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◆12月―1年の締めくくり。年間表彰があります。

プロ野球では、シーズン終了後に、ベストナインやタイトルを獲得した選手の表彰が行われます。


社会人野球でも、シーズンを通しての表彰があります。

かつては年間表彰はベストナインだけでしたが、近年は、主要大会での成績をもとに、プロ野球と同様に投手、打者それぞれ、最も高い数字を残した選手の表彰もあります。

毎年12月には、社会人野球で活躍した選手の、年間を通しての表彰が行われる。

ぼくが、そのことを知ったのは、ベストナインの候補に挙げて頂いたからだった。

最終的にぼくは、ベストナインの捕手部門で選んで頂けた。


ベストナインに外野手部門で選ばれた3ふ人の選手の中に、とても気になる選手がいた。



忘れもしない。社会人での初めての公式大会の最初の試合。1回表の先頭打者に初球ホームランを打たれてしまった。

チームが逆転して勝ち、この大会では優勝できたものの、ぼくの心の中では、苦い思い出として残っている。

その後、この時の対戦相手のチームへの移籍の話が持ち上がったのだ。ホームランを打たれた選手とは、都市対抗の決勝戦でも対戦した。

その選手は補強選手として出場していたのだが、同点だった場面で三塁打を打ち、次のバッターのタイムリーヒットで勝ち越しのホームベースを踏んだ。


足が速くて、バントなどの小技も得意で、その上、長打力もある。

対戦相手として見れば、手ごわい選手であるが、チームメートとなれば、大変頼もしい存在だ。



年間表彰の場で、その選手の人の顔を見ると、あいさつもそこそこに、

「まゆ毛、濃いですね〜」

と言ってしまった。


今時珍しい、太くて長いまゆ毛。

グラウンドでは帽子をかぶっているが、表彰式はスーツだから、まゆ毛の濃さがよく目立つ。

実はぼくも、まゆ毛は濃いほうだけれど、少し剃って細く整えている。


「ああ、濃いですね〜とか、極太ですね〜とか、よく言われるよ。『剃れば?』とも言われてきたけど、今は、剃らなくてよかったと思ってる」

「どうしてですか?」

「この、まゆ毛のお陰で、今の彼女が、ぼくのことを覚えていてくれたから」


まゆ毛さん(仮に、こう呼ばせて頂く)の彼女と、ぼくの彼女が、たまたま日本選手権で近くの席に座ったことから仲良くなったらしい。

ぼくの移籍の件は、まゆ毛さんのチームでは、日本選手権が終わるまで一応伏せられていたそうだが、まゆ毛さんは彼女経由で、

『対戦したチームのキャッチャーの人が、休部のために移籍してくる』

と、聞いていたとのことだ。


「で、ウチの寮にはいつ引っ越して来るの?」

「今月中です」

具体的な日にちももう決まったので、併せて伝えておいた。

「じゃ、待ってるよ。ちなみに、チームが新体制になってぼくがキャプテンになりました」


休部前の最後の大会となった日本選手権では優勝することができたが、これからは気持ちを切り換えなければならない。

移籍先のチームは、今年の都市対抗は出場できず、日本選手権はベスト4だった。

新しいチームで、まゆ毛の主将のもと、新たな思いで頂点を目指す。



移籍先のチームの寮への引っ越しを済ませ、年末には実家に帰省した。


夕方、実家でくつろいでいた時に、彼女から電話がかかってきた。

彼女の家は、いつもは忙しい時間のはずだが、年末年始の休みに入ったのだろうか。


「来年、家族のもとを離れて、一人暮らしをしたいと思っているんです」

彼女から聞かされ、ぼくは聞き返す。

「じゃ、お店はどうなる?」

「時々、兄の彼女さんが手伝ってくれているんです。わたしが大阪に行っていた間も来てくれていたそうで、兄と結婚する話も出ています」

彼女は、両親とお兄さんとで、お店を営んでいるのだ。

「どの辺に住むの?」

「あなたの近くに。でも、迷惑だったらやめます。会いたい時にすぐ会えるようにと思っただけですから」

「そばにいてくれるのか?」


「キャンプや大会があって、いない時もあるのは承知しています。でも、近くに住んだら、会えるチャンスが多いですよね?」


いっそのこと、二人で住まないか?

