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気がついたら異世界にいた。
体は10歳くらいに縮んでいて、言葉もわからない。
そんな無力な子供になってしまった私は、なんの因果か暗殺者ギルドに拾われて、育てられていた。
そんなこんなで、5年くらい経ちました。
しんどいです。
生活は地獄だった。
うーん、あえて詳しく描写するのは避けたほうがいいかもしれない。グロいんだもん。
訓練の最中、私の体には無数の古傷ができた。
何人もの同じ境遇の子供達が死んでいくのを見たし、私自身そんな子供を何人も殺した。
殺し合いをさせて、有能な子供だけを選別していたのだ。
殺されるくらいならと思ってしまった私は、殺してしまった。
ひとまず生存競争に勝った私は育てられることになったが、そっからも最悪。
小柄なほうが狭い場所にも入っていけるので、栄養は最小限なのだ。
つまり食事は満足に与えられない。
体は幼くなったが、記憶はそのままだった。精神もそのまま。一応成人してたんだよね。
同じように育てられていっている仲間が、どんどん死んでいくのを見ている。
それに慣れることはない。死ぬのは怖い。
だから戦う。人を殺す。
最悪だ。死にたい。
でも、最初に死にたくないと思って人を殺してから、簡単に死ねなくなってしまった。
自分で死ぬなら、あの子を殺す前にすべきだったんだ。
一応、異世界っぽいこともあった。
体を循環する熱いエネルギーがある。
それはこの世界に来てから知覚できるようになったものだ。
それを血液のように、ぐるぐると回していると、体の動きが良くなるのだ。
アクション映画のような動きができる。ときには、冗談じみた特撮ヒーローみたいな動きも。
ただ、そのエネルギーは溜めすぎると暴走しやすいみたいだ。
普通に暮らしているだけで溜まっていくが、溜めすぎると体の中で爆発する。すなわち死ぬということだ。
異世界人には、その力を勝手に放出する器官がもともと備わっている……らしい。私には存在しない。
それを知ったのは、拷問を「受ける」訓練中、私を軽く切り刻んでいた同僚に、怪訝な顔をされたときだ。
私にはよくわからんが、普通はある臓器? 部位? がないのだと。それもどうやら生まれつき。
そのままだと普通、そのエネルギーがたまり続けた結果爆発して死ぬので、生きているのが不思議だと。
検証の結果、どうやら私は、ギルドの育成方針により奇跡的に命をつないできたようだった。
最小限の食事により、熱いエネルギー……それは魔力というのだが、それは最小限しかたまらなかった。
そして魔力は血液と一緒に循環している。つまり、血液が外に流れ出せば、魔力も外に流れるのだ。
私は過酷な訓練により、常に血を流していた。
だから生き延びられたのだ。
その点に関してだけは、ギルドに感謝している。
そして、某月某日。
暗殺ギルドが引き受けたのは、ある国の騎士団長の暗殺だ。
私はその任務を任された。
長期任務だ。1ヶ月の猶予が与えられている。
私はギルド内で、いつ切り捨てられてもおかしくない、ギリギリの無能を装っていた。
重用されると、たくさん任務を押し付けられるのだ。
だからギルドで頑張って仕事したくないのだ。働きたくないでござる。
人はできるだけ殺したくなかった。
有能な暗殺者を装って、簡単にこなせる仕事を山ほど与えられるより、無能な暗殺者を装って、失敗した時に死んでもおかしくないような危険な任務をたまに押し付けられるほうがマシだと思っていた。
遠回しに、死にたかったのかも。
でも今まで3回は任務を与えられたけど、なんだかんだ成功させてしまった。
あ、1回は結果的に失敗だったんだっけ? 殺すには殺したんだけど、相手がじつは不老不死だったらしくて、死んだあと蘇ったんだ。
でもそれで怒られるの私だからね、納得いかないわ。
調べ不足のせいでしょー! 不死身とかずるいわ!
今回も、死んでもおかしくないような難しい任務だ。
暗殺対象の騎士団長を観察していて、私はそれに十分、気がついていた。
彼には一切の隙がない。私には到底、殺せないような相手だ。
彼女だけでなく、暗殺者ギルド内のほとんどの人物が暗殺することはできないだろう。
それでも暗殺しなければならない。
失敗するとわかっていてもやらなきゃいけない仕事なのだ。多分、政治がらみだろう。暗殺者ギルドの運営がらみ。
精一杯騎士団長の暗殺に励みましたが、惜しくも失敗してしまいました。
こんな結果が欲しいのだろう。
つまり、私は捨て駒だ。
仕事をしたら、間違いなく対象に返り討ちにされて殺される。
でも、仕事をしなくっても、そんな無能な暗殺者は必要ないと言われて、同業者に殺されるだろう。
はー、まいったまいった。
社会人ってしんどい。