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口減らしされた少年の生存戦線  作者: 抹茶スライム
第一章 禁忌の森
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第一話 違和感

 俺は早速、生き残るための準備をしようと考えた。

 とりあえず必要な物は食料と、住処だ。

 

 幸い、ここは大自然の森の中。

 俺は小さい頃から、両親が出掛けている時のみサバイバル染みたことはやって来ていたので、野草や魔物の知識は豊富だ。何より、父さんのくれた魔物図鑑と植物図鑑を読んでいた。

 

 探せば木の実や果実、食せる草はあると思う。それと、魔物なんかも居るだろうから、弱いやつだけ狙って狩って行こう。

 

 住処は、雨風を凌げる程度の場所さえあれば良い。

 俺は住処に丁度良さそうな場所を探しつつ、探索を開始した。

 

 

 暫く歩いても、まるで景色が変わらない。

 途中、木の実や野草なんかを集めては、袋状の植物と蔓を使って出来た簡易物入れに入れていた。

 

 歩いても歩いても、周りは木だらけ。

 歩き始めてから既に1時間は経っているが、川の音さえ聞こえない。こんなに深い森だとは思わなかった。

 

 

 俺は少し休憩をするために、大きな木を背に地面に座った。

 肩から腰に巻き付けるようにして背負っていた簡易物入れを下ろし、ふぅと一息付く。

 

 簡易物入れから木の実を取っては食べ、少し早めの朝食を取った。

 カリッと音を立てて噛めば、口内に広がる香ばしい薫り。

 指で摘まめる程度の大きさの実だが、栄養価は高く、非常食としても良く活用される。

 しかし、しばしば喉に破片が引っ掛かって噎せるのは宜しくない。


 …にしても、こんなに立派な木が群生している森なんて村近くにあったか?

 

 俺は、顔を上げて、近くの木のてっぺんを見ようとする。

 しかし、あまりにも高すぎて、よく見えない。枝や葉が邪魔しているのもあるが。

 

 こういった背の高い木に囲まれているお陰で、朝なのに大分暗い。

 しかし、暗くて見えないという訳ではなく、木陰になってるな程度だが。

 

 俺は6つ目の木の実を食べようとした所で、物音に気付く。

 

 ―ガサガサ

 

 俺は剣を右手で持ち、急いで立ち上がる。

 

 物音は、俺の正面の草むらからした。

 

 警戒を強める。

 

 

 ―ガサッ

 

 草むらを抜けきった音とともに飛び出してきたのは、水色のプルプルとした楕円形の魔物。

 

 スライムだった。

 

 「おお、初魔物だ」

 

 俺は森を探索してから初めてあった魔物がスライムで少し安心していた。

 というのも、こういった森とかで出る魔物の強さで、その森の危険度が大体分かる。

 つまり、この森の危険度はそんなに高くないことが分かった。

 だからと言って警戒を怠る程馬鹿じゃないが。

 

 スライムは、数ある魔物の中でも一二を争う弱さだ。

 水のようなゼリー状の身体は、消化作用のある液体を出すこともあるが、とても柔らかくて拳を突き出しても、ズブッと入るぐらい柔らかい。

 まぁ、それだと拳が溶かされて終わりだ。スライムは、身体の中心部分の核と呼ばれる心臓を破壊しなければならない。

 少し面倒な気もするが、スライム自体動きが遅く、また身体は膝ぐらいまであるのに、核がなかなか大きいこともあって、比較的簡単に倒せる。

 

 一ツ星魔物の代表格だ。

 

 ちなみに、コイツは食べられない。

 可愛い見た目だが、ゼリーの身体は超苦いらしい。

 …それなら食べられないこともないのか?

 いやいや、超苦いらしいし、止めておこう。

 

 

 俺は早速、剣を振りかざして、スライムに切り付けた。

 

 ズッとスライムのゼリーを深く斬り、中心の核へと…届かなかった。

 

 俺は酷く狼狽(ろうばい)した。

 昔から狩り慣れた魔物。いつものように、いつもの力で降り下ろした剣は、スライムを殺すのに力不足だったのだ。

 

 「なっ!?」

 

 しかも、斬れたゼリー状の身体は直ぐに元に戻るようにくっついた。

 俺の剣を飲み込んだまま。

 

 俺は必死に剣を抜こうとするが、スライムに抵抗されているのか、引っ張り出すことが出来なかった。なにより、スライムの体重が重い!俺の力じゃ引きずることが精一杯だった。

 

 「こいつ…!スライムじゃないのか…!?」

 

 普通のスライムならこんなに抵抗力も重さもない。

 間違いなく、ただのスライムでは無かった。

 

