勇者の相談
さて、楽しい回想は終わった。後は見張りをしながらここまで来たわけだが・・・
「だからこの町は――。こういう訳でして――。」
おいおい、まだ村長の話が終わってないぞ。流石にシグルドも疲れて来ているな。
荷物は殆ど降ろし終わり、荷台で寝てるエルメスに
「おい!エルメス起きろ!目的のフウランに着いたぞ」と声をかけた。
「むにゃむにゃあと5分だけ・・・。あぁ!玉子がガルーダを食べてる!むにゃむにゃ」
コイツ親子丼好きすぎだろ・・・!つか、玉子が鳥を食うなよ!?と心の中で突っ込みつつ。
「起きろ~起きろ~起きないとガルーダ食べちゃうぞ~」
「ふぁっ!ガルーダ?!どこだ?」
ふぅ。やっと起きやがったか・・・。呆れた顔をした俺を見て顔を赤くして掴みかかってきた。
「 騙したな!」
だって起きないんだもーん。しょうがないじゃーん。と弁明?をしているとツェンとシグルドが
こっちに来た。
「あ、起きましたか?良かった~。こっちも話終わって・・・やっと解放されました。助けてくれてもいいじゃないですか」と恨みを込めて言ってきた。
「シノギさん、少し騒ぎすぎじゃないですか?村長がこっち見てますよ」
それは面倒くさいな・・・。面倒くさい。大事なことなので2回言った。
でも避けられないのよね・・・。よし!気合いは十分だ。
俺はヨシノに近づくと
「少しいいか?村長」
「はい?なんですか?」
今から大事なことを言うぞ
「ここの町長宛てに届け物がある」
怪訝な顔をする村長。それがどうした?って感じだな。ここまでは普通の対応だ。
「実は魔族がそれを届けに来た。正式な使いらしい」
サァッと顔色を変えるヨシノ。
「それは・・・本当ですか?魔族がここに・・・いるとおっしゃいましたか?」
あの饒舌な村長が・・・なんということでしょう。
「それで聞きたい、この町は魔族に対する考えはどんな感じだ?」
「この町に魔族が・・・!」
ヨシノは震えて俯いている。流石に心配だな。
「おい?大丈夫か!」
まぁ、これが普通の魔族に対する反応だわな。両サイドのお偉いさんは納得していても、下の人たちは急激な環境の変化に付いていけていない・・・。ついさっきまで殺しあったヤツと直ぐに仲良くなんて出来ないよな。
「言いたいことは分かる。だけどその魔族は今のところ穏便にコトを済ませようとしてくれてる。魔族も仕事だから断れないらしいし」
お、震えが止まった。大丈夫かなヨシノ。
ちょっと待つかな・・・。
「その魔族に会わせてください!!」
はい?今なんて?
「この子がエルメスだ。エルメス、挨拶は?」
と、俺が仲介に立って促すと
「わた、私はエルメスだ。今日はフウランの町長に届けたい物があって、この町まで来た」
促した俺の足を踏みながら用件を伝えた。緊張を解そうとしただけなんだけどなぁ。
「これは親切にどうも・・・。私はヨシノと申しまして、この村の村長をやらせていただいています。あの?不躾な質問になるかもしれませんが、その、貴女が本当に魔族なのですか?私にはどう見ても普通の人間の少女にしか見えないのですが?」
やましいことなんてしていない!と証明するかのように髪をかきあげ耳を見せるエルメス。
「この尖った耳が私が魔族である証拠だ。少し人間と違うだろう?」
「ふむ」
何かを考え込むように黙ってしまった。
「少し話を整理させてもらってもよろしいですか?」
俺とエルメスが頷くと、また考え込んでしまった。
沈黙が世界を支配している・・・。もし沈黙が魔王だったら世界征服されていたな・・・危ない危ないとか馬鹿なことを考えていると
突然ヨシノは顔をあげると
「改めて聞きますが、危害を加える気は本当にないんですね?私的には内密に町長のところまで行ってしまえば良かったと思いますが?」
「そうだな。私の仕事はこの届け物をフウランの町長に届けることだ。危害を加える気は毛ほどない。ただ、シノギは見つかった時に揉め事が起きるからきちんと話をつけておけ・・・と言っていたから」
頬を染めこちらを見るエルメス。うん。何も変なことは言ってないよ?
