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「ありゃりゃん? オウチに帰ってきたと思ったらん、なんだか大変なことになってるわねん」


脊髄を撫で上げられるような不快な殺気。

粘りつくような喋り方の女の声。


それに思い当たるところがあった私は、顔を引きつらせながら振り返った。


「あらん? あなた、そう……捕まっちゃったのねん?」

「う、あ」


露出度の異様に高い中華服を着た、ボンキュッボンの女性。


暗殺者ギルドのトップランカー、通称「さそり」だ。

本名は知らない。私みたいに、ないかも。いや、私には一応、前世の名前はあるけどね。


ちょうこわい、見られただけで死にそう。

広げて口元を隠していた扇子を閉じると、さそりは死ぬほど綺麗に微笑んだ。


「こういうときって、みんな殺してよかったのかしらん?」


こてり、と首をかしげるその様が、美しすぎる人形のようにしか見えない。

悲しいけどこれ、殺戮人形なのよね。


とりあえず、ぶんぶん首を振ってみた。殺されたくない。


「殺しちゃダメ? そうなのねん? マスターのところへ連れて行けばいいのかしらん」


あ、ああー! 奇跡的に私の首振りを真に受けてくれたー!

殺気は超一級品だが、知能はそうでもないらしい!


いいや、一応、私も暗殺者ギルドの一員ってことになってるから、仲間だと思われているのかもしれない。

暗殺者だと思われるの嫌だけど、今はありがたい!


でもマスターっていうのは暗殺者ギルドのギルドマスターのことだよね!

勘弁願いてー!


「んー、でもん。これは一匹で、十分よねん」


さそりが扇子を振った。

私に見えたのは、それだけだった。



次の瞬間には、私の顔に、おびただしい血が降りかかっていた。



私の血じゃない。


隣を見た。

さっきまで、私の頭を撫でてくれていた、下っ端の騎士の首から上がない。


「ちょっと可愛い顔してるのねん。うふふん」


騎士の頭は、いつの間にかさそりの手の中にある。


両手で頭を持ち上げ、無邪気に眺めているその様からは、狂気しか感じ取れない。

頭を失って絶命した下っ端騎士の体は、ゆっくりと倒れていった。


そうなんだよ。

ここの暗殺者ってばみんな、世間話と同じテンションで人を殺す。


あ、私は、違うけど。

だから、暗殺者ってくくりに入れられるのが、嫌なんだよね。


「逃げろ、お嬢ちゃん!」


もう一人の騎士が、剣を構えてさそりに斬りかかる。


同僚がクビチョンパになったのを見てすぐ、こんなことができるなんて。

下っ端でも騎士は騎士ということか。騎士団、すごいなあ。


「どうしましょん、殺しちゃっていいのかしらん?」


逃げろったって、私、ぐるぐるに縄で巻かれてるんだけど。


さそりは迷っている。

だから、すぐに彼を殺しはしないだろう。


「ハァアアッ!」

「唾飛ばすのは、なしよん?」


激しい金属音が鳴り、さそりと下っ端騎士が打ち合う。

私にできることは、非常に限られている。


「ああん、忘れてたあん。一応、名乗らなくっちゃねん」


律儀か。


「わたくし、『さそり』というのん。お洋服は目に毒だし、話し方は毒々しいけどん。攻撃に毒は使わないから、安心してねん」


超絶なネタバレだ。


——覚悟を決めた。


私は転がって体勢を変えると、右……は利き手だから、左だな。


左手を、自分で思いっきり踏み潰した。


すり鉢で何かを潰すような、不快な音が響く。


うお、縛られているせいであまり力が入らない。


靴の裏に張り付いたガムをひっぺがすような、そんな乱雑さで。

私は自分の左手を、ゴリゴリと、骨ごとすりつぶした。

肉がちぎれて血が噴き出す。


死ぬほど痛いけど、こんなん、慣れっこだ。


見た目は最悪だけどな。

私がこの様を第三者視点でみてたら吐いてると思う。

だって、子供が、平然とした顔で、自分の手を自分の足ですりつぶしてるんだよ。


発禁ものだ。

失禁もするかも。


「とってもコンパクトになった左手」のおかげで、無理難題だと思われた縄抜けもできそうだ。

そう、手錠だってね、手首から先を手首より小さくできれば、簡単に抜け出せるんだよ。


左手の縄が解ければ、他の部分の縄も解ける。

全身のいろんな関節をちょっとずつはずして抜け出せば、完璧。


3秒で抜けれた。私も腕を上げたな。手は無くなったけど。



はい、くだらないこと言ってないで、ダッシュで逃げます。



さそりにも下っ端騎士にも、目をくれなかった。


私がいるべきところはここじゃないし、私のすべきことも、ここにはない。





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