 「ッ!?」

 

 俺が一瞬引く力を弱めると、スライムは急速に触手を伸ばして俺ごと取り込もうとしてきた。

 

 「くそっ、“サンダー”!」

 

 俺は左手をスライムに向け、至近距離で雷魔法を放った。

 

 魔法には様々な種類が存在するが、その中でも火水風土雷の五種類の魔法は基礎属性と呼ばれる属性は、一人一種類程度の適性がある。

 俺は当然、雷の属性に恵まれた。

 

 中には、二種類、三種類という属性に愛される人が居るらしいが、本当に珍しいことだ。

 逆に、何の属性にも適性が無かったっていう人も居る。

 前者はよほど怠けたりしなければ、天才と呼ばれ将来の安定が約束される。一方、後者は努力を重ねたところで、いずれかの属性の魔法を覚えることが出来ず、能無し、若しくは無能として捉えられてしまうらしい。

 

 そう考えれば、俺は恵まれた方だ。

 

 俺が放ったサンダーは、見事スライムのゼリーを貫通して核を壊すことに成功した。

 しかし、サンダーの威力が俺の身体に触れていた触手を通じて、俺にも少しばかりのダメージを負ってしまった。

 

 「ぐっ…父さん母さん…魔法を教えてくれてありがとう、助かった」

 

 俺は居ない両親に感謝の言葉を呟いた。

 もし、俺が魔法のまの字も知らないただの剣士だったなら、あのままスライムに取り込まれ、全身を消化液で溶かされて養分となっていただろう。

 

 だからこそ、俺に剣と魔法を教えてくれた両親に感謝したんだ。

 

 

 核を砕かれたスライムはゼリー状の身体を楕円形に維持出来ず、液体に近い何かになって土に吸い込まれていった。崩れた核と透明な内蔵を残して。

 

 「…しかし、あまりにもスライムが強い。…ここは何だ?」

 

 俺は、呼吸を整えながら情報を整理する。

 

 この森は絶対に普通じゃない。

 森の危険度を引き上げて探索しよう。恐らく、スライムだけじゃない、他の一ツ星魔物も異常だろう。

 

 記憶から、一ツ星魔物なのに一ツ星ランク以上の強さになる情報と、それが起こる場所を探るが、本で見たことも話で聞いたことも無いという結論に至った。

 

 情報が足りないってこともあるが、ここまで特異な森なら、噂になってもおかしくないハズだ。

 

 結局、現状何もわからないので、俺は《常識が通用しない森》ということにして、先に進むことにした。

 

 

 「…流石ミスリルソード。溶けてない」

 

 父さんの形見のミスリルソードは三ツ星と等級が高いだけあって、丈夫だ。

 ミスリル鉱という珍しい鉱石を用いて叩き上げられたこの名剣は、魔力を通せることで名が知れている。

 俺も魔力を通すことが出来るが、魔力操作が下手で、数秒しか剣に魔力を纏わせることしか出来ず、しかも魔力の消耗が激しくて疲れる。

 

 父さんと母さんはこれでも凄いと褒めてくれたが、俺自身まだまだだと思っているので、傲らない。

 

 

 スライムの内蔵はそのままにして、俺は歩を進めた。

 

 

 

 「お!これはニガシロ草!」


 俺の視界には辺り一面に広がる白っぽい色をした草が群生していた。


 ニガシロ草は薬草の一種で、この草を磨り潰して出る緑色の液体は傷を治すのに役立つし、苦いが飲めば体調を整えてくれる今の俺にはとても助かる薬草だった。

 

 ニガシロ草を摘まめるだけ採って、簡易物入れに入れる。

 このニガシロ草は保存が良く効いて、他の食べ物に貼っておけばその食べ物が腐りにくくなるというとんでも便利草だ!ただし、貼った食品は少々苦くなるのがネックか。

 

 俺はこのサバイバルにおいて重要な薬草が採れて浮かれていた。

 

 夢中で採って、前傾姿勢で突き進んでいた。

 だから、前方のヤツに気付くのが遅れた。

 

 

 「グルル…」

 

 途端に聞こえた喉の鳴る音に俺はビクリと身体を震わす。

 

 しまったと思った。俺はニガシロ草の採取に夢中になりすぎて、警戒を無意識に解いていた。

 俺は少し前の自分を殴りたくなった。

 

 だが、それは無理ということだ。

 こうなってしまっては、もはや俺は覚悟を決めて動くしかない。

 

 

 前方、4本程の木の向こう側に、大人の腰ぐらいはあるだろう大きさの白い毛が特徴的な《ダイアウルフ》が三頭、こちらを威嚇して睨んでいた。

 

 

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