「そういうことでしたか。
私が思っていたよりも魔族というのは人間に近い者なのですね・・・。もっと暴力的で話の通じない相手だと聞いていたので」
と苦笑しながら言うヨシノ。
「それは私たちもだヨシノ。人間は野蛮で話の通じない相手だと聞いていたよ」
同じく苦笑するエルメス。
なんだか和んでるな。と呑気に考えてると
「分かりましたエルメスさん。私の一存でありますがこのフウランは貴女を歓迎しますよ!」
突然のお許しにビックリする俺らを尻目に
「ただし!条件付きになります。これを了承してくれないのなら残念ながらこの町から出ていってもらいます」
更にビックリする俺ら。
「その条件とは?」
緊張しながら聞くと
「それは・・・魔族も人と同じ法で動いてほしいということです。それが出来ないのなら・・・」
「ちょちょちょっと待て!条件付きてそれか?」
途中で話を遮ってでも聞かねばならない
「はいそうです。これが出来ないのならこの町へ入れてあげることは出来ません!」
必死だな・・・ヨシノ。そして強気だな。
エルメスが何も言わないので
「どうしたエルメス?」
「いや、拍子抜けしてしまってな。条件付きと言うからどれだけ厳しいのかと思ったら」
思わずといった笑みが零れる
「その条件飲ませてもらう。それで私はどうすればいい?」
その言葉にヨシノは笑顔になって
「そうですか!良かった・・・。皆さん、宿は決まっていますか?よろしければ私の家で一泊していってください」
「俺はそれでも構わないけど、アイツらに聞いてきていいか?エルメスはいいよな?」
「構わない、聞いてきてくれ。ヨシノ、改めてありがとう。魔族ということを受け入れてくれて。この町は優しいのだな」
と言うと顔を曇らして
「いえ、その、私の管理するフウランの町は大丈夫なんですが他の管理者たちはどう思うか・・・分かんないんですよね・・・」
不思議な顔をするエルメス。あぁ、その顔は初見の俺と一緒だな。
「すまない、ずっと不思議だったんだが、フウランは[町]なのにヨシノは[村長]なんだ?」
それも俺と同じ質問だな。こっちの二人は流石に知ってるのか笑っているが
「あぁ!説明してませんでしたね。ですがその話は私の家へ向かう道中で話しましょう。ほらお三方も、もうこちらへ来てますし」
「俺たちは話ついたぞ、二人ともお世話になる。自己紹介は済んでるよな?」
頷くと
「それでは私の家へ向かいましょう。そちらの馬車は使っても大丈夫ですか?」
ヨシノはさっきとうって変わって元気に戻ってるな。そんじゃ向かいますかな
――フウラン北部――
カラカラと車輪の音が鳴るなかヨシノは話し出した。
笑いながら慣れた感じで
「この町は多くの村が集まり混ざって徐々に大きくなって出来た町なんです。それで流石にこんなに多くなったら管理しないとヤバイだろ、ということを私たちのご先祖様は思ったらしく、4つに東西南北に村を分けました。私の管理している土地はその中でも北部にあたります。だから私はフウランの町の北部の村々を担当している村長というわけです。やはり皆さん同じようなことを聞きますね。だから貴女の探している町長は、この町の総合管理をしている人ということになりますね。彼女はとても――」
おおう、始まってしまった。
「――というのが町なのに村長という職業がある理由ですね」
お、終わった。エルメスも終わった。
「それは分かりましたから、それよりも魔族であるエルメスが人の町に入って大丈夫なんですか。いくら村長といえど村人の反感を買うんじゃないですか?」
微妙な顔をしながら
「それは私がどうにかします。明日、北部の村人に伝えましょう。混乱はあるかもしれませんが、なんとかしましょう。私、これでも村長なので」
おお!かっこいい!
「ですけど、こういうことって前例がないんじゃないですか。魔族がきたら基本、戦争一歩前みたいな感じだった気がするんですけど――」
ガタッ!ん?馬車が止まった・・・、着いたのか。
「おっと!家に着きましたね。その話も含め、話は入ってからにしましょう。ようこそ!私の家へ」
これで一段落だな・・・。あれ?なんでフウラン来たんだっけ?エルメスは関係ないような・・・。