの影響で形を維持できなくなった時に現れる現象と酷似している。

 つまり、この神殿も、あの悪魔も、全てマーリンがこのマジッククリエイトを用いて得た魔法で創ったモノだったのだ。

 

 「…すごいな」

 

 俺は感嘆の声を漏らした。

 瓦礫の山は消え、後に残ったのは神殿に絡み付いていた蔓。

 蔓は自然に生えたものの様で、残っている。その蔓がびっしりと生えるまでずっと存在していたこの神殿の古さが窺える。そして、マジッククリエイトを作り上げたマーリンに尊敬の念すら覚える。

 魔法を新しく作るなんてどれだけの研究と実験を行ったのか、理解の範疇を超える。

 

 すると、ずっと遠い奥の森の方から、爆発音と魔物の咆哮に似た何かが聞こえてきた。

 

 「…もしかして、ここの魔物は夜に活動的になるのか?」

 

 確実とは言えないが、ここ数日を振り返ってそう思う。

 朝昼に出てくるのはどれも低ランクの魔物だけだったからだ。…あぁ、経験値さんを除けばね。

 

 警戒しつつ辺りを見渡すが、どうやらここの広間には何者の気配がない。

 

 森の奥の方だけ騒がしいようであった。

 

 

 「…まぁ、来ないなら、いっか」

 

 釈然としないままだが、敵が来ないのであれば、それに越したことはない。

 

 「なら早速、マジッククリエイトを試してみよう!」

 

 俺は正直、マジッククリエイトを使ってみたくて堪らなかった。

 わくわくが止まらない。

 

 何を創ろうか。

 火魔法は強いし格好いいし、良さそうだ。

 ああ、いや、それとも土魔法がいいか?土を操って簡易拠点を作っても良い。

 ああそれとも…

 

 

 うーん、何を創ろうか迷うな。

 

 俺が悩んだ時の癖でつい、無い左腕と右腕で腕組みして気付いた。

 

 

 「…はは、腕無いのに、なにやって―」

 

 そこで、俺はハッとして顔を上げた。ピンと閃いた。

 

 「―そうだ、腕を再生させよう!」

 

 出来るかどうかはわからないが、やってみる価値はありそうだ。

 せっかくだから、マジッククリエイトで創る魔法第一号は今のサバイバル状態を少しでも良くしようと考えていた矢先に思い付いたこれにしよう。

 

 「よし、じゃあ…“マジッククリエイト”!」

 

 魔法名を言う。

 普通の魔法と違って、別に心の中で言うだけでも使用できるのだが、気分だ。

 

 魔法名を言った瞬間、俺の身体がやんわりと青白く発光した。

 この状態で強くイメージしたものが魔法として覚えられる。

 

 俺は超必死にイメージした。

 

 「腕生えろ腕生えろ腕生えろ腕生えろ……」

 

 最早呪いの言葉のようだが、脳内ではしっかりと腕の先が無い部分から徐々に元の形に再生させる映像を流していた。

 肉が盛り上がり、腕の長さが左右均等になった所で、先端からは先ずは赤子のような小さい指が生える。それを成長させて長く太くする、しっかりと俺の掌と瓜二つのものを形成させて……

 

 ひたすらこんなことをずっと想像していた。

 ハッキリ言って、滅茶苦茶だ。

 失った腕が生える魔法なんて聞いたこと無いから当然かもしれないが、兎に角『腕が生えるところ』を想像しまくった。

 それはもう、周りの音なんて聞こえないぐらいに。

 

 暫くして、俺の魔力が一気に、ごっそりと減った。

 全て奪い取られたんじゃないかと思うぐらいの減りかただった。

 

 一瞬、敵襲かと思って、意識を戻すが、周りには誰も居なかった。

 凄まじい倦怠感に耐えながらも、混乱している俺を他所に、脳内に新たな情報が付け加えられた。

 

 瞬間、激しい頭痛が俺を襲った。

 頭が割れるような、砕かれるような痛み。

 悶え苦しむが、俺はマジッククリエイトが成功したことに口角を吊り上げた。

 

 次の瞬間、俺はその場に倒れ、抵抗虚しく気絶してしまうが、俺は気絶する寸前に得た新しい魔法を確認していた。

 

 《再生魔法》

 

 それが俺がマジッククリエイトで新しく覚えた初めての魔法だった。

 

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