……なんていう言葉が、のどまで出てきたけれど、今まで遠距離だったから、恋人らしいことをしてみたい気持ちもある。


「一つだけ注文があるんだ。ぼくと話す時に、もう少しくだけた感じにしてもらえないかな。同い年でもあるんだから、ですます調じゃなくていいよ」

彼女は、

「はい……」

と言いかけてから、返事をし直すのだが。


「うん。わかりました」

またすぐに、いつもの調子に戻ってしまった。


「言葉遣いは、追い追い変えていければいいや」

「ごめんなさい。こんなわたしで……」


だんだん声が小さくなっていく。

電話の向こうで、目を潤ませながら身を縮めている姿が、目に浮かびそうだ。


「ぼくに申し訳ないなんて思わなくていいよ。君は奥ゆかしいけど、ただハイハイって付いてくるだけじゃなくて、ここという時にぼくを励ましたり、ねぎらったりしてくれる。できることなら、将来嫁さんになって、ぼくを支えてもらいたいんだ」

「将来のお嫁さん……わたしで大丈夫ですか?」

「うん。遠い先じゃなくて、近い将来の話だからね。引っ越してきたら、これからのことを改めてちゃんと話したい」


「あなたに会えたら……一緒にお出かけしたいです」

彼女は、先々のことを考えるより、まず、ぼくと一緒に過ごす時間を作りたいのだろう。


「そうだ、自分たちはデートしたことないもんな」

「誰ともデートしたことがありませんので……よろしくお願いします」

「え。今何て言ったの?」

「デート……した、ことが……」

「ない。って本当?」

「本当です。あなたは今までに色々ありましたよね。初めて会った時に、失恋の話をされたことを覚えていますよ。別の人と付き合っているのかなとか、今も特定の人がいないのかなとか、あのあと、ずっと気になっていました」


『色々』って、単にデートに限らず、深い意味で言っているのかもしれない。


ぼくが嫁さんにしたいと思った人は、他にいないからね――。



【おわり】→後書きへ

やっと完結いたしました。

本当は、去年(平成28年)の暮れまでに終わらせたかったんですけどね。

途中で、かなり手こずりました。

時間をかけたわりには、面白くない……なんて思われた方も、いらっしゃるでしょう。


この小説は、あらすじにも書いた通り、

「社会人野球について知ってもらいたい」という思いを込めて書きました。


個人的に、読むのも書くのも、ほのぼのしていてほんのり甘い恋愛ものが大好きなので、恋の話も詰め込んでしまいました。


他のサイトで長編のつもりで書いていたお話がいくつかありましたが、完結できておりません。

何となく、はっきりした結末を考えずに書いてしまっていたことに加え、内容がマニアックすぎるためか、なかなか読んで頂けないことを悩み続けていたからでした。

執筆活動を「小説家になろう」に移してからは、自分の書きたいお話を完結に向けて書くことと、大まかに筋道を立てることを考えています。


私の作品は、「小説家になろう」で流行するような異世界のお話ではなく、オンラインの小説サイト全般にありがちな、「顔も仕事ぶりも完璧で、モテモテの男性が、主人公と恋に落ちる」というお話でもありません。

ただでさえ、「小説家になろう」は作品数が多いですから、私などの小説(らしき物)が広く目に留まるはずはないので、「書きたいものを書いて完結させる」という点に重きを置いています。


少数でもいいから、誰かに読んでもらって、ホンワカして頂けたらありがたく思います。


次のお話の構想はまだ立てていませんが、

『大人の部活動』

には、こだわりたいです。



H29.1.3 こだまのぞみ

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